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073 共闘

「……ッ!」

「そーい!」


スーゼンが毒を塗った短剣でオーガの動きを止め、アストが【加速】で接近したのちにトドメを刺す。


初対面だとは思えないほど息がピッタリ合っていた。


二人で倒した数は十匹を超える。


だがそれでも五十匹近くが生き残っており、徐々にだが防衛拠点に迫っていた。


一匹でも逃すと、Cランク以下しか居ない防衛拠点では迎撃にどれほどの被害が出るか分からない。


勿論、その時はマルクやソラーゲンがその前に倒すだろうが、それは最後の切り札だ。


だからと言って、アストにはオーガを単騎で処理出来るほどの余裕はない。


「レベルが上がったけど、どうしようか」


Bランクの魔物という事もあり、膨大な経験値を短期間に獲得しレベル31に到達。


SP80も獲得し、ホクホク顔である。


現状、全てのステータスは装備込みでオーガを僅かに上回る。


上手く割り振れれば、それこそ単騎での撃破も夢では無い。


「お、おめでとうっ」


アストの独り言に律儀に祝福の言葉を送るスーゼン。


ふとアストは疑問を抱き、尋ねてみる。


「スー先輩はレベルいくつ?」

「えっ、レ、レベルはね……4、48だよ?」

「高っか!?」

「そ、そう、なのか、な? ひ、人と比べたことな、ないから……」


予想以上に強かったスーゼンにアストはまた新たな疑問が湧いた。


「……ステ振りの傾向とか聞いてもいいっすか?」

「え、えっと……ま、まって……」


そう言うと具体的な数値を答え始めたので慌てて止める。


「そ、そこまで言わなくて良いですから! 大切な情報なんだから、人に言っちゃダメ!」

「そ、そう? アストくんなら、か、構わないけど……」


(この先輩チョロすぎて心配になってきた)


人の事を言えた分際では無いアストだが、素直に人の良いスーゼンが心配でたまらなくなる。


(でも敏捷が1000超えてたなぁ)


素の敏捷値がアストの【加速】込みの740よりも断然早かった。


恐らく、敏捷に関するスキルを保有しているのもあるだろうが、それでも圧倒的な強者であることに違いは無い。


今回は相手(オーガ)が脳筋過ぎたから、本領発揮出来てないだけのようだ。


「こ、今度はに、二匹だよっ!」

「各個撃破は無理そうっすね。……どうします?」


二匹揃って移動するオーガを発見し木の影に隠れつつ、どう倒すか考える。


「……ど、毒煙を使うから、ア、アストくんはコレをの、飲んで」

「あいさ〜」


手渡された小瓶に入っていた液体をノータイムで飲むアストに、髪の奥から目を丸くしながらソラーゲンは小袋を取り付けた短剣をオーガ達に向かって投擲。


足元に突き刺さった短剣から白い煙が一瞬にして辺りを充満する。


「スンスン……何これ、オーガの臭いが分かるよ!?」

「そ、それは鼻をび、敏感にする毒だ、だよ」

「毒スゲェー」

「あ、あの煙は、に、臭いを強めるんだっ」

「僕達には臭いでオーガの場所が把握出来るというわけですねっ! スー先輩ナイスゥ〜!」


毒と言いつつ、ほぼ万能なナニカと化したスーゼンの引き出しの多さに素直に尊敬するアスト。


視界が利かないオーガ達をいつものコンボにより、倒し去る頃には煙も晴れ、臭いも消え去っていた。


「スンスン……もう何も臭わない」

「た、短期間だけにし、しないと森でつ、使えないから……」


人間より遥かに鼻の良い魔物などいくらでも居るからこその短期決戦用なのだろう。


どうやら消臭効果も付いていたようで、体の至る所に生臭い血の匂いがこびりついていたアストはほぼ無臭になる。


「自分で作ってんすか?」

「う、うん……【中級薬術】をも、持ってるからっ」

「もはや魔法の域っすね」


毒というより普通にポーションと名乗った方が良いのではと思うアスト。


「回復系は作らないんすか?」


そんな高ランクのスキルなら、【R】ランクの回復ポーションも作れそうなものだと、本日何度目かの疑問をぶつける。


いい加減うんざりされそうなものだが、スーゼンはむしろ嬉しそうに答える。


「そ、素材がた、足りないんだよね」

「あ〜」


納得行く理由であった。


(これはやっぱり、ダンジョンドロップでゲットしないといけないっぽいね)


いざって時の保険に大量に欲しいお年頃である。


この世界では腕は良いが、素材が不足して満足して生産活動に勤しめない職人で溢れかえっているのだろう。


それらを解消する為には、レア装備を身にまとった冒険者を沢山用意し高ランクダンジョンに潜らせる必要がある。やはりアストがレア掘りして余らせた武器や防具を大量に市場に流すしかないのだろう。


益々自分の目指すべき先が明確になりやる気に満ち溢れる。


「こんなつまらない戦闘はとっとと終わらせてダンジョン行くぞっ!」


ドロップ品のひとつも落とさない経験値モンスターなどお呼びでないのだとアストは語る。


「次会う時はダンジョンだからな! オーガ共!」


何が何だか分からないうちにアストが燃え始めた訳だが、スーゼンは引く訳でもなく静かに観察しているだけであった。


こういう所も『蛇男』と呼ばれる所以なのかもしれない。


「ア、アストくんは……ひ、一人で生きてるんだね。で、でも……お、思いやりに溢れてるよ」


矛盾してそうな言葉を零すスーゼンのつぶやきはアストには聴こえていなかった。




「オラァ! あーははっ! どうしたぁ! オーガァ!! アタイが怖いかっ!?」


一騎当千の活躍を見せるのはBランク冒険者になったばかりのジュラであった。


彼女は【中級剣術】と産まれ持った【超力】を遺憾無く発揮させ、一振りでオーガの胴体を真っ二つに斬り裂いていく。


腕力の数値だけなら1500を超えておりBランク冒険者の中でもダントツトップだ。


頑丈値が300程度のオーガでは相手にならない。


その代わり、魔力と知力、精神は初期値という、筋力99という数値にときめく褪せ人が聞いたら喜びそうな脳筋ビルドである。


「ちっ……オラァ!」


そんな無双している彼女にも弱点はあった。


長期戦だ。


腕力に振りすぎた結果、その腕力を十全に振るう為の体力の消費が半端なく、次第に動きが鈍くなっていく。


(クソっ……コイツらアタイがへばるのを待ってやがる)


距離を置かれ、中々近づいてこないオーガ達に苛立ちが募る。


器用値がさほど高くない事から、気力を圧縮して飛ばす斬撃のコントロールが下手くそであり、それなりに素早いオーガにはほとんど当たらない。


距離を詰めようにも、やはりそれなりに素早いオーガ相手には無意味。


徐々にオーガの包囲網がジュラを苦しめる。


万事休すかと思われた矢先に、二人の冒険者が飛び込んでくる。


「ジュラさん飲んで!」

「おう!」


アストに手渡された小瓶を飲み干すと同時に、煙が辺りを充満し視界が見えなくなる。


アストは追加で体力回復ポーションをジュラの頭にぶっかける。


「さあ、やっておしまいジュラさん」

「ははっ! 最高だぜ、お前らぁ!!」


ジュラは何故か、オーガ達の場所が臭いで分かったが、そんな瑣末(・・)な事など気にせず慌てふためくオーガ達を斬り裂いていく。


煙が晴れれば、そこには追加で六匹のオーガの死骸の出来上がりである。


「んっ〜! 気っ持ちぃぃ〜! あぁ〜スッキリしたわ〜」


ジュラは溜まっていたフラストレーションを全てオーガ達にぶつけられたので、背伸びをして身体の凝りを解しながら眩しい笑顔を浮かべる。


「いやぁ〜壮観だねぇー。あんなに強いオーガさん達をそこら辺の雑魚みたいに……まさに一騎当千だね」


しみじみ言うアストにジュラが興奮したように近付き、背中を思いっきり叩く。


「お前よ! お前様よ! 来てくれるって信じてたぞっ!!」

「痛い!? 痛いからやめてぇ!? なんか折れそうだよ!?」


ビシバシは叩かれるアストは、割とシャレにならないダメージを負いそうになる。


念の為に自分にも体力回復ポーションを使用する。


「ジュラさんには僕が出てくるって分かってたの?」

「あん? んなもん、お前の目を見てれば分かるぞ。何かを企んでいた目をしてたからな!」

「マジか……これからはジュラさんの時は目を瞑ってよう」


アストの奥の手であった完全体アストを見破られていた様だ。


(そういえば、冒険者ギルドの時は大して強くなってなかった筈なのに、強くなり過ぎだって喜んでたなぁ)


どうやら、強さというはレア装備の有無だけではなく、レベルの高さもその者の強さを感じ取らせる効果があるようだ。


短期間にレベルを上げまくったアストの急な変化を、野生児なジュラは直感で感じ取っていたらしい。


「そういえば確かに、僕よりレベルが高い人はみんな強そうなオーラが出てるもんね」

「おっそうなのか? アタイはなんとなぁ〜く強そうだなって思った奴は大体強かったぞっ!」

「じゃあ、スー先輩も強そう?」


まるで知り合い同士の会話の邪魔をしてはいけないみたいな感じで、背景に溶け込んでいたスーゼンをアストは引っ張り出す。


「ん? おおっ! すげぇ〜つえぇーな、ソイツ! アタイより強いんじゃないか!?」

「スー先輩凄い……」


一緒に共闘してたから強いのは分かっていたが、分かりやすいぐらい無双していたジュラが自分より強いのだと言ったのだ。


アストから尊敬の念を、ジュラからはギラギラの闘志を、一身に受けたスーゼンはアタフタする。


「そ、そそそそんなこ、ことない、よっ! み、みんな、そ、それぞれつ、強いっ!」

「へへっ。まぁな! アタイの方が力は上だ!」

「女の子としてのアピールポイントとしてはどうなの?」


チカライズパワーな世界に生きているジュラに、アストは一抹の残念さを感じていた。


「オラァ! 次探しに行こうぜ!」

「もうっ! 乱暴なんだから! まあ、行くけど。スー先輩行きますよ〜」

「う、うん……ま、待ってっ」


バシンッ! と背中を叩かれ、ジュラはいきなり走り出すものだから、危うく転びそうになるアストはボカーンとしているスーゼンに声を掛けながら後を追う。


そんな二人を後ろから眺めていたスーゼンも後を追いかける。


髪に隠れている彼の口元は綻んでいた。

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