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071 真打?

ギルドマスターであるソラーゲンは焦っていた。


元々厳しい戦いになる事は分かっていたが、準備も人員も何もかも足りない状況での開戦。


その最中に、Aランク冒険者が三人も来てくれたのは僥倖であった。


もしそれが無ければ、元Aランク冒険者とはいえ、現役を退いてから久しいソラーゲン一人ではどうにもならなかっただろう。


だが、残酷な事に予想以上に相手が手強かった。


オークまで死傷者は多少出たものの、ほぼ被害無しでやってこれた。だが、それも百匹程度のオーガにより覆されそうになっている。


「クソっ。やはり同格のBランクじゃ、厳しいか!」


Bランク冒険者は三十名程度。これでも国内最大規模の人数が揃っている。


だが相手はほぼ同じレベルのステータスを誇るBランクの魔物オーガ。


例えるなら三十名のBランク冒険者と百名のBランク冒険者がぶつかり合うようなもの。


勝敗は火を見るより明らかである。


そんな前線をオーガキング討伐の為に、体力を温存し戦うも圧倒的な実力を示す『二代目蒼鬼』ガゼルと、負った傷を即座に回復魔法で癒す事で未だに死傷者も負傷者も出さずに済ます『死の拒絶』デズニーの活躍が大きかった。


この二人だけではない。


彼らのパーティ『蒼鬼の帰郷』の面々も八面六臂の活躍をする。


ガゼルの妻であり、伝説の踊り子であった『艶やかな舞闘』マイリヒは戦場を踊るように駆け回り、鞭による中距離からの攻撃で仲間をサポート。


その息子と娘である『三代目蒼鬼?』メットと『鬼娘』ケルはCランクでありながらマイリヒのサポートを得て、オーガと互角の戦いを繰り広げる。


誰が欠けても戦場が崩壊し、オーガ達が防衛拠点まで流れ込んでくるだろう。


そうしたら地獄絵図のような惨劇が待っている。


「どうするっ!? 邪悪魔(イビルデーモン)は居ないと決めつけてマルクを出撃させるか!?」


Aランク冒険者の中でも実力者であるマルクが出撃すれば、被害なくオーガキングまで倒し切れるだろう。


だが読み違えて、邪悪魔(イビルデーモン)が後から現れたらお終いだ。


邪悪魔(イビルデーモン)の強さはAランク最上位。


全快のマルクですら倒せるか怪しい怪物。


「いっその事、俺が出るか!? 今はもう全体指揮をする必要もない。どの道オーガ共を倒さなきゃ俺達の負けだ!」


曲がりなりにもAランク冒険者だった自分なら、前線に立つ冒険者達の負担をかなり軽減出来るだろう。


本来なら、マルクが敗れた時、邪悪魔(イビルデーモン)のとどめを刺す役目を担い、それが叶わないなら全員が街の最終防衛ラインまで避難する時の囮である。


最後の保険の役割を放棄し、現在の被害を抑える事を選ぶか。ソラーゲンは額に血管が浮き出るほど悩み続けた。


「……よし。出るか」


それがソラーゲンの判断である。


マルクが確実に邪悪魔(イビルデーモン)を倒してくれる事に賭ける。


その道しかない。


一抹の不安を抱えながらソラーゲンは現役時代の相棒のガントレットを手に取る。


そんな時であった。


彼一人しか居なかった矢倉に、一人の男が飛び上がってきた。


背を向けていたソラーゲンだが、直ぐに気配を察知しそちらを向こうとする。


だがその前に、男はソラーゲンに話し掛けた。


「そろそろ真打の登場じゃないですか? ギルマス」

「……アスト、あのなぁ……今は非常事態なんだぞ。後にしてくれ」


ソラーゲンは少し呆れつつ今度こそ振り返ると、そこにはわざわざ背中を木の柱に預け腕を組むイキな演出をするアストが居た。


「俺はこれから前線に出る──っな!?」


アストの姿を視界に入れた瞬間、ソラーゲンは大いに驚くことになった。


少し前までのアストとは全く違う、段違いの強さを感じさせたからだ。


腰に差す二振りの片手剣と、牙の首飾り、鉄の腕輪。そのどれもが一目で強力で希少なものばかりだと分かった。


それらの恩恵もあるだろうが、アストの素の実力もかなり増したように感じ取れる。


「だからこそですよ。だからこそ、真打の“僕“が必要じゃないですか?」


不敵な笑みを浮かべるアストに、ソラーゲンは一瞬硬直した後に、笑う。


「がははっ! そうかそうか、お前ならやれる(・・・)か! いつもこちらの期待を超えてくれるなっ! アストォ!!」


ソラーゲンはここ数年で一番愉快だと笑い、いつもの凄みのある笑みをアストに向ける。


「よしっ! ならば前線はお前に任せたぞ?」


拳を突き出すソラーゲンに、アストも同じく拳を突き出し合わせた。


「まかせて」


互いに不敵な笑みを浮かべたまま、ソラーゲンはアストの顔面を鷲掴み──アイアンクローをかます。


「えっ……なん……あいたたたっ!?」

「それはそうと……最初から本気を出さんか!!」


至極真っ当な正論に、涙目になりながら言い訳を始めるアスト。


「だ、だってぇ……耐久値が減った時の回復する手段が無かったんだもん! 苦労して手に入れたのに使い捨てにしたく無かったんだもん! ほ、ほら、今なら【下級剣術】を取得出来たから、気力を剣に纏わせることが出来るようになったし、耐久値を気にしなくても良くなったんですよっ!!」


一応筋の通る話ではあったからか、ソラーゲンはマルク同様にため息をついて手を離す。


「はぁ……まあ、気持ちもわからんわけではないけどよ」


そう言い、長年付き添った相棒のガントレットを撫でる。


(俺もコイツを使うのはいざって時だけだと決めてたしな)


【SR】猛る武将の手甲

[攻撃力1425 耐久値78]

[【攻撃力上昇・中】【五連撃】【外装・気】【超再生】]

[体力+800 気力+2000]


「【SR】じゃないですか!? しかも、強い……でも耐久値が」

「勝手に触るなよ……はぁ、お前は本当にレア装備とかに目が無いんだな」

「あいたたたっ!?」


武器や防具の詳細が知りたいなら触れなければならない。その為、ナチュラルにガントレットに触るアストに再びアイアンクローの刑を処す。


「た、耐久値は回復させないんすか?」


アストの一言にソラーゲンは目を伏せる。


「したくても出来ねぇのさ。……回復させる手段は限られている。……俺が引退した理由でもある」


他大陸を駆け回り、ドワーフの国にも赴いた。


だが【SR】ランクの武器を修復させられる人間など居なかった。


正確には見つからなかった。


噂で錬金術師でありSランク冒険者『錬金姫アルケミーオブハイネス』アルテジアなら修復ポーションを作れると知り、一縷の望みを賭けて冒険者ギルドのギルドマスターにもなったが、その頃には彼女の目撃情報がめっきり入らなくなった。


(あれから十年か……もう、今更冒険者に返り咲くなんざ無いだろうと思ってたんだがな)


目の前のアストが現れるまでは。


「お前ならいつか、すんなり手に入れて来るんだろうな」


何せ【SR】ランクの修復ポーションは元々ダンジョンでドロップする物なのだから。


「ん? 何かお探し? ダンジョン産なら取って来ますぜ〜?」

「そうだな。Bランクにでも上がったら頼むとしようか」


アイアンクローの手をそのままアストの頭に乗せ、髪をくしゃりと撫で付けながらも、その表情は真剣そのものであった。


アストもソラーゲンが本心から欲しいものだと察し、真剣な様子で頷く。


「必ず手に入れてみせます。あっ、そうだ。ならコレを」

「ありがとよ。さて、未来の話に花を咲かせすぎたな。そろそろ行ってこい、『秘宝狩り』!」

「ちょっ!? 乱暴過ぎない!?」


照れ隠しにアストの背中を力強く叩き、矢倉からたたき落とす。彼が何かを言いかけていたが、ソラーゲンは気付かなかった。





ギルドマスターの許諾を得て、アストは三度目の出撃となった。


一度目は、守る為に。


二度目は、役割を果たす為に。


三度目は、未来の約束を果たす為に。


「てめぇーらァ!! ありったけの声援をぶつけろォ!! 前途有望な冒険者になーーッ!!!」


「「「「アストォーー!! 任せたぞぉーーッ!!」」」」


声援を背中に受け、アストは拳を突き上げ応える。


「まっかせろぉ〜!」


敏捷値370になったアストは【疾風】の効果である空気抵抗の軽減もあり、凄まじい速度で一気に前線まで駆けた。


そして近場に居た、手足の長いBランク冒険者と戦っていたオーガに奇襲を仕掛ける。


「ふっ! ……っし!! 取ったど〜!」


背後からの一突きにより、オーガは絶命する。


元から全身血塗れで今にも倒れそうな個体だったのは内緒である。

 

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