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070 僕はまだ本気を出していないだけ

アストが戻った頃には他のCランク冒険者達も戻っており、Eランクの冒険者達に手当てなどされていた。


「アスト君! お疲れ様だね……っ!? ごめん気付かなかったっ」


マルクが笑顔で駆け寄ってきたが、アストの様子を見て自分のポーチからポーションを取り出す。


「さあ、気力回復ポーションだよ」


アストは度重なる戦闘により、気力がほぼ底を尽きそうになっていたのだ。


マルクから受け取った気力回復ポーションを見て、面倒臭さそうに頭から被ろうとし、マルクに腕を掴まれ止められる。


「これはね、飲んだほうが効果が効きやすいんだ。面倒臭いだろうけど我慢して飲んで欲しい」

「……」


普段のアストならしないようなイラついた様子で、ポーションを口につけて飲む。


飲み干したまま少しボケーッとしたあと、アストは身体の奥がじんわり温かくなったのを感じた。


そして今まで何処に行っていたのかやる気が湧いてくる。


睨み殺さんとするほど細められた目は、普段の眠だげながら好奇心に溢れるものに戻る。


「うぉーーっ! なんか分かんないけどやる気が戻ったよ!」


両手を突き上げ、自分の不調が消え去った事に驚く。


「それはね、気力を大量に消費して底を尽きそうになると、何もかもどうでも良くなってしまう症状が出てくるんだ。無気力症とも呼ばれているね」

「ありがとうマルクさん! まさか、こんな落とし穴があったなんて失念してたよ〜」


アストはソロ故に、【加速】を取得しても使い込むような事はせず、常に余裕のある戦いをしていた事が仇となった。


「しかし驚いたよ。遠目からは普段通りに見えてたからね。近寄って初めて気付くレベルで君は変わらな過ぎた。本来ならもっと戦い方が大雑把になったり、直ぐにイラついて怒鳴り散らかしたりとするのに」

「へぇ〜無気力なのに、怒鳴る元気はあるんだ」

「そういうタイプも居るってだけの話だよ。ほら、何もしたくないのにやらされているような感じがしてイラッとしてしまうみたいな」

「なるほどぉ〜……あっ、もしかして【節制】と【低燃費】というスキルが影響してる、かも?」


【節制】

[多くの食事や水分を取らなくても体調を崩しづらくなる]


【低燃費】

[少ない食事と水分で体調を維持出来る]


〖N〗ランクの【節制】とその進化スキルである〖R〗ランクの【低燃費】だ。


ダンジョンでパンと水だけの質素な食事を続けた末に、連続して取得したものだ。


「……なるほど。それらのスキルにはそんな副次的な効果もあるのか。……アスト君、もしかしてお金に困ってたりしない? 街に帰ったら何か奢ろうか?」


博識なマルクは、【節制】の取得条件もおおよそ知っているようで、あらぬ誤解を受ける。


アストはそんなマルクの様子を笑い飛ばしながら、訂正する。


「あははっ! 違うよ。普通にダンジョンに潜ってる時は必要最低限しか食べないようにした結果だよ〜。でも、奢ってくれるというなら、たらふく御馳走になろうかなっ♪」

「なんだ、心配して損したよ……ふふっ。君らしさが戻ってきたね。もちろん、奢らせてもらうよ。これでも稼いでいるからね」

「おっ、言ったなぁ〜」


調子が戻ったアストはマルクと楽しく会話を重ねる。




戦場ではジュラ達がオーガ達と激しい戦闘を開始していた。


『蒼鬼の帰郷』はオーガを処理しながら、最後尾に居るオーガキングの討伐を目指す。


マルクはいつ姿を現すか分からない邪悪魔(イビルデーモン)に備えて、体力温存。


(このまま終われれば……何よりなんだがなぁ)


いっそのこと邪悪魔(イビルデーモン)など居らず、オーガキングが卓越した指揮の元、この軍勢を率いてきたとかであれば良いのにと、ギルドマスターは思わずにはいられない。


それでも胸騒ぎは無くならず、ギルドマスターは自身の現役時代の相棒である、ガントレットを撫でた。


「また、お前には世話になるかもな」


かつてAランク冒険者『武帝』の異名を持つ徒手空拳の天才──ソラーゲンはそう来なければ良いのにと、願った。




「やはり押されるか……」


三倍近い戦力差があり、なにより装備の差もあった。


Bランクにもなれば、【R】ランクの武器や防具を身に付けている者ばかりだが、それでもこの戦力差を覆せるほどではない。


本来ならBランク冒険者達にオーガを処理させたあとに、『蒼鬼の帰郷』をオーガキング討伐に行かせる予定ではあったが、それでは被害が出ると判断し同時に出撃させた事が功を奏した。


ガゼル達の活躍により、オーガ達は人間を侮ってはいけないという考えが芽生え消極的になっている。


オーガと戦い始めてから、小一時間。


オーガの撃破数は十数匹程度。


回復魔法のプロフェッショナル『死の拒絶』デズニーが一人で戦場を維持している現状、『蒼鬼の帰郷』をオーガキング討伐に行かせる訳には行かなくなった。


場は膠着し、それらを防衛拠点の冒険者達は指を加えて待っている事しか出来ない事にヤキモキしていた。


彼らは分かっていた。自分たちでは死に行くようなものだと。


長い間、弓を引き続けた冒険者達も既に手を止めて見守っている。


自分達の矢がいくら当たろうがオーガには何の痛痒にもならないのだと。


戦場は、極一部の強者達に委ねられた。


そんな中、一人だけウォーミングアップをしている冒険者が居た。


「ふぅ……よしっ! 調子が戻ってきたぞぉ〜!」


アストである。


彼はやる気満々であった。


傍らに立っていたマルクは苦笑をする。


「行く気かい? アスト君」

「おふこーす。出来る男は酷使される定めなのですよ」


茶目っ気のあるセリフを口にしながらも、その表情はキラキラ輝いている。


「今の僕がどれだけ通用するのか試したいんだ」

「……はっきり言って、今の君では荷が重いと思うよ」


言いづらそうに真実を告げるマルクに、アストはちょとんとしてからすぐに目を輝かせた。


まるで待っていましたと言わんばかりに、胸を張る。


「マルクさん、言ってなかったけど……僕はまだ本気を出していないんだよねっ」


異世界に行ったら絶対に言おうと思っていたセリフを口に出来て大満足である。


そんな、人によっては痩せ我慢、虚勢にも思える発言だが、アストの性格を知りつつあるマルクは、彼がこのようなタイミングで冗談などを言わないだろうと考え、少しの躊躇のあと確かめるように尋ねる。


「……やれるかい?」


その質問にアストは不敵な笑みを浮かべ答える。


「まかせて」


正面から彼の覚悟を感じ取ったマルクは一つ頷き、同じように笑みを浮かべる。


「分かった。でも、一つだけ条件がある」

「なに?」

「出し惜しみはなし。やるからには全力だ。もしSPが残っているようなら振り分けて欲しい。相手はBランクの魔物の中でも上位に位置する強さがあるからね」

「それならさ、マルクさん。僕のステータス教えるからSPの振り分け手伝って」


アストの申し出にマルクは目を丸くする。


「良いのかい? 冒険者にとってステータスの情報は命に等しいんだよ?」


アストの自分の心臓を差し出すような発言に驚きを隠せない。


「勝つ為だし、マルクさんは無闇矢鱈に言いふらしたりしないでしょう?」

「それはもちろん。墓場まで持っていくよ」

「ならよしっ。あ、でも幸運値だけは内緒。いつかもっと凄くなってから自慢するから」

「あははっ、そうだね。それが良いと思うよ。その時を楽しみにしてるね。……君と話す度に約束事が増えるなぁ」

「そりゃあ、僕は老後まで生きるつもりだからねー。長い付き合いにしようぜ〜」


いつでもハイテンションで頼もしいアストに、マルクは少しだけ目元に涙が滲んだが、気付かれるまえに拭いさりいつもの爽やかな笑顔を浮かべる。


「そうだね。僕も……そして、ここに居るみんなも、うんと長生きしないとね」

「だねだね」

「あははっ! なんだい? その相槌」


二人は笑い合う。


戦場にて新たな友情が生まれたのだ。




「……これでよしっ!」


マルクのアドバイスもあり、ステータスの割り振りは完璧であった。


そして仕上げと言わんばかりにこっそり【インベントリ】から装備を取り出し更新する。


「ありがとう。おかげで僕は完全体アストになったよ」

「…………」


にこやかスマイルを浮かべるアストに、マルクは四面楚歌。


「……一つだけ言っていいかい?」

「お? なにかな?」

「手を抜き過ぎだよ!! さっきまでの君とは別人レベルじゃないか!!」


普段、物静かなマルクにしては珍しく大声をあげるものだから、周りの冒険者達も視線を向けてくる。


「え、えへへ……つい、ね?」

「それにしてもだよ! 装備を更新出来るなら先に言ってくれよ!?」


そう。アストはかなり変わった。


全身黒革装備なのは変わらずだが、腰の左右にはそれぞれ一振りの新たな片手剣をぶら下げている。


そして、首元には牙で出来た首飾りを、利き手の左腕には鉄の腕輪を。


それらは全て【R】ランクの装備であった。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


個体名 アスト 種族 人間 性別 男 年齢 15


レベル 30

体力 1500 (3750) +500 (4250)

魔力 500 (1150) +600 (1750)

気力 700 (1610) +500 (2110)

腕力 240 (360) +60 (420)

頑丈 200 (300) +20 (320)

知力 50 (75) +20 (95)

精神 50 (75) +20 (95)

器用 150 (225) +20 (245)

敏捷 200 (300) +70 (370)

幸運 200 (4200)

SP 0


〖LR〗

【幸運な転生者】

[幸運+1000% 幸運系スキル獲得]


〖UR〗

【宝石蝶】

[幸運+600% 幸運ステータス低下無効]


〖SSR〗

【天賦の才】

[獲得SP+100% 全ステータス+30%]

【天運】

[幸運+250% 幸運ステータス低下軽減]

【インベントリ】

[時間経過しない亜空間の物入れ]


〖SR〗

【超体】

[体力+100% 回復速度+100%]

【超魔】

[魔力+100% 回復速度+100%]

【超気】

[気力+100% 回復速度+100%]

【超運】

[幸運+100%]


〖R〗

【持久】

[体力+20% 回復速度+20%]

【剛力】

[腕力+20%]

【剛健】

[頑丈+20%]

【知恵】

[知力+20%]

【冷静】

[精神+20%]

【技術】

[器用+20%]

【俊敏】

[敏捷+20%]

【強運】

[幸運+20%]

【下級剣術】

[気力を消費した剣術を扱う事が出来る]

【先読み】

[相手との器用差が少なければ少ないほど、次の動作から導き出される未来を推測する]

【加速】

[気力を消費し、瞬間的に敏捷の最終値を200%にする]

【暗視】

[薄暗い場所でも僅かな光量でくっきり視えるようになる]

【爆睡】

[短時間の睡眠で全快まで回復出来る]

【低燃費】

[少ない食事と水分で体調を維持出来る]

【二刀流】

[二つ目の武器を装備した時に効果が発動されるようになる]


〖N〗

【共通言語】

[アファステーゼの共通言語を理解し、発音出来る]

【最下級体術】

[身体を動かす動作が滑らかになる]

【最下級剣術】

[剣などを操る技術が向上する]

【最下級槍術】

[槍などを操る技術が向上する]

【最下級斧術】

[斧などを操る技術が向上する]

【我慢】

[ダメージによる行動阻害が軽減される]

【見切り】

[相手との器用差が少なければ動作からの予測が付きやすくなる]

【縮地】

[踏み込むときの軸のブレが減り、体力の消費が減る]

【忍び足】

[音を立てず歩ける]

【夜目】

[暗くても見えやすくなる]

【熟睡】

[眠りが深くなり疲れが取れやすい]

【投擲】

[器用が高ければ高いほど、物の投擲が正確になる]

【節制】

[多くの食事や水分を取らなくても体調を崩しづらくなる]


〖装備〗

【武器①】 【R】高品質の名剣

【武器②】 【R】逸話を秘めし黒鉄剣

【頭】 【N】黒革の兜

【上体】 【N】黒革の鎧

【下体】 【N】黒革のズボン

【腕】 【N】黒革の手袋

【足】 【N】黒革の長靴

【装飾①】 【R】風切りの牙飾り

【装飾②】 【R】癒しのバングル


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


それぞれのステータスの横にある+は、装備に付いているステータス増加の効果である。


【R】高品質な名剣

[攻撃力500 耐久値500]

[【攻撃力増加・中】【耐久値増加・中】]

[体力+200 魔力+200 気力+200 腕力+20 頑丈+20 知力+20 精神+20 器用+20 敏捷+20]


【R】逸話を秘めし黒鉄剣

[攻撃力1000 耐久値400]

[【攻撃力増加・大】【攻撃力上昇・中】【威力増加・中】]


【R】風切りの牙飾り

[防御力120 耐久値300]

[【武器付与・風 (小)】【障壁・風 (中)】【疾風】]

[腕力+40 敏捷+50]


【R】癒しのバングル

[防御力210 耐久値250]

[【自然治癒・大】【回復・体力 (小)】]

[体力+300 魔力+400 気力+300]



「…………」


アストの持っている【R】ランク装備の性能にひと通り目を通したマルクは無言である。


「えへへ……レア掘り頑張りすぎちゃった」


照れくさそうに後頭部を撫でるアストを、マルクはジト目で見つめている。


無言の圧力である。


それに慌てるようにアストは補足説明をし出す。


「あっ装飾品はね、ウルフダンジョンの激レアドロップみたいだよ。オークダンジョンの真珠みたいな感じ。いやぁ〜出るまでまさか装飾品がドロップするとか思わなかったよ〜。その時は興奮しすぎて、寝ずに周回しまくったもんだ。本当はもう少し厳選したかったんだけど、さすがにこれ以上の物は出ないかな〜って、思ってそれで妥協した感じです、はい。あ、あと【R】ランクの装備にも上限みたいなものがあるんだね! 攻撃力、耐久値共に400が上限で、それ以上の数値が出てるものはスキルによる強化が入っているっぽいよね。それでマルクさんの【SR】の中でも上位に位置するという発言からして、【SR】にも上限があるよね?」

「……っ。はぁ〜〜」


オタク特有の早口によるマシンガントークにより、マルクは言いたいことが沢山あったがため息一つで済ませる事にした。


何せ、アストが今までで一番生き生きしていた表情を浮かべていたからだ。


好きな事を語りたくて仕方ないと言わんばかりに。


そんな彼に水を指すことなど、人の良いマルクには出来なかった。


「ああ、そうだね。確かに上限はあるみたいだよ。確かめられるほどの情報は揃っていないけどね」


少しだけトゲは含まれてはいたが。

 

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