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068 【下級剣術】

『見習いの鉄剣』を横に振る。


現在のアストの腕力の最終値は225。


ウルフダンジョンに通い、レベルを上げ、ステータスの底上げを果たした結果の数値だ。


ボスオークを上回る腕力であり、その細身からは考えられないほどの風きり音と共に剣を振るえば大木ですら切断されるだろう。


そんな一撃を剣聖ゴブリンはあろう事か正面から受け止めて見せた。


「ガグゥ……」

「ははっ……どーなってんの?」


ひび割れ、今にも耐久値がゼロになりそうな鉄剣で、曲がりなりにも【R】ランクの武器の攻撃を受け切る。


まるで魔法にでも掛かったような不可思議な現象だ。


キィィーーン!


剣を滑るように弾き、勢いのままにアストの首元に叩き込む。


「食らうかっ!」


アストはそれを前もって読んでいたかのように、上半身を傾け躱す。


【見切り】による予測に近いが、それよりも遥かに上回る予測だ。それは新たに手に入れた【先読み】によるお陰であった。


このスキルは僅かだが、相手の攻撃による未来が視えるようになるという効果がある【見切り】の進化スキルだ。


(器用は僕が上回ってるようだね)


【先読み】も器用値が相手に拮抗、もしくは上回らないと発動しないという点は同じである。


器用値の差があればあるほど見える未来の精度は上がっていく。


アストにはある程度、剣聖ゴブリンの攻撃の未来が視えた事からそこまで差はないが上回っていると判断。


器用値も底上げされ225。


熟練の剣術は見る者を魅入らせるほどの域に達していた。


「ふっ!」

「ギャウ!」


だがそれは剣聖ゴブリンも同じこと。


互いの剣は幾度もなくぶつかり合い、火花を散らす。


否、火花を散らしているのはアストの鉄剣のみ。


何故か、剣聖ゴブリンの鉄剣からは火花が出ない。


「ねぇ! その剣、物理法則無視してない!? もしくは君のスキルの効果なの!?」


(特にレアアイテムのようなオーラは感じないから、ただの【N】ランクの武器の筈なんだけどなぁ)


「ギャッ!」


アストの質問など無視した鋭い突きが答えとなる。


「ぐっ……掠った」


頬を浅く切り裂かれ、反射的に蹴りを剣聖ゴブリンに繰り出すも、しなやかな足腰からの跳躍で軽く躱されてしまう。


裂けた頬の血を軽く拭う時にアストは一つの違和感に気付く。


(切断面が綺麗すぎる。あんなに刃こぼれしまくってるのに)


剣聖ゴブリンの鉄剣はボロボロであり、切断面は凸凹であるのはひと目でわかる。


であるにも関わらず、アストの頬には綺麗な一文字の切り傷が刻まれていた。


そこで一つの仮説が思い浮かぶ。


それはゲームや漫画ならよくある定番の能力。


「君の剣……なんか纏ってるな? 魔力か気力っぽいぞ」


剣の表面を魔力か気力によってコーディングしているのなら、アストとの激しい打ち合いでも剣が壊れない説明になる。


「ギャ!」


相変わらず返答など無く、剣聖ゴブリンから例の飛ぶ斬撃が牽制代わりに放たれる。


視認不可であり、【先読み】はあくまで相手の攻撃の動作から未来予測をするものだ。


視認出来ない飛ぶ斬撃はアストの視ている未来には映らなかった。


「うおっ!?」


見えないというのは厄介なもので、気が付けば衝撃が身体を襲う。


だが巨漢の冒険者の首を撥ねることすら可能にしたソレはアストには通じない。


「僕の頑丈さを舐めるな! ステータスは裏切らないんだよっ!!」


直接攻撃ならまだしも、飛ぶ斬撃はかなり威力が低下しておりアストの薄皮すら切り裂くことが出来ない。


頑丈値も225まで底上げされている。ここまで来れば爆走する馬車に轢かれても擦り傷程度で済むレベルだ。


その為、牽制の役割を十全に果たせなかったまま攻めてきた剣聖ゴブリンは、アストの速さを優先にした一閃に反応しきれずに引き締まった胸部を浅く切り裂かれる。


「コレでお相子だよっ!」

「ギャウ!?」


少しよろめいた隙に、【加速】からの踏み込み。


そして最速の突きが容赦なく剣聖ゴブリンの眼球目掛けて放たれる。


反応しきれない。


チェックメイト。


「……なっ!? ふぐっ!?」


だが剣聖ゴブリンはよろめいた勢いのまま倒れ込むことで、額が抉れる程度の傷で済ませた。


そしてそんな傷お構いなしに、倒れたまま蹴りをアストの腹部に叩き込み吹き飛ばす。


吹き飛ばされたアストは空中で姿勢を正そうとするがそこに飛ぶ斬撃が襲う。


まともなダメージは期待できないが、はなからそんな目的で放ったものではなかった。


真の目的はアストを衝撃により姿勢を崩させること。


そしてアストが宙にいる間に、剣聖ゴブリンは脚を溜めて一気に飛び出す。


思いっきり振り上げた鉄剣をアストに叩き込まんと力一杯に握りしめる。何かしらの力を流し込んた結果、制御しきれずに鉄剣が震える。


振り下ろせば大岩すら木っ端微塵になるだろう。


黒革の装備と225もある頑丈値を持つアストですらどうなるか分からないほどの一撃だ。


背を地面に向け、倒れ込むように着地しようとするアストのすぐ傍まで剣聖ゴブリンは迫って来た。


あとは振り下ろすだけ。


それだけで決着は着く。


スローモーションになる世界で剣聖ゴブリンは安堵した。自分の勝利を確信したからだ。


──だが次の瞬間、ゾクリと鳥肌が立つ。


「……ありがとう。お陰で“覚えた“みたい」


刹那。


アストは見習いの鉄剣を地面に叩き付け、その反動でくるりと回転。


剣聖ゴブリンの振り下ろした剣の軌道スレスレを回避。


地面に叩き付けられた二つの剣の衝撃により、土埃が大いに立ち二人の姿を覆い隠す。


「ギャウ! ギャギゥ!?」


何処だ! 何処にいる!?


土埃の中、必死にアストを探す剣聖ゴブリン。


渾身の一撃が外れ、更に体力と気力の消耗により、集中の糸が切れた。


故に何も考えずに、自身の必殺技とも言える飛ぶ斬撃をデタラメに放ちまくる。


「ギャゥ……ギャゥ……」


これだけやれば幾つかは当たっている筈だと自分に言いかせる。


土埃が飛ぶ斬撃の弾幕により晴れた頃には、剣聖ゴブリンの視界にはアストの姿は無かった。


「……“見えてた“よ」


ゾクッ!


全身が逆立つような震えると恐怖と共に、後ろを振り返ろうとした剣聖ゴブリンは──


──グサッ。


自身の胸部から生えた剣先に視界を向け、絶命した。


「ふぅ……強かったぁ〜でも、ふふっお陰で【最下級剣術】が【下級剣術】に進化したよ。いやぁ〜長かったぁー」


【下級剣術】

[気力を消費した剣術を扱う事が出来る]


どうやら、剣聖ゴブリンの飛ぶ斬撃や剣のコーディングは【下級剣術】による恩恵だったようだ。


長らく【最下級剣術】から脱することが出来なかったが、実際に上位スキルである【下級剣術】をその身で体験した事で習得出来るようになったらしい。


「ギャウギャウ!」

「ふっ! ……あははっ。本当に出た(・・)! 飛ぶ斬撃っ!」


近寄ってきたゴブリンを剣の間合いの外で切り伏せる。


そしてステータスの気力の項目もしっかり消費したのを確認。アストは剣聖ゴブリンの飛ぶ斬撃を扱えるようになったようだ。


「あはははっ! さぁ……かかってこぉーい!」


剣聖ゴブリンが放つよりも遥かに強力な飛ぶ斬撃が、無数に飛び放たれゴブリン達を細切れにしていく。


戦場に新たな台風が吹き荒れた。

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