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065 『邪悪魔討伐作戦』

「そこに書かれている通り、この辺境の街ロイシェンに面する大森林ガウクスクの奥地にて、大規模な魔物の群れをBランク冒険者『蛇男』スーゼンが目撃し、報告。我々冒険者ギルドとホウガ領主が調査の先遣隊を派遣し、事実だと確認が取れた」


大森林ガウクスクはアストが通っているウルフダンジョンが浅い場所にある森だ。


ギルドマスターは一息つくと恐るべき事を言い放った。


「推定魔物の数、八千。内訳、ゴブリン五千弱、オーク三千弱、オーガ百、オーガの上位種のオーガキングも確認されている。……そして依頼書にも書かれているが、この規模の魔物達を率いられる存在はそう多くは無い。未確認だが確実に居ると考えられる邪悪魔(イビルデーモン)の討伐が本作戦の要になる」


一気に捲し立てるように語られた敵の規模に一同騒然。


「ま、待ってくれよ! Aランクオーバー確定な『邪悪魔(イビルデーモン)』のオマケみたいに言ってるけど、Bランクの魔物──オーガの上位種のオーガキングだってAランクなんだぜ!? そんな怪物共に俺たちだけで挑めって言うのかよ!?」


一人の冒険者が言うように、DランクとCランクがメインのこのメンバーでは荷が重すぎる。


そんな絶望感が伝播したのか、叫ぶように文句を言う冒険者が続出。


「そ、そうだそうだ! こんなの王都から精鋭を選抜して討伐してもらう案件じゃねぇーか!!」 「俺達に死ねって言うのかよー!?」 「ひどいわ!? 人でなし!!」 「見損ないましたよ……っ!! このハゲー!!」


好き放題言われたギルドマスターは額に青筋を浮かべ、大きく息を吸い込む。


「あ、耳塞いだ方がいいぞ」

「りょ!」


ジュラに言われるがままに、アストは急いで耳を手で覆う。


傍らに居たタフタも慌てて、真似る。


ギルド職員は慣れているのか、上着に入っていたのだろう耳栓を耳に挿入する。


そして、満を持してギルドマスターは咆哮を上げた。


「でめぇーらァ!! 話はァ!! 最後までェ!! スゥ〜…………聞けェェーー!!」


耳を塞いでなお、キンキン鳴る程の大音声に全員が身動きを取れなくなる。


何かしらのスキルでの上乗せが為せる技だろう。


「かーっ! 流石は元Aランク冒険者! エグいぜっ!」


ジュラは興奮したように言う。


「何それ初耳」

「十数年前までは一線で活躍していたらしいですぜ」


頭を振るタフタが補足説明をしてくれた。


「安心しろ。本作戦の重要度を加味して王都からAランク冒険者を三名派遣してもらった。……降りてきてくれ」


ギルドマスターが背後の階段に声を掛けると、複数の足音が響き渡る。


「ジュラさんがここに居るってことは」

「ああ。いるぞ? お前の言うところの勘違い野郎が」

「もう許したよ」


あの場で成り行きを見守っていたジュラの揶揄うような言い方に、アストは苦笑しつつ答える。


先頭きって降りてきたのは『閃練』のマルク。


凄まじいオーラを放つ長剣を腰に差し、威風堂々としている。


背後からは三十代半ばの美しい女性と、二十代後半の男女。さらに背後には二十歳過ぎぐらいの男女が一人づつ。


合計六名にも及ぶ新顔たちに冒険者一同はシーンの静まり返る。


「最初に、知ってる奴も多いと思うが、この街で生まれたAランク冒険者『閃練』のマルク・ホウガだ」

「生まれ育った街の窮地だと聞いて志願しました。共に戦い、故郷を守りましょう」


爽やかイケメンスマイルのあまりもの眩しさにアストは少し目を細める。


「ホウガ? ついさっき聞いたような……」

「マルクさんは領主様の御子息ですぜ」


アストの疑問に律儀にタフタが答えてくれた。


「ほへぇ〜」


生まれも高貴なら、実力も指折り。まさに選ばれし存在と言えるマルクにアストは主人公みたいだと感心する。


「次のお人達も凄いんだぞ?」


目を煌めかせ興奮気味に言うジュラの様子は、まるで推しのアイドルを語るファンのようであった。


「次は五人でパーティを組んでいるAランク冒険者パーティ『蒼鬼の帰郷』だ。先頭はAランク冒険者『死の拒絶』デズニー」

「ふんっ。精々あたしゃの前でくたばらないことだね」


マルクの長剣にも負けない存在感を放つ大杖を持つ三十代の女性だ。


本人の持つ鋭い眼光は見るもの全てを震え上がらせる程冷たい。


「デズニー様はあの杖と卓越した回復魔法でどんな重症患者すらたちまち治しちまうんだ! デズニー様が居る戦場での死亡率は一桁なんだぞっ!!」


アストの肩を揺らし一方的に語るジュラ。


「Aランク冒険者『二代目蒼鬼』ガゼル」

「よろしく頼むんだな」


次に紹介されたのは二メートルを超える巨体。背中に背負った大斧。額から生えられた蒼色の角を持つ二十代後半の男性。デズニーと違い非常に穏やかそうな男性であった。


「ガゼル様だっ!? 本物だぁー! 伝説の三使族の一つ鬼人族の血を引く半鬼人のガゼル様だ! その腕力は大木すら木っ端微塵にするんだぜっ!?」

「デズニー様はガゼル様の母親ですぜ」

「おにぎりとか好きそう。あと、お母さん若ーい」


大興奮するジュラの解説と、タフタの補足説明。


「Bランク冒険者『艶やかな舞闘』マイリヒ」

「うふふ。よろしくお願いするわ」


やたら色っぽい二十代後半の女性がおっとりとした雰囲気を纏いつつ挨拶する。腰にはぶっとい鞭を装着しており、非常におっかない。


「伝説の舞姫だーっ! マイリヒ様が踊ると聞けばどんな場末の酒場であろうと立見席まで発生すると言われている程の踊り子だったんだぞ!」

「ガゼル様の奥様ですぜ」

「奥さんきれーい。あの鞭はプレイ用じゃないよね……?」


補足説明ありがとうタフタ。その言葉しか見つからない。


「Cランク冒険者『鬼娘』ケルと同じくCランク冒険者『三代目蒼鬼?』メットだ」

「なんで疑問形なんだよ!? 普通に三代目蒼鬼で良いだろ!?」

「兄貴がうるさくてすみませんね〜コイツ馬鹿なんて許してください」

「テメェー! 実の兄貴に馬鹿とはなんだ!」


サイドポニーケルは双剣使い。短髪のメットは斧使い。二人ともうっすらと額に蒼色の角を生やしている。


「……けっ! デズニー様とガゼル様とマイリヒ様の遺伝子を引き継いてなかったら今頃ミンチにしてやるぜ」

「そこまで行ったらただの他人だよね」

「二人はガゼル様とマイリヒ様の子供で、ジュラの姐さんの同期みたいなやつですぜ」

「デズニーおばあちゃん若ーい」


明らかに濃ゆすぎるメンバーである。


簡素な感想製造機と化していたアストだったが、メットがジュラを見つけた事で面倒な事になる。


「おい! そこに居るのはジュラじゃねぇーか!! おめぇ居たのかよ!」

「あん? テメェーに名前を呼ばれる筋合いなんざねぇーんだよ。一昨日来やがれ……ぺっ!」

「ジュラっち久しぶり〜元気してた?」

「おう! ケル。お前こそ腕は落ちてねぇーだろうな!」

「おれの扱い酷すぎない!?」

「兄貴うっさい。当たり前よ! 次はあたしが剣聖の試練を受けてやるんだから!」

「はん……アタイに先越されてメソメソしてやがったら引っぱたこうと思ったが、腑抜けてねぇーようで安心したぜ」

「当たり前でしょ? あたしとジュラっちはズッ友なんだから! 親友が先を行ったなら追い掛けて追い越すまでよ!」


隅でしょげてる兄貴なんざ無視して、ケルとジュラは熱い友情を確かめ合う。


「す、すげぇ。伝説のパーティ『蒼鬼の帰郷』に『閃練』が居りゃ百人力だ!!」「マイリヒさん! 二児の母とは思えない程、御美しい……」「勝てる! 俺たちは勝てるぞー!!」「ふっ……勝ったな。風呂入ってくる」「お前の宿、風呂ねーだろ」「おいおい冒険者が言う風呂って言いりゃあ……なあ?」「ちょっとそこの男子ぃ〜不潔ぅー」


先程までの絶望感など無かったかのように、冒険者一同の顔には希望と余裕が生まれる。


(凄い。これがAランク冒険者なんだ)


居るだけでどんな最悪な状況ですら希望に変える。まさに絶対強者。


マルクと一戦交えたからこそアストは彼らの頼もしさが誰よりも分かったのかもしれない。


場の空気が弛緩したところでギルドマスターが手を叩き、皆の意識を集める。


「分かったか? 国も冒険者ギルドも本気だってことだ。お前たちは使い捨てでもましてや、死地に追いやるつもりも毛頭ない。……勝つぞ、この戦!!」


「「「「「おおーーーうっ!!!」」」」」


ギルドマスターはニヤリと猛々しい笑みを浮かべ満足そうに頷く。


そこには歴戦の猛者としての片鱗を感じさせた。


「細かい説明を始める。既に街にあるありったけの馬車を街の正門前に配置しているから、この説明が終わり次第出発だ」

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