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064 緊急依頼

装備を整えたアストはタフタと共に冒険者ギルドに向かった。


腰には【R】ランクの剣。見習いの鉄剣を装備している。


「……それ、業物ですかい?」


隣りを歩くタフタは一目で剣の価値を看破したようだ。


「あ、やっぱり分かるの?」

「えぇ。レアモンは一目見れば分かっちまうもんでさ。……あんさんにこんな事を言うのもあれですが、人気の少ないところは避けた方が安全ですぜ」

「なるほど。気を付けるよ」


(ギルドマスターがオークションまで待てって言った理由が分かったよ)


しかも匿名での出品という形を勧められた理由も。


この世界では【R】ランク以上のレアリティを持つアイテムや装備は、一目で“普通“じゃないと本能で理解出来るようだ。


その為、運良く【R】ランクのアイテムや装備を手に入れた冒険者は二択に迫られる。


手元に残すか、手放すか。


手元に残すならば、安全の筈である街ですら背中に気を付けないといけない。


手放せば数年は遊んで暮らせる金額が手に入る。その場合も、額によっては襲われるリスクがある。


この世界においてレアアイテムを所持するには、一定以上の実力が無ければならないのだ。


「ちょっと前から気になってやしたが、リュックの横に着いてるのって……宝石蝶の装飾品ですかい?」

「っ……そ、そーだよ。物知りだねぇ〜」

「へへっ。ちいせぇ頃の夢は絵本作家だったもんで。それにしてもすげぇー綺麗でさ。本物見てぇだ」

「あははー。何を言ってるのかなぁ〜? ほ、本物の宝石蝶は伝説の生き物なんだぜ?」


見かけによらない夢に驚きつつ、何とか誤魔化すアスト。


(うぅ……嘘をつくのはあんまり上手くないんだよね)


末っ子は嘘をつくのが下手という話があり、例に漏れずアストも嘘をつくような事は避けてきた。


何とか誤魔化せたようで、タフタからはそれ以上の言及は無かった。


街に滞在している間は、アストの肩ではなくリュックの横に止まっている方が目立たないだろうという考えだ。


実際、今までさほど注目を受けずに済んだ。


異世界と言えど、他人に対する関心の度合いは地球の人類とは大差ないのだろうと思い至る。


実際は腰に差している【R】の剣に皆、目がいっている事が功を奏しているのだ。


少しヒヤヒヤしつつ、冒険者ギルドに辿り着いたアストは、人でごった返す室内に眠たげな目を丸くする。


「凄い人集り」

「ここに居るのは皆、Dランク以上ばかりでさ」

「みんな、僕と同格か格上というわけか」

「い、いや、流石にそれはないですぜ」


ランクこそDのアストだが、タフタからしたらCランク、下手したらBランクの域に達していそうな実力だと思っている。


アスト程、ランク詐欺の冒険者も居ないだろう。


そんな彼は物珍しそうに同格達を値踏みする。


(ほっっっとうに、レア装備をしている人居ないな!)


Dランクは勿論、Cランクの冒険者ですら全身装備は【N】ランクである。


CランクでもジュラのようなBランクに昇級出来そうな実力者のみがこれみよがしにレア装備を身に付けられるのだろう。


でなければ、タフタが言った通り路地裏で身ぐるみを剥がされ、冷たい死体になってしまう。


そんな彼らの中に、一人だけ仲間はずれのレア装備を持つアストは勿論注目の的である。


「……おいおい。こんなガキが何いっちょ前にイイ武器持ってんだよ」


それを良く思わない冒険者は当然居る。


自分たちが欲しくても手に入らないモノを若造であるアストが身に付けている。


たまったものではない。


怒気を孕ませた声を上げ、ズシズシとアストの元に歩み寄ってくる巨漢の男。


タフタはアストを庇おうと前に立つが、アストが押し止める。


「……分かりやした。ですが、手加減はしてくださいよ?」

「えっ……手加減するほど弱くは無いでしょ? だって僕と同じDランクなんだろうし」


そんな舐め腐ったやり取りは巨漢の男にバッチリ聴かれ、額に血管を浮かび上がらせる程の怒りを覚えさせた。


「ガキ! 舐めやがってっ!! ぶっ殺して、その剣を俺の物にしてやる!!」


アストからしたら舐めてかかっていい相手では無いという意味だが、そんな事が通じる訳もなく巨漢の男は腰に差した斧を抜き去り、振り上げた。


「おいおい。それ以上やったら戦争だぜ?」

「……っ!?」


だが斧を振り上げた体勢のまま固まってしまう。


その首元には剥き出しの大剣(・・)が添えられていたのだから。


「そもそもお前みたいなザコがコイツに敵うかよ」

「あっれぇ〜ジュラさんじゃん。おひさ〜」

「おう! 久しぶりだな! ……って、お前強くなり過ぎだろ!! 得物すらイイモンに変えやがって!」


ニコッ! と、眩しい笑顔を浮かべるジュラは巨漢の男の事など一瞬で忘れ、アストの背中を力強く叩く。


一度しか会っていないのに、酷くフレンドリーである。


「痛い痛い! 頑丈はそんなに変わってないんだからやめて〜」

「わりぃわりぃ。将来の弟弟子だと思うとつい、な」


ジュラの登場に冒険者ギルドの室内は今まで以上に騒がしくなる。


「お、おい! あれ、『切断王』のジュラだろ!?」 「アイツ剣聖の試練に挑んだって聞いたぜ!?」「情報が古いな! もう受かったって情報が出回ってるぞ」「新しい剣聖の弟子の誕生に王都は湧いてるらしいぞ!」


ジュラは大層な有名人らしく、彼女に関する情報が飛び交う。


それを聞いたアストは早速、ジュラを祝う。


「おめでとう! 受かったんだね!! 凄いや!」

「おう! あんがとな!! しんどかったけど、楽しかったぞ!」


アストの祝福に、ニカッと眩しい笑顔で応えるジュラは何を思ったのか、アストの肩に手を回し、冒険者たちに見えるように向き直る。


「そうそう紹介を忘れてたな。アタイの事はもう知ってるだろうけど、コイツも覚えておいた方がいいぜ? 何せ、Cランクに昇級したら剣聖の試練をすっ飛ばして、本人に直接会える程、期待されている剣士なんだからな!」


その言葉で更にギルド内が騒がしくなる。


そんな剣士ならレア装備を持っているのは納得だ、と。


ジュラのおかげでアストに不快感を抱いていた一部の冒険者たちも矛を引っ込めてくれたようだ。


剣聖の試練に挑めるのは一定のステータスであり、誇りなのだ。


ましてや期待されているとまで言われたアストに喧嘩を売って得られるメリットなど無いに等しいだろう。


(半分嘘っぱちじゃないですかー)


期待も何も、襲われた見返りに剣聖に会わせてもらえると言われただけだ。


そこから弟子にしてもらえるかはアスト本人にかかっている。


「ゴホン! 皆集まったようだな! これより緊急依頼の説明をする為と、依頼の内容が記載された依頼書を配る」


騒ぎが一段落したタイミングで奥からギルドマスターと依頼書の束を持って現れたギルド職員一同。


その中には受付嬢のフェイルとラズリーも居る。


ギルド職員は手早く集まった冒険者たちに依頼書を手渡していく。


一番遠くに居たアストの元に当たり前のように最初の一枚を持ってくるフェイルは除く。


「アスト君。どうぞ」

「あ、ありがとう。フェイルさん」

「アタイにもちょうだい!」

「はい」


少しぎこちないアストの事など気にせず、その後は普通に配り出すフェイル。


気のせいかとホッと胸を撫で下ろすアストは少しだけ読めるようになってきた依頼書を読む。


依頼内容の題名は──『邪悪魔(イビルデーモン)討伐作戦』

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