061 初の【R】ランク武器
「あっそうだ! いけない。忘れてた。ボスドロップが待っていたんだ!」
レベルアップの驚きでウッカリ本命を忘れていたアストは、ボスウルフが消えていった場所に落ちていた物を取りに行く。
「こ、これは!? 剣じゃん! 【R】武器確定じゃんか! 何故だか分からないけどそんなオーラを感じるよ!」
触れる前から何処と無く価値のある物だという直感があった。
それはマルクが持っていた【SR】の剣やジュラが持っていた【R】の大剣にも感じていたものだ。
ゴクリと唾を飲み込み、落ちていた剣を拾い上げた。
【R】見習いの鉄剣
[攻撃力270 耐久値330]
[【攻撃力増加・小】 【耐久値増加・小】]
「おおっ! …………あれ? ジュラさんやマルクさんの武器みたいにステータス上昇の項目が無いぞ……しかも攻撃力も耐久値もスキルの効果で上がってる筈なのに低めじゃない?」
アストは同じレアリティのジュラの大剣のスペックを思い出す。
【R】丈夫な鋼鉄の大剣
[攻撃力400 耐久値546]
[【耐久値増加・中】]
[体力+1000 腕力+130 頑丈+50]
「……うん。やっぱり低いや」
バタバタ……。
落ち込むように顔を伏せるアストの肩に止まり、慰めるようにバタバタするユメミ。
「くふっ……くふふっ……くはははっ!! やった! やったよ! ユメミ! 遂に手に入れたんだ! 【R】武器を!」
いきなりの豹変にユメミは止まったばかりの肩から飛び去ってしまうが、思ったより元気そうなアストの様子に疑問を覚えたのか、眼前をフラフラ飛ぶ。
「ん? ああ、思ったより性能がしょぼかったから落ち込んでると思ったの? ……そりゃあ、前もってコレの上位互換みたいな武器を二つも見ちゃったからね。少し残念な気持ちはあるよ。でも、そんな事はどうでもいい。だって、ランダムエンチャント確定なんだよ!? この意味が分かる? ようは、試行回数を重ねれば重ねるほど、理想的な武器や防具に巡り会えるかもしれないんだよ!? こんな楽しい事ある!? 僕の住んでいた所ではね、ガチャっていう何が出るか分からないくじ引きみたいなものが流行っていたんだ。運が良ければ良い物が、悪ければしょぼい物が……みんな、血眼になってガチャを引いたよ。僕も一時期ハマってた。そして数多のソシャゲをやり、遂にたどり着いたのは、ランダムエンチャント……つまりハクスラ! 手に入る武器や防具の性能はランダム! やり込めばやり込むほど、理想の強さが更新されていく! そういうのが──」
アストはこれでもかってくらい語った。
一生分語ったかもしれない。
えも言われぬユメミに。
それぐらい彼は興奮していた。
【R】の農具でもしやと予感がし、マルク達の武器で予想に変わり、今のドロップで確信へと変わった。
彼のこよなく愛するハクスラ、ランダムエンチャント、トレハン、レア掘りと呼ばれるモノがこの世界には有るのだと。
「僕は集めるぞ! 集めまくるぞ! 目指せ! 全身最高レアリティ! こんなに幸先良いスタートが切れたのもユメミのお陰だよ! ありがとう!!」
ハイテンションが何時までも続くアストにも慣れたのか、微動だにせず肩で羽休めに努めるユメミ。
「と言ってもユメミブーストはもう切れてるし、ボスに再戦したいなら条件を満たさないといけないんだけどね……えーっと、確かここのダンジョンのリポップ条件は〜」
ほとんど人の来ないダンジョンという事は前もってラズリーから聞いていた為、ボスのリポップ条件だけは教えてもらっていた。
「最低五匹組のウルフの群れを二十回討伐すればいいんだよね」
オークダンジョンならドロップした総肉の量が五百キロというのが条件だ。
それに比べれば一人でもこなせなくは無いレベル。
だがアストのドロップ率と量ならばオークダンジョンの方が早く達成出来てしまう為、コッチのダンジョンの方がめんどくさく感じてしまう。
何せここに来るまでの群れは三匹〜六匹程度のグループばかりだったのだ。
二回に一回は五匹以下で条件が満たせない。
「それを如何に回避出来るかが周回速度に繋がるわけだ」
オークダンジョン並に人気があれば、そんな事気にせずに思う存分ボス周回出来るというのにと、アストは愚痴りたくなる。
ゲームと違い旨みがあろうがなかろうが命が掛かっている為、冒険者達は安定を取る。
元々のドロップ率の低さも相まって、アスト以外にボスドロップでワンチャンを狙う冒険者は稀だ。その為、不人気なダンジョンは無人に近い。
「効率を考えるなら一回のボスドロップでの武器ドロップ率を上げるべきだよね。ユメミの【幸運の鱗粉】はバンバン使えるものじゃないだろうし」
確かに幸先の良いスタートはユメミによる支援の賜物だろう。
だがそれはアストがとある方法を使えば補えるものでもある。
「獲得したSP全部幸運に振ったら擬似ユメミブーストなんだよね」
今まで幸運値に振ったSPは70。元々の数値10に70で80。それがスキルバフで1680。
もし獲得したレベル二つ分のSP120を振ったら200の2100%で幸運値4200という擬似ところかユメミブーストすら超える値になる。
「そ、そこにユメミブーストをしたら……は、8400!?」
もはやEランクダンジョンの最上級のドロップ品しかドロップしない可能性すらある数値である。
「いやいや、流石にやり過ぎか。常に不測の事態に対処する為にはSP温存は必須。……良し! ならレベル一つ分のSP60だけにしよう。元々二つも一気にレベルが上がるなんて思わなかった訳だし」
何時ものようにグダグダ考えながら、幸運値にSPを割り振る。
幸運値140のスキル補正で2940である。
かなり思い切った選択だが、圧倒的な幸運値を見てアストは更にテンション爆上げである。
「早速この圧倒的な幸運パワーを発揮しに行こう!」
新たに手に入れた見習いの鉄剣をブンブン振り回しながらアストはボス部屋を飛び出した。
そして半日近く掛けて条件を満たし、もう一度ボスウルフをシバく。
今度は前もってシュミレーションをし、ユメミブーストの時間制限も無かった事から、体力の続く限り狩りに勤しみ千匹オーバーの討伐。
ボス戦だけで三時間掛かった。
これ以上は体力回復ポーションがぶ飲みコースなので自重してボスドロップを回収。
「これ、あれだね。経験値稼ぎにシフトするとドロップが一つしか手に入らないね」
ボスドロップは一つが原則なのか、幸運値がいくら高かろうといくら倒そうが一つしか手に入らない。
その為、レベルが更に二つ上がるという大快挙を成し遂げたがレア掘りとしての旨みは激減である。
SPは180となり、ウルフダンジョンに向かう前まで戻っている。
だが新たに手に入った【R】アイテムはまたしても武器。
【R】諸刃の鋼斧
[攻撃力1160 耐久値150]
[【攻撃力増加・大】 【攻撃力上昇・大】【威力増加・大】 【耐久値減少・大】 【耐久値消耗・大】]
[腕力+100 頑丈-100]
非常にピーキーな武器である。
攻撃力は絶大なものではあるが、耐久値はかなり低くくしかも【耐久値消耗・大】が付いている為、想像を絶するほど早く耐久値が削れていく事だろう。
「その上ステータスまで下げてくるとは……うん! レア掘りはこうでなくちゃ!」
鋼の剣の五倍もある攻撃力を誇る諸刃の鋼斧を振り回し、使用感を確かめる。
「これはここぞという時に温存だね」
そしてそっと【インベントリ】に仕舞った。




