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059 ウルフダンジョン

「木の鳥居みたいのを潜ったら……なんと」


大木二つを蔦が繋ぎ合わせるような入口から、足を踏み入れればそこはまたしても森。


「本当にダンジョンに入ったのかな〜。ねぇ、ユメミ」


パタ。


「うんうん、そうだね。君の言う通りだよ。取り敢えず湧いてきた魔物を処せばよろしいのだ」


別に対話出来る訳では無いが、話し相手が居るのは何だか新鮮で、つい話しかけ続けてしまうかまってちゃん。


それに対して羽を羽ばたかせ相打ちを打つ律儀なユメミ。


「さっきも言ったけど、魔物が現れたら僕から少し離れるんだよ? 戦いに巻き込まれて君が怪我でもしたら大変だからね。まあ、賢い君なら心配無いと思うけどさ」


パタパタ。


はいはい。分かってますよ〜、と言わんばかりに強く羽ばたく。


その様子を満足気に見つめ、気合を入れて本日三本目の鋼の剣を構える。


(他のダンジョンと違って全方向に気を回さないといけないのは面倒臭いなぁ)


前方か後方のみに気を配れば良かった今までのダンジョンと違い、ウルフダンジョンは森そのものである。


草木が生い茂る中、背丈が低いだろうウルフの襲撃を警戒しないといけない。


「なるほど……不人気な訳だ」


森の中にあるという立地の問題もあるが一番は、やはりオークダンジョンほどシンプルな作りでは無いからだろう。


「このダンジョンにも罠があるなら、足元も気を付けねば」


普通の土に見える足元。


だがドロップ品の最高性能のスコップで軽く掘ってみると、五十センチ程度でコンクリートにでも当たったみたいに弾き返される。


「なんかサンドボックス系のゲームみたいだね」


ついつい整地してしまいたくなるが、そんな余裕は無い。


「っと、お客様が来たっ」


アストはスコップを【インベントリ】に仕舞い、素早く剣を構える。


ユメミも空高く飛び上がり避難する。


「ははっ、面白いや」


視界には入っていないのに草むらが激しく揺れ、何かが接近してくることを知らせてくれる。


某ポケットサイズに変化するモンスター達の出現演出みたいだとワクワクする。


草むらから飛び出して来たのはくすんだ灰色のウルフの群れ。


凶暴な牙を剥き出しにし、飛び掛ってくる。


「悪いけど……」


五匹の灰色のウルフが着地する前に、アストは【縮地】を使い踏み込む。


気が付けばウルフ達の背後にアストは立っており、ウルフ達も地面に着地すると同時に倒れ伏す。


「相手にならないよ」


握られた剣の刃には血が付いており、灰色のウルフはいつ斬られたのかすら分からずに絶命した。


敏捷値300からなる連撃は、繰り出したアスト本人すら驚くほど素早い。


「思ったより速かったなぁ。多分敏捷特化のステ振りと見た」


オークが耐久よりのステ振りなら、ウルフは敏捷よりのステ振りだと予測する。


「敏捷値上げといて良かったかもね」


補正込みで300に達した敏捷値は、素早いウルフ達がスローモーションに感じるほど機敏に動ける。


「さてと、お楽しみのドロップ品はっと」


恒例のドロップ品の鑑定タイムである。


【N】鋼の斧

[攻撃力100 耐久値100]


【N】狼の皮

[軽く丈夫な皮]


【N】狼の牙

[軽く頑丈な牙]


「斧! これはヴァイキングプレイが出来るぞ! 狼傷のアストを名乗れちゃう!?」


実は自分が北欧神話の主神の生まれ変わりプレイが出来るのだと大喜びする。


「いやいや! ここは短剣二刀流でヴィンランドを目指すのも悪くない」


もしくは復讐に囚われるが多くの経験を得て命の尊しさに気付き、不殺を貫く偉大なる父を持つ元少年傭兵プレイも捨て難いと唸る。


「皮は外套とかに加工したら暖かそうだな。牙はアクセサリーにでもするんか? 牙の使い方ってなんかあったっけ?」


斧を思う存分振り回した後は、ハズレ枠であろう狼の皮と牙を回収し使い道を考える。


「鋭利だねぇ。……ゲームなら牙とかは錬金術の触媒みたいに使えたりしたんだよね」


パタパタとアストの肩に帰ってきたユメミに話し掛けながら先を急ぐ。


そこからは飛びかかってくるウルフ達を軽くいなしながら木と蔦で出来た小さめな鳥居モドキを潜り先に進んでいく。


ドロップ品は狼の皮や牙に獣肉、装備品に斧と短剣、剣。


そしてガントレット。


【N】鋼のガントレット

[攻撃力100 耐久値100]


「やっぱりスペックは頭打ち感あるなぁ。もう【N】ランクの武器は見てもワクワクしないよ」


黒革の手袋の上からガントレットを装着出来るようで装備枠的に得した気分だが、指先の感触がほぼ無くなり剣を振るう時の調整が上手くいかない。


「ガントレットはやっぱり単体で使うべきだね、うん」


【投擲】すらままならないほど器用値にマイナス補正がかかっていそうなので、【インベントリ】に収納した。


アストの今の幸運値ならばほぼ最高ドロップが出るので、これ以上雑魚狩りをしても楽しくないと判断し、早々にボスを拝みに行くことにした。


(これまでのダンジョンの傾向からして、ここのボスドロップでは短剣、剣、斧、ガントレットの四種の武器とプラスアルファとして何かしら特徴的な物が出る)


オークダンジョンでは肉シリーズと農具シリーズ、そして真珠がドロップした事から考えてもそう外れている予想では無いだろう。


三日ほどダンジョン内を彷徨い、夜は焚き火をして凌いだ。


前もってウルフからの攻撃を受け、ほとんどダメージにならなかったことを確認し、就寝。


【熟睡】スキルのおかげで爆睡し、起きればオマエノアタママルカジリと言わんばかりに噛み付かれていたが致命傷で済んだ。


体力回復ポーションを頭から被り、擦り傷を回復させる。


道中は蔦の吊し上げや、天然の落とし穴、丸太の振り子などの森ならではのアトラクションを一通り堪能。


途中飽きて木こりの真似事で木を斧で伐採したり、ガントレットを装備し感謝の正拳突きを木に叩き込んだりとやりたい放題。


そうして倒れ込んだ木は【インベントリ】に収納出来たので辺り一帯を整地。


バチが当たったのか寝ている間に生え直した木の枝に引っかかったまま引き上げられ、落下した衝撃で目を覚ます。


なんやかんや濃厚な三日間になり、新たに発覚したこともあった。


「ユメミって僕の魔力吸ってる?」


バタバタ。


気付くの遅い、と言わんばかりの返事。


どうやらユメミは普通の食事はしない代わりに、アストの肩に止まって魔力を吸収していた模様。


「なんかたま〜に魔力の数値が減っているから何だろうと思ったよ」


改めてユメミの姿を視界に収めれば、出会ったときのアイオライトのような透き通っていた宝石ボディーがラピスラズリのような色合いに変化している事に気付く。


「これはこれで綺麗だねぇ」


宝石蝶の美しさにウットリと眺め続ける。


(女性の人が宝石などの装飾を好む気持ちが少し分かったよ)

 

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― 新着の感想 ―
幸運さんが定期的に死なない程度のピンチを持ってきてくれるおかげでいい感じにステータスも上がってるな……… と思ったら普通に眠って致命傷まで受けてるw
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