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055 宝石蝶

アストは自分のステータスに表記されている一つのスキルを思い出していた。


【宝石蝶】

[幸運+600% 幸運ステータス低下無効]


今、彼の肩に止まっている蝶の羽は宝石に見える。


よく見ればその胴体すらも薄らと煌めいていた。


全身宝石の蝶。


正しくアストのスキルと同じ生物である証明であった。


「仮にも〖UR〗ランクのスキルの名前になる生き物……普通にそこいらを飛んでいるぐらいポピュラーな存在とは到底思えない」


アストの呟きに青い蝶はまたしてもひと羽ばたきする。


まるで返事代わりのように。


「君って幸運の象徴だったりする」


バタ。


「僕を探していた?」


バタ。


「僕の味方?」


バタバタ。


まるで激しく肯定と言わんばかりに強く羽ばたく。


(どうして…………はっ! そうか! 分かったぞ!)


「僕が君と同じスキルを持っているから、仲間だと思ってるんだね!?」


……バタ。


少し間があったが、青い蝶が羽ばたいたことでアストは自分の推測が当たっていたのだと喜ぶ。


(恐らく【宝石蝶】というスキルは本来、宝石蝶のみが有するスキルなんだろう。僕はそれを何故か保有している。その為、この子は僕を仲間だと勘違いして懐いてくれているんだ)


謎が解け、青い蝶に対する警戒を解く。


「でも、ごめんね? 僕は君の仲間じゃないんだよ」


アストは眉を下げ申し訳なさそうに伝える。


んな事は分かってるよ! と、言わんばかりに青い蝶はアストの周囲をまたしても飛び回り、最終的に定位置の肩に止まった。


「うぅ……君ってやつは、僕みたいな仲間もどきでも仲良くしてくれるの?」


青い蝶の優しさに触れ、アストはつい涙ぐむ。


「えっと……そうだ! 名前を付けても良いかな? 流石に種族名で呼ぶのは嫌だよね」


少し照れくさそうにしつつ、そう提言すればバタバタと肯定の意思を示す。


「そっか! ありがとう。……そうだな、蝶にはね、別名“夢見鳥“っていう名前があるらしいんだ。だから、それから取って……“ユメミ“ってのはどうかな?」


バタバタ!


かつてないほど力強く羽ばたく様子は、とても嬉しそうだとアストは感じ取った。


「喜んでくれているみたいで僕も嬉しいよ」


はたから見たら、蝶と会話をする変人だが幸い森の中ということもあり目撃者は居なかった。


宝石蝶のユメミがいつまでアストと一緒に居るかは分からないが、それでも新たな仲間が出来たことに素直に喜ぶことにする。


「そんじゃ、ウルフダンジョンに向かってレッツラゴー!」


バタ。


一人と一頭はそのまま森の奥に突き進む。




独りでも特に不安や不満などないアストだが、旅の仲間になったユメミのお陰でいつもよりご機嫌である。


いつもより気が緩み、それを甘んじて受け入れる。


こんな浅い場所で魔物に襲われることは無いだろうという油断である。


襲ってくるのはなにも、魔物だけではないのに。


その人間は切り株に座り、向かってくるアストに視線を固定していた。


齢は二十歳すぎ程度。冒険者らしい軽装であり、横に立て掛けていた長剣は一目で業物と分かる存在感を醸していた。


そしてそのルックスは多くの女性を魅了してしまうだろうほどの美男子。


そんな人間が浅いとは言え、森のど真ん中に居るアンマッチさはある種の異様さを醸し出す。


ユメミに一方的に話し掛けていたアストもその男性に気付き訝しむ。


ある程度距離を離して対峙していたアストは表情を引き締めるが、男性はようやく待ち人来る、と言わんばかりに笑みを浮かべアストに手を振る。


なんだ、いい人じゃん。


そう気を緩ませ、男性に向けて歩み出したその時。


「時間通りだね──始めようか」

「……え゛っ?」


男性は立ち上がり、美しい長剣の鞘を腰に吊るし、すぐさまに長剣を鞘から引き抜いた。その長剣からの存在感が何倍にも跳ね上がる。


次の瞬間。


アストは今まで感じたことの無いほどの悪寒に襲われた。


初めて命の危険にあったブルタの時も、勘違いから裏ギルドのサリーに襲われた時も、アストはある程度平常心を保てた。


だがこの時のアストは全身が震え、汗が吹き出る。


慌てて鋼の剣を引き抜くが上手く構えられない。


(なんだ! あのバケモノッ!!)


地球感覚として例えるなら、竹刀で熊と対峙するようなもの。


ハンドガンで戦車に立ち向かうようなもの。


同じ生物としての土俵に立っていないようにしか思えない感覚。


「あのっ! なにかの勘違……っ!?」

「もう試練は始まっているんだ。覚悟を決めなさい。さもないと──あっさり失格だ」


アストの申し立ては許諾されること無く、振り抜かれた剣閃により対話の道は絶たれる。


スローモーションのように襲ってくる剣を受け止めたアストの剣の剣身に、相手の剣が深く食い込む。


かろうじて受け止めたはいいが、次の瞬間には吹き飛ばされる。


だが追撃は無い。


「どうした? この程度かい!? それでは認める訳にはいかないよ!」


一喝するように怒鳴る。


倒れ込んたアストはゆっくり立ち上がりながら覚悟を決める。


(本気でやらないと殺られる)


アストはSPを急いで振り分けた。

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これも幸運の産物か……
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