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054 次のダンジョン目指して

アストは自分が成したことなど些細なことだと思っている。


普段お世話になっている人に、少し高価な物を贈った。


ただそれだけだ。


どうして? と、尋ねられた時は少し照れくさくも素直に自分の気持ちを吐露した。


そこに邪な気持ちなど何一つ含まれていない。


言葉通りの純粋な気持ちで口にしたのだ。


だが、それがフェイルにしっかり伝わっているとは限らない。


あの時から三週間。


一ヶ月をオークダンジョンに費やしある程度のドロップ品を手に入れ、次に向けてフェイルに相談しようにも最近は何故か居心地が悪い。


以前は彼女と一緒に居ても頼もしいやら安心感が得られたが、今の彼女からは色っぽさや熱を帯びた声音がアストに襲いかかる。


アストは前世含め、記憶の限り誰かに恋したことも恋されたことも無い。


家族からの愛。友人からの愛。


それらなら分かる。


自分とて同じような気持ちを抱けるから。


だがこと、恋に関しては全く分からない。


自己評価については最低評価に等しいアストは、自分のような根暗のオタクにそのような想いを抱く女性は存在しないと思っている。


ギャルゲーじゃないんだ。そんな簡単に人が人を好きになるもんか。


アストはそう考えて生きてきた。


彼女に贈った真珠とて、多少は好感度がアップした程度で惚れた腫れた話まで進行するなどと、考えるだけで烏滸がましい。


アストはフェイルを、周囲の冒険者以上に神聖視している。


可愛い女の子であり優しくもあり、そして清らかな心の持ち主。


そんな素敵な女の子が一介の冒険者どころか、何処の馬の骨かも知れぬ、自分なんかを好きになるわけが無い。


だから、変な気も起こさなければ、勘違いしてもいけない。


そう自分に言い聞かせる。


アストがこと性的な方面に疎く、ある種の純情さを持ち合わせているのはそういう事情があった。


「そんで? わざわざあたしに相談しに来たの? フェイルに内緒で」

「うっす。ラズリーさんしか他に頼れる人が居なくて」


そんな訳で、最近会話が弾まないフェイルではなく、こっそり次に向かうべきダンジョンについて相談しに来たアストにラズリーは呆れ顔で迎えた。


「もうさーいっその事押し倒しちゃいなよー」

「な、何の話ですか!? 今日は、オススメのEランクダンジョンを教えてもらおうと伺ったんですっ!!」

「なんでもな〜い。オススメね……そだね。なら、ウルフダンジョンとかどう? 南の森林の浅い所に入口があるダンジョンなんだけどね」


何だかんだ言いつつ、ラズリーはザックリとウルフダンジョンについて教えてくれた。


このサッパリとした対応が今のアストには有難かった。


「でも今回っきりにしてよ? こんなコソコソ会っていることが知られたら……うぅっ! フェイルにどんな誤解を抱かれるか分からないわ」


ぷるりと震え、ラズリーはしっしっとアストを追い返す。


アストはお礼を言い、冒険者ギルドから出た。


「ウルフダンジョンかぁ……今度は装備品のレアドロップがありますように」


結局、オークダンジョンでは武器や防具はドロップしなかった。


一ヶ月通い詰めた結果、金貨の総額が百枚を余裕で超え懐が温かい。


週一で帰ってくる度に、孤児院にお布施と美味しい豚肉をご馳走していることもあり、アストは神父と子供たちに絶大な人気を誇っていた。


子供に好かれ悪い気はしないが、いい加減装備の更新がしたいお年頃。


その為、別のダンジョンに挑む事に決意。


だが詳細など全く聞かないものだから、下手したら次のダンジョンもお目当てが手に入らないかもしれない。


だが、それでも良いとアストは思っている。


(のんびりいこう)


時間などいくらでもあるのだから、慌てずに行こう、とのほほんとする。


レベルとて21まで上がり、残りSPは160ある。


スキルも今更ながら【投擲】を獲得。


効果はそのまま。投げる時に器用が高ければ高いほど命中率が上がる。それだけ。


SPの余裕は心の余裕。


そんな名言? を思い付きつつ、アストはその日のうちに南の森に向かった。


本格的な森なんて初めての体験で、少しの興奮とある程度の警戒をしつつ森を突き進む。


「森に魔物たちは……居ないね」


ラズリーに聞いていた通り、森の浅い所では魔物はほとんど現れない。


よく冒険者が立ち寄るものだから、魔物たちはこの辺りが危険だと理解しているのだ。


「僕何気にダンジョン以外で魔物狩った事ないんだよね」


外の魔物は倒しても光の粒子にならないし、繁殖活動で増殖していく。普通の生態系だ。


その為、ダンジョンでは大した脅威にならないゴブリンですら、見つけ次第駆逐が冒険者の義務になっている。


「外の魔物たちは普通に十八禁の存在くさいなぁ」


ダンジョンの魔物も危険ではあるが、アチラは襲いかかってくること以外の思考回路が抜け落ちている。


それに対して、外の魔物は悪知恵も働くし、生きる為に何だってやる。


ゴブリンに攫われた村娘の行き着く先など悲惨なものだ。


故に、見つけ次第駆逐。


どんな雑魚の魔物でも討伐すれば金になる。


そして外の魔物の最大の特徴はレベルが上がるということだ。


長生きした魔物ほどレベルが高く、推定ランクが当てにならない場合がある。


「だからDランク冒険者であっても、ゴブリンを舐めてはいけない。返り討ちに遭うぞ……か」


オークダンジョンに通っているDランク冒険者に教えてもらった情報だ。


なりたてのアストではなく、長年Dランク冒険者として多くの依頼をこなした歴戦の猛者が真顔で忠告するのだから、その言葉の重みは凄まじい。


だからアストは警戒する。


どんな雑魚だろうと油断はしない。


「……この場合はどうすれば」


警戒を怠らないアストの前にふよふよと青い蝶が飛び回る。


これは警戒するべき魔物なのか、それとも無害な野生の動物なのか、判断がつかずに立ち止まる。


青い蝶はアストの周りをクルクルと飛び回り、最終的にアストの肩に止まった。


(えっと……敵意? は無いっぽいね)


視界の端に青い蝶の羽がチラッと見える。


「ねぇ。君は魔物なの?」


返事など期待できないと分かりきっているのにそう尋ねてみる。


アストの質問に、止まっていた青い蝶は一度だけ羽ばたくが飛び立つ気配は無い。


「あれ……もしかして言葉分かる? ……って……ええっ!!? 君のその羽って!?」


青い蝶に視線をしっかり向けてみれば、木の隙間から射し込む光で煌めく羽。


その羽は────宝石で出来ていた。

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