051 初の【R】ランクアイテム
「これは……ハズレっすね〜」
アストは拾い上げたボスドロップ品にガッカリした様子であった。
【R】真珠
[高額で取引される美しい真珠]
「豚に真珠ってか?」
そんなことをボヤきながらも、表情ほどガッカリはしていなかった。
何せ、ようやく【R】ランクのアイテムがドロップしたのだ。
それ即ち、【R】ランクの武器や防具がドロップする可能性があると言うことである。
「……これは普段からお世話になってるフェイル嬢に贈ろうかな」
レアなアイテムがドロップしたら見せに行くと約束したという理由もある。
この世界で一番仲良しなのはグラムだが、一番お世話になっているのは受付嬢のフェイルなのだ。
これからもバンバンレア掘りしていくつもりのアストからしたら、初のレアドロップはお金の為に換金するより有意義な使い方であろう。
「でも……ちょっと恥ずかしいな」
家族以外の異性に贈り物などした事の無いアストは、何を贈れば女性が喜ぶか分からない。
その為、この真珠を贈って微妙な反応をしたり、困った顔をされたら申し訳なくなる。
「まあ、贈るだけ贈ろう。こう、さり気なく渡せば大した物だと思わないでくれるかもしれないし」
いざって時の心の緩衝材を用意しておくチキンぶりである。
「期限は一週間。今日が五日目だから、あと二日ほど潜りつつボス狩りもしようかな」
もしかしたら他にも【R】ランクのアイテムが手に入るかもしれないのだからやる気も出る。
アストは最短で一階まで戻り、リュックに【インベントリ】から取り出した豚肉を詰めていく。
今日のノルマを納品する為だ。
六日目と七日目は数回程度ボス狩りを行い、幾つかドロップ品を手に入れた。
【N】高級肥料
[この肥料を使って育てた作物は栄養価が高い]
【R】最高級肥料
[この肥料を使って育てた作物は豊作になる]
【N】高性能なスコップ
[攻撃力50 耐久値100]
[頑丈で軽い高性能なスコップ]
【R】最高性能の鍬
[攻撃力100 耐久値250]
[【丈夫】]
[硬い土でも難なく耕せるようになる]
【R】最高級の豚肉
[希少な豚肉を更に厳選した至高の豚肉]
【R】幻の豚肉
[一国の王族すら口する機会がほとんど無い幻の豚肉]
本来ならハズレ枠である【N】ランクのアイテムが大半を占めるのだろうが、アストの幸運値が尋常ならざるレベルゆえか、ドロップ品のほとんどが【R】ランクで占められていた。
「このダンジョンじゃ、武器や防具はドロップしない予感」
試行回数は二桁に行っていないので、断言は出来ないがそれでもドロップ品の傾向からしてもその可能性は濃厚と言えた。
ちなみに最高級の豚肉は五百グラムで、幻の豚肉に関しては百グラムである。
アストはドケチめと愚痴る。
これでは孤児院で子供たちに振る舞うのに一体どれほど周回すればいいか分からない。
農具に関しては、武器として使うものではないのだろうが、攻撃力が鋼の剣と同じであり、耐久値に関しては遥かに上回っている。
「さ、流石に農具を装備したくないぞ」
ゲーマーの頃は性能厨であり、ある程度育成が済んでからオシャレ装備などに切り替えて遊んでいたが、鍬を武器にする冒険者は流石にビジュアル的にアウトである。
「しかし、スキルが付いている。【丈夫】ってスキル的に耐久値が強化された御様子。むむむ……早く【R】ランクの装備が欲しいぞ!」
残念ながら最高性能の鍬に付いているスキルの詳細が分からない。
だが、だからこそ、そそるものがある。
「ランダムなのかな〜ランダムだと良いな〜」
レア掘りの醍醐味はランダムエンチャントと呼ばれるシステムにあるとアストは考えている。
ランダムエンチャントとは、武器や防具にランダムで色んな性能……この場合はスキルが付与されていることを指す。
これがあるとないとでは、やり込みの度合いが遥かに変わる。
百時間で遊び尽くせるゲームが数百時間から数千時間に化けるぐらいのビッグコンテンツだ。
アストはいずれ手に入れるであろう【R】ランクの装備に思いを馳せつつ、ハフが住まう孤児院がある街ロイシェンに向かって旅立つ。
この一週間で約金貨三十枚稼ぐ事に成功した。
孤児院に土産としての美味しい豚肉も大量にリュックに詰め込みルンルン気分である。
ロイシェンに帰り着いたアストは顔馴染みの門番に土産として、美味しい豚肉をお裾分けしながら孤児院に向かった。
冒険者ギルドを後にしたのは、リュックに詰め込まれた生モノである美味しい豚肉を持っていく事が憚られたのだ。
「おっ……炊き出し?」
昼過ぎ辺りで街に着いたものだから、孤児院では昼食にしていると思っていた。
だが目に飛び込んだのは、孤児院の庭で大掛かりな炊き出し。
ズタボロな格好をした者たちが配給をしている孤児院の子供たちから、芋などの野菜が浮いているスープが入った皿を受け取っていた。
(あの人たちは貧民街の……)
孤児院は貧民街と繁華街の境目に建っている。
その為、まるで境界線でもあるかの如く、貧民街の住人は繁華街には行かないし、その逆も然り。
そんな貧民街の住人たちが孤児院の炊き出しに赴いている。
貰ったスープを後生大事に両手で抱え、美味しそうに食べる。
「社会の縮図みたいだ」
富める者と貧しい者。
そして富める者は気まぐれに貧しい者に手を差し伸べる。
少しひねくれた考え方をする自分に、微妙な表情を浮かべるアストは首を軽く振り、孤児院に足を運び入れる。
「こんにちは、シスター」
「あら、アストさん。こんにちは」
中年のシスターは温和な笑みを浮かべアストを迎え入れた。
「炊き出しもやっているんですね」
「ええ。領主様に資金を頂き、週に数度ほど」
「なるほど」
ますますアストは領主が豚伯爵と呼ばれている事に違和感を感じざるおえなかった。
(よく良く考えれば、領主様の悪い噂を聞いたことがないんだよね)
暮らしがキツいと言う愚痴みたいなことを又聞きしたことならあるが、領主の圧政に苦しんでいるという住民には会ったことがない。
もちろん、口に出すだけで牢屋にぶち込まれるから、口を噤んでいる可能性もあるが。
アストは領主に会ってみたいと思った。
(まあ、一介の冒険者が会える人じゃないよね)
「おにーちゃーん!」
「ハフちゃ〜ん!」
アストは一週間ぶりに最愛の妹に再会した喜びでいつか会えればいいやと、領主の事を思考の端に追いやった。




