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050 ボスオーク戦

それからはあっという間であった。


広いボス部屋に瀕死のオーク達が転がり、それにトドメを刺し回るアストは多少呼吸が乱れていたが傷らしい傷一つ負っていなかった。


「本当に最後まで動かないとはね……天晴れだよ」


ゴキッゴキッと首のコリをほぐしながら、ボスオークは近付いてくる。


まるで準備運動は終わったか? とアストに尋ねているようだった。


「へぇ……素手なんだ。こんなにナメられちゃあ僕も少しカチンとくるよ」


獲物を持たないボスオークの余裕にアストは少しだけイラッとし、ならば自分も、と黒革装備一式と武器を外し地面に置く。


街行く平民スタイルになったアストは素足で軽く飛び跳ね、身体の調子を確かめる。


「ちょいまち……」


少し気だるさを感じた為、【インベントリ】から最下級の体力回復ポーションを取り出し、火照った身体を冷やすように頭からぶっかける。


揮発性が高いからか直ぐに乾いてしまうが、クールダウンには丁度良い冷たさであった。


ついでに動き回って消耗した体力も全快した。


「……よし。おーけー。これでイーブンだ。負けても文句は言わせないぜ?」


「ブゴッ!」


ほざけ! と、言わんばかりにボスオークが踏み込んで来た。


風きり音と共に残像を残すストレートが飛んでくる。


「ふっ……!」


(クソはやっ!)


アストの動体視力でも霞んで見える速さであり、辛うじて首を捻って躱す。


【見切り】の効果により、前兆を感じ取っていなかったら今のでやられていたのかもしれない。


その事実にアストは今更ながら、装備を解除するんじゃなかったと後悔した。


だが早いだけで、技術が無い大ぶりの攻撃だけに、アストは流れるようにボスオークの懐に潜り込み、ほんのり腹筋が見える腹にワンツーフィニッシュを叩き込む。


「シッシッ! フッ!」

「ブゴッ……!」


連撃の衝撃に数歩後退りしたボスオークだが、効かないぜ? とニヤリと顔を歪ませる。


(コイツ……腕力と頑丈値、僕より高いぞ)


雑魚オークの倍ところか、下手したら三倍近いステータス。


「これでEランクダンジョンかよ……へへっ。楽しくなってきたぜ!」


(コイツの敏捷と器用はさほど高くない!)


アストはボクシングのように常に足元を動かし、小刻みに揺れる。


「フゴォゥ!」


しゃらくせぇ! と、ボスオークはその図体を活かしタックルを仕掛けてくる。


「馬鹿め! 手玉だぜ!」


アストはサイドステップで横に逸れつつ、足を少しだけボスオークの進行方向に差し出す。


「ブゴッ!?」


足を引っ掛けられ転倒するボスオークに、アストは今! と、大きく飛び上がり、その背中に膝蹴りを叩き込む。


「ブゴ……ッ!!」


(ちっ! 頑丈なヤツだ!)


背骨をへし折るつもりで叩き込んだ膝蹴りも、その分厚い脂肪と筋肉により阻まれ反撃される。


ボスオークの裏拳をアブげなく飛び退くことで躱し体勢を整える。


「ふぅ〜……シッ!」


ボスオークが手をつきながら、立ち上がる直前に距離を詰め、その顔面を両手で掴み膝蹴りを叩き込む。


グチャとボスオークの鼻が潰れる音が響き渡る。


だがやられっぱなしではない。


ガシッと、アストの腕を掴みへし折るつもりで力を込める。


「ぐっ……させるかぁっ!!」


アストは掴まれた腕を軸にバク転する。


「ブボッ!?」


ぐるりと、掴んでいたボスオークの腕も曲げられ、その痛みに手を離してしまう。


(次掴まれたら不味そうだ)


掴まれた腕にはくっきりと痕が残っており、少しでも遅れてれば骨が砕けていただろう。


一瞬、その痛みを取り除くために【インベントリ】からポーションを取り出そうとし、動きを止める。


「甘えるな! 自分が招いたミスだ! 我慢!」


アストは自分を叱咤し、根性で痛みを堪える。


ボスオークも捻った腕を押さえながら、コチラを睨み付ける。


潰れた鼻から血が滴り、憤怒の形相と合わさり、地獄の鬼のような出で立ちだ。


お互い少なくないダメージを負っている。


だが、互いに引くことも臆する事もせずに、同時に踏み込んだ。


「ブゴッーーッ!」


ボスオークは熊のように手を左右に大きく広げ、真っ直ぐに突進してくる。


アストは上半身が地面に倒れ込みそうなぐらい倒し【縮地】で無理やり無駄を省き駆ける。


(……ここだっ!)


【見切り】によりほんの僅かだけボスオークの未来の動きを読み取り、紙一重にその掴みを躱す。


脇腹をすり抜け、背後に回ったアストはボスオークの腰に手を回し思っきり掴み、持ち上げる。


「ふぬぬぬっ」

「ブゴッ!?」


まさか自分が持ち上げられると思わなかったボスオークは一瞬だけ力を抜く。


(今!)


「しゃおらァァ!!」


空中に投げ飛ばされたボスオーク。


アストはすぐさま、しゃがみこみ思いっきり飛び上がる。


195もある敏捷値により、あとから飛んだのにも関わらずボスオークより高く飛び、十メートル程高い天井に足を着ける。


アストの真下に浮いたボスオークは為す術なく、自分の頭上に居るアストを見上げる。


「食らえっ!!」


天井を思いっきり蹴り、その勢いをボスオークに本日何度目かの膝蹴りを腹に叩き込む。


「ブゴッ!? …………ブゴガッ!!?」


アストの全体重を込めた膝蹴りと落下時の負荷、そして地面との衝突でボスオークの内臓は潰され、口から大量の血を吹き出す。


「はぁ……はぁ……しぶとすぎ……はぁ……」


無理をし過ぎた足は痙攣しており、それを引き摺るように歩き、口からとめどなく流れる血を吐き出し続けるボスオークの頭を足で挟み、両手を使って首をへし折る。


ゴキっ! と、鈍い音と共に、ボスオークは動きを止め光の粒子になり始める。


『レベルが19に上がりました。SPを40獲得しました』


「あーっ! 疲れたぁ〜!」


レベルも上がり大満足げに大の字になり、目を瞑る。


暫くそうして、ドロップ品を確認するべくアストは目を開いた。


眠たげな半目を輝かせる。

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