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005 初のダンジョンに大興奮

「さてと、拘束を解きますかね」


アストはブルタから得た情報を元に、腕力が21以上なら拘束を引きちぎれる可能性があると予測する。


その為、SPを使い取り敢えずスキルの補正込みで20以上になるように4ポイント振ろうとし、3ポイントで腕力が20に達した。


「小数点切り捨てじゃないとか親切〜」


13に1.5の補正で本来なら19.5だが、ステータスには小数点という概念が存在しないようで、四捨五入で20と表示されていた。


「ふん〜! ……本当に無理っぽい」


力いっぱい踏ん張ったが、縄はビクともしなかった。


腕力に更に1ポイント足して再チャレンジ。


「21じゃまだ無理と……ふん〜〜! あ、少しだけミシミシ言った」


合計5ポイント。腕力23で少しだけ縄がミシミシ音を鳴らす。


6ポイント目。腕力24で更に手応えを感じ、7ポイント目。腕力26。


「ふんが〜! …………いったぁー!」


プチプチと縄が千切れ両手が自由になる。


直ぐに足の縄も解く。


「ふぅ〜取り敢えずこの縄は【インベントリ】に収納しておこう」


足の方の縄は無傷なので、後で使い道もあるだろうと取っておくことにする。


あと13ポイントしか残っていないSPを見て思考する。


「さて、あと13ポイント。三日以内にスピード型のブルタ氏を倒す為のレベル上げを本気でしなければならないね」


ブルタはアストが逃げ出しても直ぐに追いつくと言ってきたことから敏捷にポイントを多く振っているのだろうと推測。


ダンジョンから脱出して最短で街に帰るという選択肢もあるが、行商人以外の仲間が居ないとも限らない。


最悪、ダンジョンの外に出た瞬間、待ち伏せにあう可能性もある。


「う〜ん。必死にレベルを上げて正面からボコるのが一番不安要素少ない?」


それにリミットが三日と言っても、ダンジョンはそんなに狭い場所ではないだろうから、逃げ回りながら魔物を狩ってレベルを上げるという選択肢は十分に現実的だ。


「スピード型だから見つかったらほぼ詰むだろうけどね」


どれほど敏捷に振っているのか分からないが、レベル22というのはレベル1のアストには果てしないほど高みの相手なのだ。


ブルタの言動からして本来初期に持っているSPは10。楽観的に考えても、レベル1ごとにSP10獲得するとしたら、それだけでSP220分がステータスに反映されているのだ。


「僕が攻勢に出る可能性もあると想定して、昨日はステータス関連の質問をはぐらかしたな〜」


もちろんゲーマーのアストは先輩冒険者のブルタに色々尋ねたが、ほとんど答えてくれなかった。その時は、何でも教えてくれるほど世間は優しくないのだと、身を張って教えてくれているのだと都合よく解釈してしまった。


恐らくその質問攻めもアストがレベルを上げていないことの裏付けになってしまったのだろう。


悩んでも仕方ないとアストは立ち上がり、準備運動をする。


「不眠不休で三日か……未知の体験になりそう」


魔物が蔓延るダンジョンでは迂闊に寝れないだろうし、恐らくセーフティーゾーンであるこの場所に寝泊まりなんかして、その間にブルタが帰ってきたら即ゲームオーバーだ。


つまり不眠で起き続け、レベル上げをしなければならない。


「出来ればレベルは10ぐらいになればステータスは拮抗出来る可能性が出るんだけど」


【天賦の才】の効果によりSP獲得量が倍になるのだ。1レベルで2レベル分強くなれると言ってもいい。


「短剣は没収されたし、素手でゴブリンさんの相手をしないといけないのは少しだけ不安だけど、なんとかするしかない」


こんな事なら【インベントリ】に短剣を収納しておくんだとアストは思ったが、その場合手ぶらでダンジョンに来る部分でブルタに不審がられるだろうから、こうなる運命なのだろう。


アストはセーフティーゾーンから出て、薄暗い洞窟の中を歩く。


ヒンヤリと肌寒いが彼の口元は綻ぶ。


過程はどうであれ、アストはダンジョンに潜っている。


ゲームの頃、数多のダンジョンを制覇してきたが、今がいちばん緊張しているし、ワクワクもしている。


(むっ……ゴブリンかな?)


前方から足音が複数響いてくる。


ベチンベチンと素足で地面を踏みしめる音だ。


人間なら靴ぐらい履いているだろうから、アストはゴブリンだと判断し背を低くしてクラウチングスタートのポーズをとる。


距離にして三十メートル。アストの視界に四匹のゴブリンが姿を現す。


緑色の肌。子供程度の背丈。腰には汚れた腰布を巻いており、手には不揃いな棍棒。


ゴブリン共は目が悪いのか未だにアストに気付かない。


(二十切ったら……やるぞ!)


人型の魔物だ。本来なら躊躇ぐらいするだろう。ましてや、地球に存在する国々の中でも非常に安全と知られる日本生まれのアストにはキツい相手かもしれない。


だが、そんな躊躇など一瞬にして振り払い覚悟を決めたアストの瞳はどこか仄暗い。互いの距離が二十メートル切った瞬間、短距離アスリート顔負けの瞬発力を発揮して、ものの三秒程で接敵。


「ギギャ!?」

「やあ! ふっ!」


先頭に立っていたゴブリンの顔面を躊躇なく殴り飛ばし、惚けている別のゴブリンの首を鷲掴みにし、最後尾のゴブリンに向けて投げる。


アストの細身からは想像できない腕力による仕業だ。


「ギャギャ!」


無傷なのは残った一匹だけ。


果敢にもアストに棍棒を振り下ろしてくるが、体格の差によりヒラリと横に避けたアストの足掛けにより転倒。


「ちょっとエグいけど……ふっ!」


飛び膝蹴りを転倒したゴブリンの頭部に叩きつけ、肉や骨が潰れたような嫌な音が洞窟に響きわたる。


「あと三匹……いや、二匹かな」


最初に殴り飛ばしたゴブリンは既に白い光の粒子になっており、転倒したゴブリンも数秒で同じく白い光の粒子を撒き散らす。


倒れ込んだゴブリン二匹は未だに昏倒しており、素早く近付いたアストにより一匹目は首をへし折られ死亡。二匹目は首を締められ窒息死。


全て白い光の粒子になったところでアストは座り込む。


「ふぅ〜上手くいって良かった」


今、ゴブリン達を皆殺しにした人間とは思えないほど爽やかな表情を浮かべるアスト。本人の冴え渡る才覚により人生初の戦闘は圧倒して終わった。


「…………それにしても、なんも変わらない。今、命を奪ったというのに。僕って……存外、サイコパス?」


まるでゲームとまでは言わないが、生々しい感触に触れた上でアストの心は平常心のままであった。


「転生する際に道徳心を置き忘れたか、はたまた最初からの気性なのか……今は、プラスに働いてるし気にしない方が良さそう」


四匹ではレベルは上がらなかったようで、ステータス画面を軽く確認してから休憩はおしまいと立ち上がり肩を回す。


「おっ……おおっ!? ドロップやんけ!」


不意に視界に入ったのはゴブリンが死んだ場所にぼつんと置かれていたアイテムであった。


近付きアストはそのアイテムを見て目を輝かせた。


「武器キタコレ!」


手に取ってみせると詳細が分かった。


【N】錆びた短剣

[攻撃力10 耐久値20]


アストは最初に持っていた短剣の詳細を思い出す。


【N】鉄のナイフ

[攻撃力35 耐久値50]


同じレアリティでもかなり性能差がある。


「無いよりはマシ!」


ブンブン短剣を振り回しその使い心地を堪能する。


周りをよく見れば、もうひとつドロップ品がある事に気付いた。


「うわっ……大丈夫だよね、これ」


手に取ってみせると同じく詳細が現れる。


【N】黒パン

[硬く、味も殆どしないパン]


何故か昨日の夕食に食した黒パンと同じものがドロップした。


「ドロップって武器防具以外もあるタイプかぁ〜沼るぞぉー」


いわゆるハクスラ系のゲームでは、ドロップ品の種類が多ければ多いほどお目当てのアイテムの獲得率が下がる為、多くのゲーマーは放置するか纏めて売っぱらって小銭にする。


「ゲームならまだしも、リアルで食料がドロップするのはありがたいけどね」


アストはそういえばお腹が空いていたと、少し躊躇した後に黒パンに齧り付く。


「かったぁ〜でも宿の奴よりうまい?」


味がほとんどしないと書いてあったのに、宿の黒パンよりもほんのり甘みのようなものを感じた。


ものの数分で完食したアストはしまった! と後悔する。


「の、喉が乾いた」


水気のない黒パンのせいで、アストの口の水分が消し飛んだのだ。


「ゴブリン倒したら水もドロップするかな……その場合、コップとかに入っていてくれると嬉しいんだけど」


さすがにその場で水だけドロップして床のシミになるようなことはと祈るアスト。


彼は気を取り直してゴブリンを探し求め、奥に突き進む。

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