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045 孤児院

祈りを終え、皆が目を開く。


そしてアスト達に気付く。


「あらあら、まあまあ……“おかえり“なさい。グラム、ロザリー」


中年の修道女は温和な笑みを浮かべ、グラムとロザリーに歩み寄る。


「ただいま……シスター」

「た、ただいま……」


少し泣きそうになるグラムと、気恥しそうなロザリーは、優しくシスターに抱き締められる。


「ちっとも帰ってこないものですから、こんなばばあの事なんか忘れたとばかり思いました」


優しげでありながら、毒を吐くシスターにグラムとロザリーは揃って頬を引き攣る。


「勘弁してよ、シスター。成人して此処を出たのにノコノコ遊びに来れないよ」

「あら。ですが、レベッカは月に一度は顔を見せに来ますよ? ついこの間なんて、御付き合いしている殿方をお連れになってますます綺麗になっていました」

「うぐっ……アイツそんなこと一言も……」

「普通は言われなくとも、顔を見せに来るものです。巣立った同年代の子達の中ではあなた達が最後ですよ。まったく、親不孝者ですね」


チクチクとシスターの嫌味に反省するグラム達。


「これこれ。それ以上いじめたら余計に帰ってこないじゃないか」


初老の神父が苦笑しながら、シスターを止めに入る。


「こほん。今日はこの程度にしましょうか。次からはもう少し顔を見せに来てくださいな」

「「……は〜い」」


助かったと神父を見る二人にシスターは気付きつつ何も言わない。


薄情な子らに少しいじわるがしたくなっただけであり、本質的には優しい人なのだ。


「それで其方の方々は?」

「初めましてシスター。僕はアストと申します。こちらは僕の妹のハフです」

「はじめましてっ! しすたー。ハフですっ。おっすぅ〜」

「やだ……かわいすぎる……っ!!」


一礼するアストと礼儀正しくお辞儀しつつおちゃめな一面を魅せるハフ。アストが若干キモイがツッコミ役のグラムとロザリーはシスターの手前大人しい。


初見のシスターは我関とせずおっとりとお辞儀を返す。流石は数多のヤンチャ坊主たちを育て上げた歴戦個体……じゃなくて歴戦の猛者である。


「実はアストは冒険者なんだ。妹のハフも訳ありでさ、アストが冒険者家業に勤しむ間、この孤児院で預かってくれないかって思って」

「よろしくお願い出来ませんか? ……こちらはほんの気持ちです」


アストは背負っていたリュックを下ろし、中を見せる。


野菜や肉、香辛料などの食材が詰まっていた。


「これは親切にありがとう。そういう事なら是非彼女を預からせてもらうよ」


黙っていた神父が口を開き、歓迎の意を示す。


グラムとそう歳の変わらない最年長の子供たちを呼びリュックを奥に運ばせる。


「あと、こちらもお納めください」


追い打ちと言わんばかりに銀貨が百枚詰まった革袋も神父に渡す。


「助かるよ」


それも喜んで受け取る神父の様子からして、やはりこの人数の孤児たちの面倒を見るのは大変なのだろう。


(毎日数十人分の食事とかの費用だけでも馬鹿にならないもんだよね)


銀貨百枚のお布施だとはたして何日分になるのやら。


足げよく通いお布施をしなければとアストはお金を配る先を見つける。


この世界に連れてきてくれたのはこの世界の神なのかもしれないのだから、こういう所にお布施をして恩返しせねばと燃える。


とは言うものの、今のお布施でアストの貯金残高はほぼゼロ地点突破改アストエディションになった。


明日の食事にすら困るレベルだ。


宿代は数日分先払いにしてあるので寝床には困らない。


「それではハフと呼んでもいいですか?」

「うんっ」


シスターがしゃがみハフと目線を合わせる。


「ちょうど今からお食事にしますので、どうですか? 御一緒に」

「いいの?」

「ええ。これから一緒に過ごすのですから御遠慮為さらずに」

「わかった〜おなかぺこぺこ〜」

「あら、ちょうどよかったわ」


ハフは一瞬でシスターに懐き、手を引かれて空いている席に案内される。


そしてそれを見計らって年長者の子が食事を運んでくる。手馴れたものだとアストは感心する。


「どうかな。君達も一緒に」


残った神父にそう誘われご相伴にあずかることにするアスト達。


ハフの隣りに順に座り運ばれた食事に注目する。


(思ったより具たくさんだ)


クズ野菜とかではなく、しっかりと切り分けられたいくつかの野菜が浮いたスープと黒パンのセット。


このセットはこの世界における定番のようで大抵の食事処にて提供されている。


(今度お肉いっぱい持ってきたらより良い食事に変わるかな)


悪くは無いが育ち盛りの子供たちには少し物足りないだろうと考え、次に挑むEランクダンジョンを思い浮かべる。


オークのみが生息するダンジョン。通称オークダンジョンにアストは指針を定める。


そこにはこの街での特産と呼んでもいいレベルの豚肉がドロップする。


以前、冒険者ギルドのギルドマスターが言っていたオーク狩りはそのダンジョンが所以だ。


食事を済ませたタイミングでハフを他の子らに紹介するシスター。


ハキハキと挨拶し、天使のような笑顔を浮かべるハフは間違いなくこの場所の人気者になるだろう。


既に複数の子供たちに囲まれ質問攻めにあっている。


そんな様子を穏やかな表情で見守っていたアストは今一度神父とシスターに頭を下げハフを頼む。


「安心してくださいな。でも、一番重要なのは兄である貴方が顔を見せに来ることです。どんなに聡い子であろうが、我慢強い子だろうが寂しいという気持ちはあるのですから」

「はい。毎日来ます」

「毎日はやめろよ。鬱陶しいだろ」

「あんちゃんはダンジョンに潜るんだろ? 日帰りだとほとんど稼ぎにならないんじゃないか」


Eランク以上のダンジョンはそこまで街に近い訳ではない。


歩けば片道半日は掛かるような距離ばかりだ。


アストの足があれば一時間も走れば済むが、やはり泊まること前提で潜るべきであろう。


(流石にいきなり一ヶ月潜る訳にはいかないよね。一週間程度で戻ってこよう)


ドロップするであろう豚肉のことを考えると腐らないリミットはその程度であろう。


アスト達が帰ろうとしている事に気付き駆け寄ってくるハフは上目遣いで懇願するようにおねだりする。


「おにいちゃんかえっちゃうの? いっしょにねよ?」

「んー泊まる〜」

「コラ!」


一瞬で陥落して泊まろうとするアストの頭にゲンコツを叩きつけたロザリー。


「いっっっ!? 痛い!? すっげぇ痛い!」


なんの痛痒も感じなかったアストと違い、鉄を殴ったような痛みがロザリーに跳ね返ってきた。


「あ〜ほら、ポーション」


アストは涙目のロザリーの頭にポーションをぶっかける。


「手にかけろよ!? まあ、痛みが和らいだけどさ!」


ゲーム脳あるあるの身体に回復アイテムを使用すれば、部位に関係なく回復するイメージのまま使った訳だが、しっかり効果が出ているようだ。


「不思議だね。もう、乾いてる」


ポーションはロザリーの頭皮に吸収されたように既に乾いている。


「本当だ」

「どさくさに紛れて触んなよ!」


これ幸いとグラムがロザリーの頭を撫でくりまわす。


「おにいちゃん……だめ?」

「ダメじゃない〜」


腰に抱き着かれてはアストに選択権などあろうはずが無い。


緩みきっただらしない顔を浮かべるアストにダメだこりゃとロザリーは額を押さえる。


「折角ですし、グラム、ロザリー。貴方達も泊まっていきなさいな」

「まあ、しゃーねーな」

「シスターが良いなら」


満更でもないロザリーと、嬉しそうなグラム。


そんな二人の事を知っている子供たちは目を輝かせる。


結局、全員泊まっていくことになる。


翌日。ハフに抱き着かれつつ目を覚ましたアストは前世含め、一番気持ちのいい目覚めだったと語る。

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