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041 幼なじみは苦労人

「カンザス氏。おすおーす!」

「おう。まさか、あんたが最近噂になっている『秘宝狩り』だったとは思わなかったぞ」

「何故知ってるし」

「癖みたいなもんでな。ついでに調べたんだ。気分を悪くしたならすまない」


路地裏から姿を現したカンザスは軽く頭を下げる。


どうやら、癖になっちまってんだ、調べるの。みたいな感じらしい。


アストは驚いたがそんなものかと首を横に振る。


「もうまんたい。気にしてないよ。流石に名前負けがすごいけどね」


何せ秘宝らしい秘宝を一度も手に入れていないのだから。


「期待されている証拠さ。いずれなればいい」

「そうだね。うん。頑張るよ」


話が一段落したことを察したグラムはカンザスに質問を投げかける。


「さっきの一足遅かったってのは?」

「情報だ。俺もさっき集め終わったから、教えようと思ってたんだ。まさか、他にもプロを雇ってたとは思わなかったぞ」


意外と抜け目がないな、と感心するカンザスにグラムとアストは苦笑いする。


「偶然だよ。カンザス氏に依頼する少し前に頼んだんだよ」

「そういうことか」


だよな、と今度は普通に納得する。


まだ十代のアスト達がそのような手段を思いつくなら、裏ギルドに勧誘してもいいレベルだ。


アストの精神年齢は二十代だが、それを気にしてはいけない。


「情報としては多分一緒だろうからな」


そうしてカンザスが語ったものは、確かに先程色気ある男性から聞いたものと一緒であった。


だが新たにロザリーの住んでいる住所を得た。


「今は同じ薬師見習いの連中と金を出し合って小さな一軒家を借りてるようだ」

「お、男は!? お、男は居ないよな!?」

「あ、ああ……女だけで借りてるみたいだぞ」


カンザスはたじろいながらも律儀に答えてくれる。グラムは今日何度目かの安堵のため息をつく。


「恋は盲目ですな〜」

「この場合は……依存と呼ぶんだぞ」


アストが微笑ましそうに呟くと、グラムに聞こえないようにカンザスがボソリと訂正する。


恋したことが無いアストには違いがよく分からないがそういうものかと納得する。


「でもそうやって必死になれる相手が居るのは悪いことではないよね」

「そう、だな。俺みたいな裏仕事やってると人間不信になる奴も居るからな」


人が裏で何を考えているのかなんて、下手したら本人すら分からないのだから怖い。


普通に働いていたアストは唐突にキレて怨嗟を振りまく大人しい同僚や、少しのミスでゴミ箱などを蹴飛ばす人望があった上司など色んな人物を見てきたからこそ、グラムの裏表のない純粋な一途さが羨ましくなる。


「それでどうしよっか。今すぐロザリー嬢に会いにいくの?」


落ち着いたであろうグラムにアストは今後はどうするか聞く。


グラムは一瞬だけ空模様を確認して頷く。


「明日は仕事を休みにしてもらって、早朝にロザリーの住んでいる家を尋ねてみるよ」

「一人で行く?」


アストが手伝うのは見つけ出すまでだ。


それ以降は部外者になる。


「いや、一緒についてきてくれ。ここまで付き合ってもらってあとから顛末だけ聞かされるのは嫌だろ?」

「そっか。なら、言葉に甘えようかな」

「話は纏まったか? 今回は差程お詫びになっていないから、もし何か頼りたいことがあったら連絡をくれ。……ここが俺が所属している裏ギルドに依頼する窓口になっている」


カンザスは手書きの地図をアスト達に見せ、覚えさせたところで燃やしてしまう。


「記憶の中にとどめてくれ。記録されるような物には書き写さないようにな」

「分かった」

「おっす」


アスト達の承諾を確認してサッと居なくなるカンザス。


「何回も悪いな」

「いいよ。暇だし」

「嘘つけ。昇級したんだろ? 暇なわけないだろ」

「ありゃ、ご存知で」

「生産ギルドじゃ有名人だからな。今更だが、昇級おめでとう」

「どーも! なんか奢ろうか?」

「それ、俺の台詞じゃないか?」


二人は他愛のない話をしながら遅めの夕食を食べに一般人向けの繁華街に向かう。


その足取りはとても軽やかであった。




翌日、早朝にグラムが宿まで起こしに来てくれたお陰で寝過ごさずに済んだアスト。


「……」

「朝はテンション低いのな」

「まあ……ね」


朝にめっぽう弱いアストは人によっては睨んでいると誤解を受けてしまう目つきで舗装された道を歩く。


不機嫌というより、頭が覚醒するまでに些か時間が掛かる為の無表情だ。


グラムは純粋な疑問が湧き、アストに聞いてみた。


「そう言えば、ダンジョンに一ヶ月泊まったりしたんだよな? その時はどうしてたんだ?」

「ゴブさんたちが起こしてくれるんだ」

「今なんて?」

「ゴブさんたちが木の棍棒で優しく起こしてくれるんだよ。それに、不思議とダンジョン内では直ぐに頭が冴えるんだよね」

「……そうか」


ようは対策無しに魔物蔓延るダンジョン内で無防備に寝ていたのかと察したグラム。


(こいつよく無事だったよな)


アストが強いのは知っているが、ここまで滅茶苦茶だと最早不安になる。


いつか冗談みたいな死に方をしそうという理由で。


何か誤解を受けているのは分かるが、誤解をとく気力が湧かずそのまま無言で歩く。


「ここみたいだな」

「ボロいね」

「だな」


平たい一軒家であり、壁にはひび割れやツタが伸び散らして半分廃屋に見える。


こんな場所にうら若き乙女たちだけで住んでいるのだと考えると不安になるグラム。正確には幼なじみのロザリーのみを心配しているだけだが。


(なんか、こう。お金でアップグレードしたくなる)


スマホの広告にありがちな半壊した家をパズルを解いて修繕していくゲームを思い出し、そんなことを考える。


「ちんからほい!」

「何してんだ、お前」

「ふっ……僕には魔法の才能はなかったみたいだ」

「はぁ? ……ああ。そうだな」


唐突に一軒家に指を突きつけたアストの素っ頓狂な行動にグラムはいつものかと勝手に納得する。


「取り敢えずノックするか」

「壊さないでね」

「さ、流石にそんなに……ボロくはないだろ」

「自信ないんだ」


錆び付いたドアノックを見ると、壊れない保証は出来なかった。


鍛冶師として、体力、腕力、器用にSPを振っている為、常人よりも力はあるのだから。


ドアノックを壊れ物に触るように丁重に扱い、優しくコンコンとノックをする。


シーン。


だが、一切リアクションは帰ってこなかった。


「今更だけどさ」

「なんだよ」

「こんなにボロボロなんだし、普通に呼んだ方が早いのでは?」

「お前頭良いな」

「でしょー?」


おだてれば必ず乗るチョロい奴だと思いつつ、グラムは近所迷惑にならない範囲の声量でロザリーを呼ぶ。


「ロザリー! 俺だ! 居るのは分かってんだぞ! 早く出てこい! さもないと……小さい頃シスターの花壇で漏らしたことをバラすぞ!」

「いや、もうバラしてるじゃん」


アストが珍しくツッコミを入れる。


そして家の奥から何かが落ちた音や壊れた音が連続で聞こえたと思いきや、ガチャりと扉が勢いよく開け放たれる。


「何バラしてくれてんだ! このクソ野郎ッ!!」

「久しぶりだな! 会いたかったよロザリー!」


グラムを見るなり、拳を振るってきたロザリーとは裏腹にグラムはその拳をヒラリと躱しロザリーの懐に入り込み抱き締める。


「ぎゃー! ちょちょ、何抱きついてんだよ!? は、な、せ〜!」


割とボーイッシュなロザリーを前にして、アストはにこやかな笑みを浮かべペコりとお辞儀する。


「初めましてロザリー嬢。僕は冒険者のアストって言います。以後宜しくね!」

「こんな状況で挨拶してくるやつに名乗る名は持ってねぇーよ!!」


ロザリーの大声がこだました。


ここは不味いと判断したロザリーにより、グラムとアストは腕を引っ張られ近くの大衆向けの料理店に連れていかれる。


大衆向けということもあり、早朝でありながらかなりの労働者たちが既に注文を済ませ、料理にありついていた。


値段は非常にリーズナブルであるが、その分大量生産によるものか、硬い黒パンとうっすらと味のするクズ野菜入りのスープのセット、そのスープに干し肉が申し訳程度に浮かんでいる欲張りセット程度しか注文出来ない。


欲張りの概念破壊を実行する料理もたまには良いよねとポジティブに捉え、普通に食すアスト。


元孤児院出身のグラムとロザリーも食べるものにケチをつけるようなことはしない。


その為、他の労働者同様に黙々と食べ進める。


「お腹空いたね〜」

「そうだな。この量じゃ物足りないよな」

「我儘言うなよ。アタシもグラムも見習いだろ? アストのあんちゃんみたいに滅茶苦茶稼ぎが良いなら文句を言ってもいいと思うけどさ」


半端な量を口にしたせいで余計にお腹が空いたアストに同意するグラム。


そんな我儘を言うなよと睨むロザリーだが、グラムは少し引っかかるように口を開いた。


「なんか親しい感じの呼び方だな? ……もしかして」


ロザリーのアストに対するフレンドリーな呼び方にグラムが少しヤンデレ化しそうになる。


身に覚えのないアストは首を傾げつつ、ロザリーの顔をジーッと見つめる。


そして見に覚えがあることに気付く。


「あ! 薬師ーズに居た一人だ!」

「今思い出したのかよ……」


そう。ロザリーは数日前まで一緒にダンジョンに潜っていた薬師メンバーの一人だったのだ。

 

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