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004 親切だからと言って善人とは限らない

アストはブルタと名乗った冒険者の男と翌日、早朝に街の外に依頼という形で出ることができた。


冒険者ギルドの出会いのあと、アストはブルタの提案を承諾し一緒にパーティを組み、ゴブリンダンジョンの調査の依頼を受ける。


安い宿も教えてもらい更には夕食すら奢ってもらったとあれば、チョロく更に無知なアストはブルタを信用してしまうのも無理は無い話。


その為、街から少し離れた場所にあるゴブリンダンジョンを前にして目を輝かせるアストは、背後でブルタがニヤリと嗤ったことを知る由もない。


ダンジョンに踏み入り、ゴブリンを探すべくちょろちょろするアストは次の瞬間、頭部に強い衝撃を受けて気絶する。


それを為したブルタは素早くアストを背負い、ダンジョンの奥に向かう。ブルタを発見したゴブリンたちが襲ってくるが、一瞬で首の頸動脈を切り裂かれ絶命した。


ブルタはDランク冒険者。ゴブリンダンジョンは駆け出しのEランク冒険者が挑戦するFランクダンジョン。格が違った。


ズキズキする頭部の痛みを感じつつ目を覚ましたアストは自分の両手と両足が縄で拘束されていることを理解する。


「おはようさん、坊ちゃん」

「……おす〜」


気の抜けた返事をするがアストは寝起きにしては冴えた半目をブルタに向ける。


視界の隅に広がるのはダンジョンの一室だと思われる空間。壁その物が僅かに発光している為か、薄暗くはあるが視界は良好であった。


「さて、自分の置かれている状況を理解してるか?」

「割かし」

「さすがはかの“大帝国“のお貴族様」

「……ほう?」


何やら勘違いしているブルタにアストは即座にその設定に乗っかるように眠たげな目を細める。


「イーテニュー大陸なら黒髪はそこまで珍しくはねぇ。だがこの大陸じゃあ、結構目立つんだぜ?」


知らなかっただろ? と問いかけてくるブルタだが、アストはそもそもこの大陸の名前すら知らないのだ。何とも言えずに沈黙すると都合よく解釈してくれたのか、ベラベラと話し始めてくれた。


「さしずめ、やらかしまくって旗色の悪い大帝国に見切りをつけてこの大陸に逃げてきたものの、路銀が尽き家族と別れて生活をすることになった元貴族の坊ちゃんってところだろ?」

「……さあ、ね」


図星かとニヤリと嗤うブルタだが、本当に何言ってるのか分からないアスト。


(でも黒髪はイーテニュー大陸とやらの出身と名乗っておけばいい感じなのは助かる〜)


何処から来たのか問われて、とても遠い故郷からとか言っても納得してもらえるとは限らない。そういう時に備えて、ある程度の設定は必要だろうとアストは考える。


今回は間違いなく災難だが、無知を武器にしてホイホイ常識かもしれないことを尋ねないで済み、尚且つ情報を得られたのは僥倖。


それにブルタの態度からしてアストを勘違いの逆恨みで襲った訳では無い事は分かった。


彼の顔からはどうやってアストを売りさばこうか考えているゲスい思考がダダ漏れだ。


「僕をどこぞの貴族にでも売るのかな?」

「あの大陸出身らしい考え方だな! まあ、その通りとも言える。坊ちゃんには奴隷として物好きな貴族にでも売ろうか考えているのさ。知ってるだろうが奴隷契約が施せる魔導具は大帝国が牛耳ってる。だから普通に首輪や手錠を付けられ地下に半ば監禁状態での飼い殺しだ。何をされるか分かったもんじゃないが俺を恨まないでくれよ」


肩を竦め、アストを脅すように言う。


ブルタの中では既にアストを売るための算段が出来上がっているのだろう。


何よりアストを襲った手際は手馴れていた。


今回が初犯とは考えづらい。


アストは猶予はあるのか、何か隙はあるのか考え、取り敢えずブルタに話しかける。


「とは言っても、僕と君は同じパーティを組んでこのダンジョンに来ているのは冒険者ギルドが把握しているだろう? そんな簡単に事が運ぶのかな〜?」


アストは敢えて余裕の笑みを浮かべブルタの計画の穴をつく。


「だから直ぐに坊ちゃんを街から引き離したんだろうが。こんな目立つ髪色のやつが街のヤツらに覚えられないうちにな。そして、いくら優秀な人材が揃っているギルドの職員でも、初日にチラッと顔を見せたルーキーの事なんざ覚えちゃいねぇのさ」

「……っ」


アストの前にしゃがみこみ、髪を鷲掴みにするブルタ。その目はとても醒めていた。


「サラサラの髪。マメひとつない手。シミひとつもない肌。……ハハッ、羨ましい限りだな。冒険者ギルドに期待しても無駄だぜ? 俺はこれでも十年以上あの街を拠点にしてんだ。信頼は得ている。坊ちゃんが勝手に突っ走って自滅したとても報告するさ」


そう言って、アストの冒険者カードを手に取ってみせる。


「冒険者ギルドって節穴だね」

「まったくだな」


同意しつつもブルタのそれは都合がいいという意味でだ。


アストの髪から手を離し、ブルタは立ち上がり踵を返す。


「何処に行くのかな?」

「知り合いの行商人に坊ちゃんを運ぶ為の準備を頼みに行くのさ。こういう事には手馴れたやつだから快適な旅を保証するぜ」

「できるだけゆっくり頼むね」

「三日もありゃ十分だ。その間、せいぜい将来のご主人様に媚びを売る方法でも考えておいた方がいい」


暗にここに三日間放置するつもりのようだ。


(バカめ! 直ぐにこの拘束を解いてやるぜ)


アストは三日以内にこのダンジョンを脱出して街に行く算段を考える。


そんなアストをまるで見透かすように、あるいは絶望させるようにブルタは言う。


「ステ振りしてなくてSPが残ってるってか? 例え全てを腕力に振ってもその縄は引きちぎれねぇーぞ? 腕力20じゃ、ちと足りねぇからよ」

「……どうして僕がレベル1だと思ってるのかな? もっと高いかもよ? 魔法使いだから腕力が低いだけかも」


何故バレてるしと驚愕し汗がダラダラ流れるが、顔は澄まし顔を維持する。


そんな虚しい虚勢もブルタは鼻で笑う。


「ハッ、素人丸出しでよく吠えるぜ。レベルは生物を倒すことでしか上がらねぇ。昨日、坊ちゃん自身が言ってたじゃねぇーか、人間はもちろん魔物も倒したことがないってよ」

「実は嘘です。僕のレベルは君の遥か高みで素人のフリをしていたのさ。分かったなら今回は不問にしてあげるから拘束を解きたまえ」

「今更おせぇーよ」

「あ、やっぱり?」


通りで初対面なのに昨日はご飯を奢ってくれたのだと、納得がいった。あれにはアストの口を軽くして警戒に値する何かがあるか探るためだったのだろう。


(レベルとかスキルのことは出来る限り口にしなかったけど、逆にそれ以外を疎かにしたのがダメだったね。反省)


「追い討ちをさせてもらうと、俺のレベルは22だ。万が一抜け出せても俺には勝てねぇぞ」

「なら、逃げの一手だね」

「安心しろ。直ぐに追い付いてやるから」


最後に殺気をぶつけられたアストは鳥肌が立ったが何とか漏らさずに済んだ。


ブルタの足音が遠ざかっていく。


地面に耳を当て、それを確認する。


十分以上経って、ブルタが居なくなったことを確認したアストはしれっと言い放つ。


「さてと、拘束を解きますかね」

 

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