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039 勘違いの出会い

結論から言えば貞操は無事である。


日が沈んでから深夜まで拘束されたアスト達は、無事に店から出られた。


グラムはしんどそうな顔をしており、ぐったりしているアストに肩を貸していた。


「勧められるままに呑むなよ」

「うっぷ……だってぇ……」


ノーが言えない日本人であるアストは、おむね様に注がれ続ける酒をひたすら飲む羽目になった。


その結果、視界が歪むわ、胃の中がタプタプだわ、喉から込み上げてきそうな胃液を抑えるのに精一杯だわと踏んだり蹴ったり。


グラムは親方の付き合いで良く呑みに付き合うこともあり、限界を超える前にストップした。


だが、その代わり年上に好かれる性格が災いしひたすら大人のお姉さんたちの話し相手になっていた。


「でも良かったのか? あそこに泊まらなくて」

「……勘弁してよ」


グラムは幼なじみのロザリー一筋の為、他の女性に興味が無い。だが、アストは健全な年頃の男性である。


暗に発散しなくて良いのかと、変なところて気遣うグラム。


おむね様の勤める店は、キャバクラみたいに最初は飲み食いとお喋りをしてから、気に入った女性店員と二階の寝室に消えていくシステムだ。


グラムは聞き上手で年上のお姉さんたちに人気があり、アストも珍しい黒髪とこの世界基準では童顔に入る顔立ちもあり、ことある事に誘惑してくるお姉さんたちに四苦八苦した。


「別に軽蔑したりしないぞ? 冒険者はストレスが溜まる職業だからな。俺たち以外の客は大抵冒険者だったろ?」


死と隣り合わせの仕事ということもあり、ストレス発散に夜のお店に駆け込む冒険者は少なくは無い。


だがグラムは勘違いしていた。


それは一般的な冒険者の話であり、アストの場合は違う。


「僕、冒険者になってこのかた、ストレスを感じたことないんですけど」


生粋のゲーマーであり、異世界ばっちこい精神であるアストにストレスなど存在しない。


「そ、そうか……」

「それにね、ストレスっていうのはね、日々の鬱憤が少しづつ溜まりに溜まった後にどうしようも無い段階になって、あ、死ぬかもと考えるようになってからが本番だよ……そっからね、むしろ楽しいんだよ。だって、全てがどうでも良くなるからさ。翼が生えたように身体が軽くなるんだ」

「わ、分かった! 分かったから、もうやめてくれ!」


怨嗟のようなことを延々と耳元で囁かれグラムは怯えたように叫ぶ。


「って、僕の知り合いが言ってたよ……うっぷ」

「お前の話じゃないのかよ!? ああ、ほら、いきなり饒舌になるから具合が悪くなっただろうが」


ネタに走るために一時的に自分の体調をガン無視したぶり返しによりアストの顔色が更に悪くなる。


「えっと、吐くかもしれないし、取り敢えず路地裏に行こうか」


さすがに道中で吐かれては溜まったもんではないと路地裏にアストを連れていく。


どうやら異世界でも吐くなら路地裏が相場らしい、とくだらないことを考えるが本格的に視界がぐわんぐわんしだして思考が停止する。


「ここで休もうか……ほら、ゆっくり腰をおろせよ」


路地裏の中程で比較的清潔な石畳の上にアストを座らせる。


「ぅぅ……」

「大丈夫そうか?」

「アタマイタイ……クチカラリバース……絶不調スパイラルキブン」

「ごめん。何言ってるのか全くわからん」


アスト本人も何を言っているのか理解していないのでしょうがない。


そうしてしばらく浅い呼吸を繰り返すアストを心配そうに見守っていたグラムは不意の足音に顔を上げる。


「お前たちか? ロザリーを探しているのは」

「えっ……もしかして情報屋か?」


外套で姿を覆った小柄な人物がグラムに尋ねる。


その声音は若い女性の声である。


「答えろ。お前たちか?」

「そう……だが」


威圧的な態度の女性にグラムは困惑しながら答える。


「そうか……お前たちが()を探していたのか」

「……は? な、何言ってんだ?」


何かを勘違いした女性は姿勢を低くする。


「何処の組織の者か知らんが……死ね!」

「っ!?」


グラムでは視認できないレベルでの踏み込みによりほぼゼロ距離から女性により振り抜かれた短剣がグラムの首元に吸い込まれる。


「ごめんよ!」


だがその前にアストがグラムの首根っこを掴み後ろに引っ張ることで短剣を辛うじて避けることに成功した。


「ちっ!」

「ふっ! ……勘弁してよ。こっちは絶不調なんだからさ!」


もう片方の手に握られた短剣の一撃もかろうじて防いたアストは女性から距離を置きつつ、グラムを庇うように剣を構える。


足元が覚束無いアストは気合いと根性で踏ん張る。


恐らく【我慢】のスキルも仕事をしているからこそだろう。


(どうする? SPを振るか? 敏捷に振ろうか)


ブルタと同じ短剣二刀流であり、動きからしても速度重視だと判断する。


(感覚的にはブルタ氏の上位互換)


あれから強くなった今のアストなら、ブルタに負けはしないだろう。


いくら体調が最悪とはいえ、ステータスは嘘をつかないのだから鋼の剣と打ち合える女性が弱いわけがなかった。


「そいつが護衛というわけか。フッ……酔っ払いが護衛とは面白いな」


鼻で笑われてしまったが、護衛ではないのでスルーするアストは密かにSPを振り分ける。


「どうして襲ってくるんだよ!? 俺たちはただロザリーのことを調べていただけなのに!」


グラムはようやく混乱から回復したのか、そう女性に問いかける。


「ハン! それが問題だろうが。私のことを探るやつなんざろくな奴は居ない!」

「ひ、人違いだ!」

「抜かせ!」

「下がってて!」


再び飛び込んできた女性の連続攻撃をアストは必死に捌く。


腕力30。頑丈30。器用30。敏捷30。合計120ものSPを振る。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


個体名 アスト 種族 人間 性別 男 年齢 15


レベル 18

体力 1000 (2300)

魔力 200 (460)

気力 200 (460)

腕力 80 (120)

頑丈 80 (120)

知力 20 (30)

精神 20 (30)

器用 90 (135)

敏捷 130 (195)

幸運 50 (1050)

SP 30


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


(ヤバいっヤバいっす! 上位互換ところじゃないよ!?)


恐らく全快したアストでも勝てないと感じさせるほど実力の差があった。


何せ器用値が近いか上回れば相手の動きを予測できる【見切り】が全く働かないのだから、少なくとも器用値に関しては遥かに女性が上だ。


「酔っ払いにしては動けるな! だが、これで最後だ……死ね!」

「死ね! じゃねぇーーよぉ!!? この馬鹿野郎が!!!」

「いっ……たぁ!?」


頑丈に残ったSPを全振りしようとしたアストは実行する前に乱入した者により阻止される。


女性と同じように外套を纏った男性が女性の頭にゲンコツを叩き込んだのだ。


「おまえは! なに! 一般人! を! 攻撃! してんだ! このボケェ!!」

「ゲェゥ!?」


叩き込まれるゲンコツの嵐により石畳の上でぶっ倒れ痙攣する女性。


いきなりのことでアストもグラムも見ていることしか出来なかった。


(この男の人の方が遥かに強い……?)


女性の方はまだ想像出来る強さだったが、男性に関しては今のアストでは全く図れないレベルの強者であった。

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