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036 Dランク冒険者

食事会を終え、本来なら報酬を支払って現地解散であった。


だがドロップ品が荷台に積まれ、その壮観な光景に街まで一緒に帰りたいと言い出す者が続出し、結果全員で帰ることに。


今回にあたり、受付嬢であるフェイルからは少し叱られてしまった。


「冒険者なのですから、依頼するなら冒険者ギルドを通してください。そうすれば参加した方々は昇級する為の実績になりますし、後から新規での参加などは防げたはずです」


ごもっともなお叱りであった。


受付嬢だけでなく裏方の職員たちも総動員し、ドロップ品を捌く騒動になっているのだからアストが悪い。


とはいえ連日納品に来ているので手慣れなものでドロップ品の山が徐々に消えていく。


その様子を見届けた一同は解散していく。


「俺たちはパーティーを組むことにしたよ。時間はかかるかもしれねぇーが、Dランク冒険者を目指すぜ」

「私も自分で稼いでもっと美味しい料理が作れるように頑張るよ」


初日組は何組かに分かれてパーティー組むことにしたようだ。


パーティー申請もこの騒ぎの間に済ませた様子。


彼らの変わり身に驚きつつ嬉しく思うアスト。


「大将のおこぼれをじっと待つような腐った真似はしねぇーさ。俺達もできることからやっていくぜ」

「料理をしまくったからか【最下級料理術】も取得出来たからね」


嬉しそうなアストの笑顔に照れくさそうにしながら補足する冒険者たち。


「よーし。そんな君たちに僕からこの言葉を送ろう……君の……君たちの旅路に幸運があらんことを!」


最初に浮かんだ言葉は消え失せ、何故か別の言葉が浮かんだ。


それは何処かで聞いたような気がするものの思い出せはしない。


中年冒険者たちと別れ、次に更生組がやってくる。


「俺たちも頑張るっす!」

「アニキの子分に恥じない行いをしていくっす!」

「俺たちみたいに悪さをしようとする奴が居たら止めるっす」

「怖い半目の冒険者に狩られるぞ! と脅すっす!」

「おい! 風評被害も甚だしいぞ!」


最後まで賑やかな連中だと少し羨ましくなる。


「やあ、『秘宝狩り』」


次に声をかけてきたのは吟遊詩人であった。


「私はそろそろ旅立つことにするよ」

「早くない?」


急ぎすぎだろと思わずにはいられなかった。


吟遊詩人は人好きする笑顔を浮かべ、軽くサウルハープを奏でた。


「君の活躍はいずれ国を越え、大陸中に轟くであろう。ならばその先駆けに私はなろう。君のような人に出会えたのは旅に出たからこそ。ならばこそ、旅はやめられないのさ」


これからも多くの英雄に出会うために彼はひとつの場所に長くは留まらない。


「そっか。なら貴方にも、この言葉を送るよ。……君の旅路に幸運があらんことを」


味をしめたアストは同じ言葉で吟遊詩人を送り出す。


「「「「「お疲れ様でした〜」」」」」


次に来た薬師ーズは最後までマイペースであった。


最後に残ったのは最初に出会った薬師だけ。


「お疲れ様です」

「そっちこそ、お疲れ様」


一週間ばかりの付き合いだが、気安い友人になれたようにアストは思う。


「久しぶりに楽しめました」

「そう? まあ、僕もこんなに大勢でダンジョンに潜って狩りをするのは新鮮で楽しかったよ」


この一週間は本当に楽しかったとしんみりする。


薬師はしんみりするアストの手を両手でギュッと握る。


いきなりの出来事にアストは驚き、顔を少し赤らめる。


「いつかきっと……またお会いしましょう」

「お、おす?」


なんだか、アストにはそれがもう会えないような言葉に聞こえた。


「アストくーん! 精算が終わりましたよー!」


受付カウンターからフェイルがアストを呼ぶ。


「わ、分かりましたー!」


返事を返すうちに、薬師は手を離し距離を取る。


「さあ、行ってください」

「う、うん……さっきのって」


アストは追求したくなったが、それを薬師は笑みで押し止める。


「貴方が旅を続ける限り、冒険者である限り……いずれ出逢えますよ」


そう言い残し、薬師は遠ざかっていく。


「あ、言いそびれちゃったな」


(君の旅路に幸運があらんことを)


アストはまた会えるだろうと、受付カウンターに向かって歩き出した。


「おめでとうございます。今回の納品により、貴方はDランク冒険者に昇級しました!」


金貨や銀貨が詰まった革袋を受け取りアストはDランク冒険者に昇級した。


(Dランク冒険者! なんだろう……この達成感!)


じーんと感動に浸るアストを微笑ましそうに見守るフェイル。


「Dランク冒険者になったことで行けるようになったEランクダンジョンの情報は入りますか?」

「入ります!」


アストの扱いにも手慣れ、絶妙なタイミングで餌ならぬ情報をチラつかせる。


(うわ〜この子って意外と……)


そこまで思い浮かべたところでぷるりと寒気がしたので、隣の受付担当のラズリーはそれ以上考えることをやめた。


Eランクダンジョンの情報も得られ、ドロップ品の納品で懐も暖かいアストは上機嫌にギルドから出て行った。

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