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035 一週間お疲れ様

目が覚めたら目の前に薬師の顔がまじかにあり、思いっきり飛び起きそうになりながら起床する。


流石の【熟睡】スキルでも丸一日分の疲労を回復するにはかなりの時間を要したらしく、既に目を覚ましていた冒険者たちがドロップ品の水とかを飲んで雑談に花を咲かせていた。


「おはよう大将。意外と早いな。まだほとんどは寝こけているぞ」


これが若さか〜、と中年冒険者と比較的歳が近い冒険者たちがしんみりする。


だが彼らの表情はこの一週間で随分明るいものになっていた。


少なくとも毎日、生きるためだけにダンジョンに潜る陰鬱な様子はない。


「よいしょっと」


彼らの輪に加わるように腰を下ろすアストに、ドロップ品の美味しい水を中年冒険者が手渡す。


「水が美味しいと感じたのは初めてだし、これがボスドロップだと思うと本当に不味いダンジョンだよなぁ」

「でもコレのお陰でダンジョンに一ヶ月は籠れるんだよ?」

「普通は籠らねぇーよ」


みんなして笑いながら、美味しい黒パンを頬張る。


アストが狩ってドロップしたアイテムのハズレ枠である食料などは普通に食べてもいいことにしている。


何せドロップ数が百を超えているし、無くなりそうでも【インベントリ】から密かに補充するつもりだ。


「久しぶりに狩りに来たけど、本当にスッカラカンだよね〜」


居ないだろうと思っていたが、ここまで冒険者に嫌われているダンジョンも珍しい。


「そりゃあな。大将みたいにレベルを上げたいとか、ボスドロップ狙いでも無ければ人に似た魔物を好き好んで相手にはしねぇのさ」

「でもダンジョン外のゴブリンは殺したら死体残るよ?」


街に近いダンジョンばかり故なのか、アストは運良くダンジョンの外に生息する魔物を狩ったことがなかった。


だが、ダンジョンと同じように倒したら光の粒子に変わるみたいなことは無い、という事は受付嬢のフェイルから聞いた。


だから死体が消えるダンジョンの方が倒す難易度が低いのだとアストは言う。


「そりゃあそうだが、野生の魔物は倒したら金になるからな」

「単価は安いけど、倒しても討伐金が貰えない魔物が居ないのもありがたいよな」


ダンジョンの魔物はドロップ品が出なければ、装備品の耐久値を削るだけになる。


だが野生の魔物は討伐の証を剥ぎ取りギルドに提出すれば報酬が手に入る。


「倒し方によっては何も残さない魔物も居るらしいぜ」

「アンデッドを光魔法で浄化するやつだろ?」

「あとは、火魔法で燃やしちまうとかか?」


欠損が激しい倒し方をすると、討伐を認めてもらえない場合もあると言う。


「まあ、倒し方を気にするようなランクじゃないけどな」


その言葉で締めくくられた。


それからもポチポチ寝ていた冒険者たちが目を覚ましてくる。


ボサボサ頭の女性冒険者と料理担当たちも目を覚まし、美味しい黒パンに焼いた美味しい肉とレタスのような野菜を挟むサンドイッチを作る。


それらをヨダレを垂らす勢いで見つめる冒険者一同。


十分な数を作り終えたところで、全員起きてくる。


そしてゆるりと食事会に移行する。実際は宴会のようなものになってはいるが。


アストは全員の前に立ち、この一週間についての感想のようなものを語り出す。


「ごほん……えぇ〜本日はお集まりいただき誠にありがとうございます。皆さんのお陰で非常に充実した時間を過ごすことが出来ました。一週間という約束でしたが、エンドレス周回は最終日も兼ねたものになりましたので今日で終了です……最後はぱーっと行きましょう! カンパイ!」


「「「「「カンパイ!」」」」」


お酒はあった方がいいと言う吟遊詩人のアドバイスから、全員起きてくるまでにアストが街に一度戻って調達してきたものを掲げる。


アストは普通の果実ジュースだ。


一応、この世界でも十五歳は成人しているので飲めるが、前世では付き合い以外で飲みたいと思えるほど美味しいとは思わなかったのでパスだ。


お酒が飲み放題だと大喜びで飲む冒険者たちを横目に、ほんのり甘いジュースを味わう。


「このドロップ品の山を運ぶのは骨が折れそう……」


今日の主役と言わんばかりに、中央に鎮座している三つのダンジョンでかき集めたボスドロップの山。


それを前にして、【インベントリ】の存在を明かして収納したくなる。


「そうだね。運ぶ時は荷台を借りてきた方が良い」


さっきまで冒険者たちのリクエストの音楽を奏でていた吟遊詩人がアストに近づきながらアドバイスをする。


「あのさ、アイテムどかを収納するスキルってある?」


吟遊詩人とは短い付き合いながら、信頼できると考えたアストはそう尋ねる。


「ああ、あるね。【アイテムボックス】と言う〖SR〗のスキルがね」


【アイテムボックス】と聞いてアストは自分の【インベントリ】がそれの上位互換みたいなものだと判断する。何せ【インベントリ】は〖SSR〗のスキルだからだ。


「ちなみにそのスキルを持っている人ってどれぐらい居るの?」


本題はそこであった。


「そうだね……数万人に一人ぐらいかな。大抵は発覚したらすぐに国から囲われるから、滅多に会えないと思うよ」

「そ、そうなんだ……」


これは本格的にバレる訳にはいかないと確信する。


(これから掘ったレアドロップはこまめに持って帰るか、ドロップが渋いから数が少ないと誤魔化さないとね)


これまではさほどレアなものはドロップしてこなかった。


あくまでドロップ率が渋いからこそのレアであって、本当の意味での価値の高いレアではなかった。


だが、アストがこれから掘ろうとしているモノはこの世界における本当のレアアイテム。


そんなものを大量に獲得し、尚且つアイテムを収納するスキルまで持っていることが知られれば拉致監禁されかねない。


(ごめんみんな! せめて自衛出来ると確信するまで待っておくれよ!)


冒険者みんなにレア装備を。という目標ははるか遠くの目標になってしまったのであった。

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