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034 エンドレス周回

体力値は補正込みで現在1150。


休みなく動こうとすると十時間ぐらいでばてる。


今回は約丸一日になるので体力値に50ものSPを振ることにする。


アストはこれからもソロで冒険者をやっていくつもり故、体力は多いに越したことはないのだ。


その結果、体力1000 補正込みで2300。


大体レベル1からレベル10相当のSPを体力に振った形になる。


【天賦の才】を持っているアストだから出来る暴挙であり、他の冒険者ならかなりキツい冒険者生活が待ち受ける事だろう。


(ふっふっふっ。これで約一日動き続けても疲れないぞ〜)


腕力や敏捷などの身体を動かすことに繋がるステータスは上げれば上げるほど体力の消費量は増える。


また、体力はゲームで言うHPの役目も担っているのでダメージを受けても減る。


そして不確定だが、知力を上げれば頭の回転や物覚えが良くなるがその分脳が疲労する。


その疲労を軽減してくれるのが精神値ではないかとアストは考える。


物理的なダメージを受ける時は頑丈値により軽減が入る。


ならば精神的なダメージはやはり精神値による軽減が入るのではと。


脳の疲労は身体の問題だろ! とツッコミたいが頭を使いすぎた時の気だるさは体力面というより精神面の疲労だ。


それにこの考えの方がしっくりくる。


魔力は魔法などのスキルにより消費される。


気力は武術などのスキルにより消費される。


これは旅をしてきた吟遊詩人から得た情報だ。


魔力は消費すると精神的にキツくなり激しい頭痛に襲われ、気力を消費すると五感などが鈍くなりそして激しい眠気に襲われる。


吟遊詩人の持つ【下級演奏術】は【R】ランクのスキルで、本人が楽器を奏でるか歌うかで気力を消費し仲間にバフを掛けることが出来る。


【最下級演奏術】の時は、多少上手く歌えて上手く楽器を操れるだけのスキルだった。


それが【下級演奏術】にランクアップしたことで戦闘でも役に立つようになり旅に出る事にしたとの事。


そんな吟遊詩人本人の体験談なのだから、間違ってはいないのだろう。


とどのつまり、どのステータスにSPを振っても無駄にはならないという結論になる。


そして一気に体力にSPを振ったものだから、それの正当性を証明する為に長ったらしい考察をして精神の安定化を図ったのだ。


その結果、次々にバテていく冒険者たちとは裏腹にアストはボスを狩り続ける。


疲れたら交代。そして、ドロップした食材を調理し食べる。回復したら疲れた者と交代。


これをループさせる。


最初は美味い飯にありつけるならと意気込んだ、今日参加した冒険者たちも次々生気を失ったゾンビみたいに無口になっていく。


「な、なんでアイツあんなに動き続けてるのに元気なんだよ……」


そして皆口を揃えて、アストの化け物っぶりに恐れ慄く。


最初のホーンラビットダンジョンで、期間限定新規加入者キャンペーンに申し込んだ冒険者は半分に減る。日当銀貨十枚を支払っておさらばした。


初日組と更生組は根性で付いてくる。


薬師組はこまめに自作ポーションを飲んで体力を回復させ、コボルトダンジョンでは珍しく各々が武器を持ち出してコボルトを狩っていた。


吟遊詩人は早々にボスドロップの山の番人になり、疲れ果てた仲間たちをサウルハープの音色で癒す。


「ポーションの存在忘れてた!!」


ポーションも短期間に服用しすぎると効果が低下するというデメリットはあるが、併用すれば少なくとも体力に50ものSPを振る必要は無かったと、泣きながらコボルトダンジョンでの周回をする羽目になった。


新規勢は数名根性がある者を残し、全員リタイア。銀貨十枚では可哀想なので銀貨二十枚の支払いをした。


最後のゴブリンダンジョンの前で、ボサボサ頭の女性冒険者が死んだ目で調理し、他の料理担当も似通った目で同じように調理する。


「ゴブリンダンジョンは初めてだ」


中年冒険者や何年も冒険者をやっている者なら何度か足を運んた事があるダンジョンでも、最近なりたての冒険者たちは初めてのゴブリンダンジョンである。


恐らくこの中で一番ゴブリンダンジョンを知り尽くしているだろうアストが得意げに語る。


「ここのゴブさんたちは棍棒を武装してて迎えてくれるんだ。とってもお茶目でね、足とか切り落とすとパニック起こしてそのまま死んちゃう個体も居るし、這いずってきてくる個体も居る。試しに目だけえぐ「そこまでにしてくださいね」」


薬師がアストの口を素早く塞ぐことで、割と人間に近い姿のゴブリンに対する倫理観ゼロの行いをこれ以上聞かずに済み、安堵する一同。


ゴブリンダンジョンが不人気なのも、人間を相手にしているように感じる冒険者が一定数いるからだ。


アスト曰く、マスターヨ○ダはビジュアル的に大好きなのだが、敵としてててくるなら割と容赦しない。だって戦犯だし、とのこと。


だからゴブリンは余裕で狩れるのだと、訳の分からない持論を展開する。


そんなこんなで、最後の休憩を終えゴブリンダンジョンでの周回を開始した。


アストはえも言えない気持ちになった。


(雑魚狩りしなくてもボスゴブリンを殺れるなんて!)


ひと月を雑魚狩りに、もうひと月をボス狩りと雑魚狩りを繰り返す生活を送っていたアストにとって、こんなにボスゴブリンを狩れる日が来るなんてと感動する。


丸一日の周回を終え、ゴブリンダンジョンの前にはアストと薬師以外が動けずに倒れていた。


吟遊詩人は一人だけ気力を消費するので、もはや燃え尽きたように眠っている。


死屍累々とした光景の中、薬師はアストに話しかける。


「お疲れ様ですね。まさか、本当に丸一日費やすとは思ってもいなかったですよ」

「そういう薬師さんは普通にピンピンしてますよね?」


アストみたいに夜間テンションになっているわけでもないのに、少し疲労を感じさせる表情以外は普通に立って会話ができる程度には余裕があるのだ。


薬師は胸を張る。


「鍛えてるんですよ」


いつも大人びいた薬師の少し子供っぽい仕草に、アストはクスッと笑う。


「それに、これでおしまいですよね?」

「そう、なるかな」


このエンドレス周回は実質七日目も含まれている。


これ以上やったら、本当に収拾がつかなくなりそうだからだ。


だから、割と無茶をして周回がウンザリと思わせれば真似る人は現れないだろうとも考え決行した。


アストの意図を察した薬師はそう尋ねたのだ。


「とりあえず一眠りしたら、みんなで最後の食事会にしようか」

「そうですね。例え草木の上でも今なら爆睡出来る自信がありますよ」


よく耳を澄ませば、何人かは既に寝息を立てている。


「ドロップ品の皮とかで簡易の寝床を作ろっか」

「ですね」


比較的動けそうな者たちを動員し、ドロップ品の皮を草が生い茂った地面に敷いていく。


ドロップ品の山を囲うように寝床を用意して、一応パクられないように対策する。


そこら辺で寝ていた冒険者たちを運び、起きていたほかの面々も寝転がり寝息を立てる。


「それでは私たちも寝ましょうか?」

「そうしよう」


アストが空いてある場所に横たわると、手で触れられる距離に薬師が同じように横たわる。


「ち、近くない?」

「嫌ですか?」

「そ、そんなことないよ」

「ならいいじゃないですか」


照れくさくなりアストは薬師に背を向けて寝る。

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