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032 幸運値の不遇さ

早朝にドロップ品の納品と、生産ギルドのギルドマスターに黒皮を余裕を見て五枚ほど受け渡しに薬師と一緒に行く。


「期待を裏切らねぇなこんちくしょう!!」


ごきげんな筋肉の塊であるギルドマスターに背中をパンパン叩かれ、普通に異世界に来てから二番目に痛い思いをした。一番目はブルタの【加速】からの一撃なので、どれだけ痛いか分かるだろう。


「こんななりでも、生産ギルド一の裁縫師なんですよ」

「鍛冶師じゃないんだ!?」


どこに使うんだ、その筋肉はと思わずにいられない。




「何だか久しぶりな気がするな」

「えっと……」

「グラムだよ、忘れんな」


鍛冶師見習いの少年ことグラムとコボルトダンジョンで再会。


毎日来ては居たものの、会うことがなかったのだ。


「そうそう、グラム君だ。幼なじみとはどう?」

「いきなりだな」


アストのマイペースぶりに苦笑しながら話してくれた。


「聞いてみたんだよ。大丈夫かって、そしたら何でもないって笑顔で言われたよ……嘘のな」


話すうちにドーンダウンしていき、顔が曇るグラム。


「アイツ嘘が下手なんだ」


きっと、普通の人なら分からない程度の変化なのだろうが、文字通り幼なじみだからこそ分かってしまうのだ。


「俺に出来ることって無いのかな」


どんどん沈んでいくグラムを見て、話題を振ったことを後悔するアスト。


「取り敢えず、僕も今の用事を済ませたら色々調べてみるからね。そうしたら何か分かるかもしれないよ」

「あ、ありがとう……どうしてそこまでしてくれるんだ?」


アストが思いのほか親切ゆえに、嬉しくも困惑してしまう。


そんな彼にアストは照れくさそうに頬をかく。


「何気にこの街で一番会話してるの君なんだよね」


コボルトダンジョンでちょくちょく会うし、相談があったとは言え食事にも誘われたのだ。


ある意味、この異世界で一番親しい他人なのかもしれない。


「まあ、その、と、友達……のよしみだよ」


そっぽを向いて小声で言うが、グラムにはしっかり届いた。


彼は優しい顔を浮かべる。


「ああ。友達だもんな。少し手伝ってくれるか? アスト」

「もちのろんだよ! グラムくん」


不器用なアストは喜んで引き受けた。




あと三日で当初の予定の期日になる。


延長は考えていない。


さすがに夜間とは言え長期間の独占は宜しくない。


場合によっては真似られて多くの冒険者が不快な気持ちになるだろう。


今回は滅多に出ないレアドロップを大量に納品しているから多めに見られているが、私利私欲の為に独占なんかしたら、ギルドマスターに呼び出しからの冒険者資格剥奪すら有り得るのだ。


などと考え、冒険者ギルドのギルドマスターに聞いてみたところ。


「確かに人数の多いFランクやEランクのダンジョンなら問題が起きるかもな。だがDランク以上のダンジョンならいくらでもやっていいぞ」

「えっ!? いいんですか? 僕篭もりますよ、半年ぐらい」

「篭ってもいいがフェイルに話を通しとけよ? 一応担当みたいになってるみたいだからな」

「……やっぱり一ヶ月に一度は戻ってきます」

「そうしとけ」


受付嬢のフェイルには逆らえないアストは篭もる計画を断念する。


それに半年も篭ったら色々支障が起きそうだ。


主に原始回帰して人間性を失いそう。


「Cランク以上の冒険者は数が圧倒的に少ない。何故かわかるか?」


試すように尋ねるギルドマスターにアストは即答する。


「装備が貧弱」

「……分かるのか?」

「そりゃあ、何となく」


ダンジョンRPGというジャンルをある程度やり込んでいたアストは装備の重要性を理解している。


いくらステータスを上げてスキルを整えても、それを超えるインフレや理不尽が襲ってきたら意味が無い。


レベルが五桁でも首を切り飛ばしてくる序盤の兎畜生も居たりするのだから。


この世界でも同じとは言わないが、見かける冒険者が全員【N】ランク程度の装備でダンジョンに潜っているのだ。なんの支障もなく、攻略出来るならブルタがあそこまで腐ったりしないだろう。


「幸運値を上げればいい。言うなら簡単だな。だが間違いなく同期に置いていかれ、後輩に追い越される」


過去にも幸運値を上げればレア装備が手に入ると考える冒険者は多く居た。


だが、彼らが手に入れた装備も次のランクのダンジョンではそこまで有利になるほど圧倒的な性能を持っていなかった。


「それにな、幸運値はダンジョンのドロップにしか影響が無いんだ。ダンジョンだけが冒険者の活躍の場ではない。魔物退治、護衛、配達、指導、調査、いくらでも仕事はある。そんな理由もあり幸運値に振れるのは高ランク冒険者ぐらいになってからだ」


高ランクならレベルも高くその分SPが多く手に入る。


高ランクダンジョンなら幸運値が初期値でも、【R】以上のドロップをするようになるからその確率を上げる為に振る意味も出る。


幸運に極振りした冒険者をパーティーに入れて周回すれば良い。


そう考えるが、ドロップ判定は総ダメージ量が最も高い人の幸運値が選ばれる可能性が高いと検証結果が出ている。


後衛の回復職や支援職はもちろん、荷物持ちでは絶対に選ばれない。


それこそ、幸運値極振りでパーティーのレアドロップを支えてきた俺が戦力外通告を受けて追放!? あとでレアドロップが出ないと泣きついてきても、もう遅い。


みたいな、展開には絶対にならないのだ。


パーティーで幸運値を上げるなら同時に最高火力も出せるようにしないと意味が無い。


結果、幸運値を上げてきた冒険者は皆、ソロとして活動しDランクの壁を乗り越えられなくて引退して行った。


なんともやるせない理由を知り、アストはますますドヤる為にレア掘りをしてやると決心を固める。

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