031 安いもんだ金貨一枚くらい
三日目は更生した六人組と、吟遊詩人のメジュルームが参戦した。
更生組からは金貨を返されそうになったが、お前たちが更生したんだ。安いもんだ金貨の一枚ぐらい、とネタに走り号泣される一幕もあった。
人数が増えたので、ボサボサ頭の女性冒険者含めた数名は料理の仕込みに回し、アストがドロップしたアイテムをボス部屋の前に積みそれを監視する人員を配置する。
その際に監視人員の中年冒険者から面白い情報を得た。
「ダンジョンの外から持ち込んだ物は、ダンジョン内で一定時間放置すると消えるんだ」
消えないようにするには定期的に触れる必要がある。
「ダンジョン産のアイテムはそれらに比べて消えるまでに最低でも一日は掛かるから安心してくれ」
アストが山積みになったドロップ品について心配していることを察して教えてくれたらしい。
「それを逆手にとって『邪神大戦』前の魔導文明の名残りが多く残るオーツー大陸では、ダンジョン内にダンジョン産だけで造られた活動拠点などがあるそうだよ」
同じように監視として残っていた吟遊詩人が教えてくれるが、それが何処の話か分からないアストはスルーする。
「魔族が支配している大陸だよな」
中年冒険者はそれに乗っかる形で話を広げる。
魔族というワードにようやく興味が湧くアスト。
「魔族って会ったことないけど、どんか感じなの?」
知らないわけじゃないけど詳しくは知らないというスタンスで話に加わる。
「魔族と言っても、私たち人間と同じ種族さ。彼らは取得したSPの殆どを魔力に振る事から魔力を多く持つ種族……魔族と名乗るようになっただけだよ」
「なーんだ。それじゃあ魔王は居ないんだ」
「魔王は彼らの国。魔導大国の王だね。最近、王位が移ったようだけどあまりいい噂を聞かないよ」
この世界における魔王は世界を脅かすような悪者では無いと知り、少しガッカリしながら安堵する。
それからも博識な吟遊詩人から色んなことを教えてもらいながら三日目の狩りは終わる。
「今日は仕込めたから煮込み料理もあるよ」
出会ったばかりの頃の不安そうな姿はなりを潜め、自信たっぷりで料理を振る舞うボサボサ頭の女性冒険者。
皆、美味い美味いと食事にありつく。
吟遊詩人が歌を披露し、冒険者たちが知っている下手くそな歌の合唱も交えながら三日目は過ぎていく。
四日目。
もはやホーンラビットのボスからのドロップ品だけで黒字が出せるようなレベルだが、アストはコボルトダンジョンに潜り続ける。
「ようやくレベル18になったからね!」
彼のやる気が爆発したのだ。
一ヶ月以上ぶりのレベルアップにいても立ってもいられない。
SPも200溜まり、ホクホク顔である。
振りたい気持ちもあるが、現状困っていない為保留にしている。
スキルの方は真新しいことをしていない為か、【最下級槍術】以降何も習得していない。
昼寝の後、時刻が夜になり集合場所に行く。
「今日も増えてるかな〜」
ドロップ品で稼ぎまくった為、懐の心配は不要である。
集まった人数は変わらなかった。
「おすおーす! 新顔は無しなんだ」
「「「「「おっす!」」」」」
「「「「「どもで〜す」」」」」
「「「「「アニキ! お疲れ様っす!」」」」」
「やあ」
大所帯に変わりない為、一斉に挨拶をすると空気が震える。
「他の連中は元々パーティーを組んでたりで日中に狩りをしているからな」
「生産ギルドではこれ以上の要員は不要だろうと、敢えて抑えてますよ。追加要りますか?」
中年冒険者と薬師の説明に納得する。
「そっか。これ以上増えても困るから遠慮しときます」
「分かりました。あと、生産ギルドのギルドマスターからは黒皮を数枚貰えば、アスト君のリュックを無料で作るそうですよ」
「ほんとっ!? あげるあげるいくらでもあげる!」
「お前の場合、本当に数を揃えられるからなぁ」
何だかんだ、重たいインゴットやドロップ品をギチギチになるまで入れては、動き回っておりリュックは限界が近かったのだ。
生産ギルドのギルドマスターの提案に大喜びしながら狩りはスタートした。
レベルアップとドロップ品の利用目的が出来たアストはそれはもう張り切った。
一時間の周回数は二十を超える。
積まれていくドロップ品に監視についた冒険者たちが頬を引きつらせる。
食事会では野菜などを調達した女性冒険者たちにより、バリエーションが増える。
肉ばかりで少し食傷気味だったアストは喜び、代金を支払いつつ必要そうな食材や調味料があれば遠慮なく買ってくれと金貨を数枚手渡した。




