030 吟遊詩人と更生坊主達
「おすおーす!」
「「「「「おっす!」」」」」
「「「「「どもで〜す」」」」」
冒険者組と薬師組が挨拶を返す。
「新顔さんは……7人だね」
アストの半目を向けられ、六人は強ばり、一人はユラユラと手を振る。
取り敢えず顔に見覚えのある六人組から話を聞くことにする。
「君たちはこの前、お金をせびってきた人達だよね?」
「う、うっす……その節は本当にサーセンした!!」
「「「「「サーセンしたっ!!」」」」」
代表が頭を下げるとその仲間たちも一斉に謝罪をする。
「反省を坊主で表した?」
「うっす……アニキに叱られて目が覚めたっす」
舎弟のような態度でアストをアニキと呼ぶ。
(異世界でも反省をそのような形で表すんだ)
彼らの悪行は他の冒険者たちには知られていたのか、大いに周囲を驚かせる。
「僕、叱った?」
アストは警告というか不満をぶつけただけで叱ったつもりはなかった。
だが、彼らにはそう思わなかったようだ。
「あの冷めた眼差しを向けられたらもう、悪さなんか出来ないっすよ!」
「ゆ、夢にまで出たっす!」
「漏らしたっす!」
「すっすすっすうるさい! そもそもそのすっすは僕のパクリでしょ! 許さないっす!!」
大騒ぎする彼らにアストは知能レベルを下げて対抗する。
そして許してっすと許さないっすの仁義なき戦いが始まるのであった。
「はははっ〜スルーはちょっと寂しいかな?」
そこに優しくも耳に届く音色がアストたちの不毛な戦いを終息させる。
小さいハープ……サウルハープを奏でた男性がアストの前に立つ。
「おっす! オラ、アスト。おめぇ、吟遊詩人か?」
「ユーモア溢れる自己紹介ありがとう。そうさ、私は旅をし英雄たちの詩を方々に伝え継ぐ吟遊詩人のメジュルームさ」
「これは御丁寧にありがとうございます」
つい知能レベルを下げたまま対応し、さっくりとスルーされたアストは少し赤面しながら普通に対応する。
「そんな吟遊詩人さんがどうしてここに?」
「将来の英雄の噂を聞きつけて」
「えっ!? この中にそんな英傑が居るの!?」
どこどこ? と周りの面々を見渡すアストの肩を叩く吟遊詩人。
「君だよ。『秘宝狩り』のアスト君」
「ファッ!? 僕、Eランクですよ!?」
もっと言えば『秘宝狩り』とはなんだと首を傾げる。
「私の故郷では、ダンジョン主がドロップする品の中でも特に希少な物を秘匿されし宝、つまり秘宝と呼ぶのさ。そんな秘宝を大量に納品している冒険者が居ると聞いてね」
「秘宝を出すボスを狩りまくるから『秘宝狩り』か……」
中年冒険者の言葉に納得するように一同が頷く。
「つい今朝方も大量に納品したと聞いてね、いても立ってもいられなくて会いに来たのさ」
「見てガッカリしたでしょ?」
「まさか、むしろ納得いったよ。戦乱のイーテニューの出身なら英雄になる素質はあってしかるべきだからね。かの闘将軍カルマリア・レプセブタとて貧困街の出身ながら大出世したのだから」
(ん? 闘将軍って、ブルタ氏が言っていた【天賦の才】を持っていることで有名な人だよね?)
もしかして持っていることがバレた? と背中がびっしょりになるアスト。
「な、なんでその人を例に出しました?」
動揺しないように話したつもりが、どもってしまった。
「もちろん、同じ黒髪だからさ。そして闘将軍は人類で二番目に強いと私は考えていてね、例えにはよく出すんだよ」
「っすか〜」
なんだそこかと、一安心する。
「一番じゃないんすか?」
「ばっか、お前。一番は『剣聖』だろ?」
「『賢者』じゃねぇの?」
「『錬金姫』もお忘れなく〜」
アストの知らない情報が飛び交う。
それらをうんうんと頷きながら聞いていた吟遊詩人は彼らに正解を告げる。
「確かに名を挙げた英雄たちは皆、現役のSランク冒険者で実力も申し分ないね。だけど、最強と言うなら私は『吸血王』だと考えているよ。何せ不浄の地、エーネム大陸で千年以上もアンデッド達を狩り続けているのだから」
もはや情報過多でアストは聞き流すことにした。
だが吟遊詩人の最強理論に多くの者は納得いかなそうにボヤく。
「私が思う最強だからね。それに、かの戦歴は全て伝聞で聞いたものだから、もしかしたら君たちが名を挙げた英雄たちの方が強いのかもしれない」
吟遊詩人はそう言い括り、納得させる。
「まあ、『錬金姫』が最強は少し無理がありますよ」
アストの隣りにいつの間にか立っていた薬師がボソリと呟く。
二つ名からしても錬金術師なのだから、そりゃあそうだとアストは納得する。
「話が逸れたけど、アスト君。君の活躍を近くで見たいのさ。是非参加させておくれ」
「えっと、過大評価が過ぎると思うので直ぐにガッカリすることになるかと。それでも良ければどうぞ〜」
「ああ、感謝するよ『秘宝狩り』」
思ったより異名みたいなので呼ばれるのは恥ずかしいなと、照れるアストであった。




