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003 冒険者登録と親切な冒険者

街までの道のりにて、アストは【インベントリ】の使い方も理解した。


意識を【インベントリ】に向けるだけで目次のようなイメージが湧き、収納されているアイテムを把握出来る。


【インベントリ】の中には硬貨が入った小袋と短剣が一本入っていた。


取り出すイメージをすれば、即座に右の手のひらに小袋、左の手のひらに短剣が現れる。


短剣は手に持った瞬間に性能が半透明のウィンドとして表示される。


【N】鉄のナイフ

[攻撃力35 耐久値50]


こんなふうに浮かび上がった。


試しに鞘から抜き取って見れば、サバイバルナイフのような鋭さであった。そんな短剣を手に持ったアストは傍から見たら不審者であろう。


幸い短剣をすぐに鞘に収めた為、誰かを傷付けることは無い。


腰のベルトに吊るせる紐が付いていた為、短剣を腰に装着。


ステータス画面を確認すると、武器の欄に『鉄のナイフ』が表示されていた。


「武器は装備しないと意味が無いぞをリアルに体験出来るとは」


こんなことにもプチ感動する。


次にある程度の重さを感じさせる小袋を開くと、中から銀貨が十枚、銅貨が五十枚確認できる。


銀貨を手に取って太陽にかざす。


見た目が少しだけ銀色に見える以外は日本の百円玉と大差ないように感じた。


逆に銅貨は日本の十円玉がまんま銅製なこともあり感動はない。むしろ、十円玉のように精巧な細工がされている訳でもない為、暫く眺めた後に小袋に戻す。


街の門に辿り着き、門番の兵士とこの世界の共通言語で応対する。


「ようこそロイシェンへ。旅のお方」

「どうもっす。街に入るには手数料などありますか?」

「銅貨五十枚もしくは大銅貨五枚だね。冒険者なら銀貨二枚を冒険者ギルドに支払えば、一ヶ月間その街に出入りする際の手数料を免除してくれる切符を発行してくれるよ」


何故か聞いてもいない情報を教えてくれる門番にアストは首を傾げる。


門番の男性は人当たりの良い笑みを浮かべ、理由を教えてくれる。


「君ぐらいの年頃の子が目を輝かせてこの辺境でいちばん大きなこの街に訪れたんだ。察してしかるべきだろう?」

「なるほど……確かにその通りですね。冒険者になりに来ました」

「冒険者ギルドなら少し真っ直ぐ進んだ先の右手にあるから直ぐに分かると思うよ……ちょうどだね。改めて……ようこそロイシェンへ。前途有望な未来の冒険者よ」


手渡した銅貨五十枚を数え、少しだけ鷹揚とした態度でアストに道を譲る門番。


まるで大作RPGのような始まりにアストはニヤけが止まらない。


門番が言った通り、数分歩いた場所に冒険者ギルドの看板をぶら下げた大きな建物が視界に入った。


僅かな距離でもアストからしたらファンタジーの街並み。お上りさん丸出しでうろちょろとしていた為、本来の数倍時間が掛かった。


その様子を街の住民は微笑ましそうに見守っており、門番が言うようにアストに似た年頃の少年少女達が頻繁に冒険者を目指してこの街に訪れるのだろう。


アストは冒険者ギルドのスイング扉を押し中に入る。


時刻として昼過ぎということもあるのか、冒険者は疎らだ。


それでもアストにとってゲームの画面越しに見飽きるほど見続けた、鎧や剣をぶら下げた格好の冒険者たちの姿にはやはりグッとくるものがあるようで、頬を上気させキラキラした目を冒険者たちに向ける。


アストの視線に気付いた冒険者たちは心做しか姿勢を正し、さり気なくかっこよさそうに見えるポーズを取る。


わざわざそのようなことをするのは彼らもアストのように、先輩冒険者に憧れの眼差しを向けた経験があるからだろう。


アストは冒険者たちに釘付けになりながら、受付カウンターに歩を進める。


受付カウンターの奥には受付嬢と思わしき若い女性が落ち着いた色合いの制服を身にまとっており、そしてその容姿も非常に整っていた。緩くウェーブがかかったセミロングの茶髪は彼女の落ち着いた雰囲気に噛み合い、深窓の令嬢然とした高貴さやお淑やかさを感じ取らせる。


そんな美しい受付嬢は笑顔を浮かべアストに話し掛けた。


「冒険者登録でしょうか?」


彼女は一目でアストの目的を看破し、さり気なく登録用の用紙を手繰り寄せる。


身長が170cm届かないぐらいであるアストはこの世界の成人男性としては少し低めであり、顔は童顔とよく言われる日本人の顔立ちそのもので、下手したら未成年と間違われそうだが冒険者登録は未成年でも可能なのか特に何も言われない。


もちろんどう考えても仕事がこなせないほど幼い子供が来たのならやんわり断ったりするだろう。


アストはこの街の人は察しがよすぎると思いつつ素直に甘えることにした。


「そうなります。よろしくお願いします」

「まあ……ふふ。こちらこそ、これからよろしくお願い致しますね」


ぺこりと頭を下げるアストに感心した受付嬢はクスリと笑い、お辞儀程度に頭を下げる。


(おかしい……頭なら下げ慣れているのに、綺麗なお姉さん相手なら嫌じゃないぞ?)


社会人にもなればいくらでも頭を下げる機会というのはある。うろ覚えである記憶からも、何度も頭を下げた記憶が残っていた。


(いやいや。相手はいつも年上の偉い人ばっかりなわけだし、比べる相手が違いすぎるか)


気を取り直して、受付嬢から冒険者についての説明を聞き、そこで発覚した読み書きが出来ない事実を知り、代わりに記入用紙を代筆してもらう。


冒険者ランクはF〜Sまである。共通言語スキルによる翻訳の結果なのか、そのようにアストには聞こえた。本来なら別の呼び方があるのだろうが分かりやすい為そのまま受け入れることにする。


アストは冒険者登録の手数料として銀貨一枚を支払い、木製の冒険者カードをゲット。


目を輝かせカードをじっと見るアストを受付嬢は暖かく見守る。


「Fランクなら街の雑事関連の依頼を二十件ほどこなせばEランクに昇級します。それまでは魔物退治や配達、薬草採取などの街の外に向かう必要がある依頼は受けられないので御注意を」


なるほど、見習い期間かとアストは納得する。


Fランクは冒険者として依頼の受け方などを学ぶ期間なのだろう。言わばチュートリアル。


「Fランクの依頼などはあちらのボードに張り出されているので、受けたいものがあればこちらの受付までお持ち下さい」


ランク分けされたボードはFランクからCランクまでの依頼で埋め尽くされていた。


Bランク以上の依頼は恐らく指名か受付でしか確認できないものなのだろう。


「なるほど……ご丁寧にありがとうございます」

「ふふ……期待しておりますよ、前途有望な冒険者よ」


お互いに最後お辞儀をして、アストはFランクのボードに向かう。


「ほうほう……むむっ」


(ちっとも読めない件について)


腕を組みまるで吟味している様子を醸しだすアストだが、依頼はどれも掃除やら荷物運びやらと完全に雑用であるが、それすら読めない為素直に困ってしまう。


(魔物を倒してレベルを上げられたらなぁ)


異世界の雑用というものには興味が無い訳では無いが、やはり王道である魔物討伐でレベルを上げたい気持ちが強い。


だがルールはルール。


転生者ということを抜きにすればアストは身元不明の一般人。駄々をこねて不和を招くのは良くない。


故に少しでもファンタジーを感じられそうな依頼を山勘で探すことにする。


そんな渋面のアストの横に三十代前半ぐらいの細身の男性が話しかけてきた。


「よう、坊ちゃん。なにかお困りかい?」


格好は皮鎧に皮の小手、皮のブーツ。そして、腰には短剣が二本ぶら下げられており如何にも中堅冒険者然とした男性である。


「いえいえ。どれを受ければいいか悩んでいただけですよ」


アストは男のこれぞ冒険者! とした格好に興奮しつつ素直な気持ちを吐露する。


「俺にはこんな雑事やってられるか! って、不満そうに見えたけどなぁ〜」


(読めなかっただけだけど、やっぱり雑用オンリーなんだね)


納得するように表情を変えたアストに男性はまたしても誤解したように付け加える。


「顔じゃねぇーのさ。雰囲気で大体分かる。年に何人もの若い冒険者が生まれるこの街だから坊ちゃんみたいにこのボードを見てガッカリする奴はごまんと見てきたのさ」

「なるほど〜」


アストはこの世界の若者たちも冒険者というのは魔物を倒し名声を得るものだという認識なんだと納得。


「そんな坊ちゃんにFランクでも街の外に行く依頼を受けられる方法を教えてやろう」


そう言い、アストと肩を組んで顔を近づける男。


「Dランク以上の冒険者とパーティを組んた上でなら街の外に行く依頼を受けることが可能だ」


ヒソヒソとまるで悪いことを企むように男はニヤリとした。


「……合法?」


アストは少し身構えて尋ねる。


「別に犯罪でもなんてもねぇーよ。そもそも、知り合いの冒険者に弟子入りして荷物持ちとして連れてってもらうことも無くはないしな」


まあ、それもEランクに上がっての話だけどな、と男は付け出す。


「せっかちな駆け出しをベテランとかが一回冒険に連れて行って、街の外がいかに危ないか分からせるのさ」


アストは一応は納得して肩の力を抜く。


要は見学みたいなものかと。


本来なら手順を踏めばそう遠くない未来に同じことが出来るランクになる。でも、血気盛んな少年少女たちは自分が英雄になることを夢見て地に足がついていない。


そこで一度ベテラン冒険者の仕事を見学させて現実を分からせる。


「坊ちゃんは見たところ賢い。その逸る気持ちを一度消化したら満足出来そうだろう?」

「確かに」


おだてられてまんまと頷くアスト。


「そこで提案だ。俺の冒険に一度連れてってやるよ」


アストにはそれが非常に魅力的な提案に感じた。

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