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028 底辺冒険者達はしぶしぶ手伝う

「金貨一枚? それは本当か?」


集まってきた冒険者の中でも最年長と思わしき中年冒険者が代表として質問してくる。


「おふこーす。もちのろんです。少し……一週間ほど拘束することになるんですが、大丈夫な方は残ってください」

「それは内容を聞いた後でもいいの?」


今度は髪がボサボサの二十代ぐらいの女性が不安そうに尋ねてくる。


「構いませんよ。……それでは説明しますね」


立ち去る者が居ないことを確認し、三十名ばかりの前で内容を話し始める。


(緊張するけど踏ん張ろう!)


内容は簡単。


人気が少なくなる夜間のみ、冒険者たちが雑魚狩りを行い、アストがボス周回をする。


それだけである。


それをおおよそ一週間。


日中にしないのは、ボスに挑みたい他の冒険者たちに配慮しているからだ。


それでも夜間を独占周回しようとしていることは、お世辞にもお行儀がいいとは言えないだろう。


「皆さんにもタイミングがありましょう。ですので明日の夜……夕日が沈みきってからスタートにします。支払いについては日当銀貨十枚。一週間フル参加で金貨一枚です」


つまり、一週間参加すれば銀貨三十枚分は追加報酬として貰えるのだ。


(ここに居る人が全員参加したら、全財産の半分は飛ぶぞ〜)


アストの残高は金貨七十枚程度。


それが一週間で三十枚飛ぶような依頼なのだ。


(これはあれだね。日中はコボルトダンジョンでコボルト狩り。夜間はホーンラビットダンジョンでボス狩りだね)


いつ寝るんだろう。と、自分の考えに苦笑する。


急いでいるような冒険ではないと言いつつ、廃人ゲーマーみたいなスケジュールである。


(まあ、一週間だけだから)


気が付けば、彼は前世で残業しまくる同僚たちと同じ言葉を使っていた。


アストの説明を聞いて参加を表明する者が半数。何も言わずに立ち去るものが半数である。


別に解散しろとも帰れとも言っていなかったが、何故かアストを残し全員が居なくなる。


「周回出来ちゃう」


恐らく金貨を手に入れた後の使い道を考えるのに忙しいのだろう。


その後、他の冒険者が来るまで周回に勤しむアストであった。


【N】美味しい肉

[食べたら病みつきになる美味さ]


【N】普通の皮のカバン

[物を入れるのに便利]


【N】丈夫な皮のカバン

[丈夫で物を入れるのに便利]


これらが新たにドロップした。


カバンはリュックみたいに背負うものではなく、肩掛けである。


薬師の人が使っていたカバンとそっくりであり、あれはドロップ品だったかと気付く。


「これ、使い道ないよね?」


リュックがしょうに合っている為、カバンは使わないだろうとアストは売ることに決める。


美味しい肉は美味しそうな見た目をしており、これは参加してくれた冒険者たちに振舞おうかと考えたが、料理はスマホのレシピ無しでは出来ないアストは断念する。


アストの周回する目的はレベルアップである。


皮は使うとかではなく、何となく集めておきたいというコレクター魂みたいなものである。


集めたら一気に納品して受付嬢たちの度肝を抜かそうかと画策する。




翌日、早朝からコボルトダンジョンで周回をし、ドロップしたインゴットを夕方前に納品。


そして軽く仮眠をし、ホーンラビットダンジョンに向かう。


日がすっかり沈み、早い人は寝始める時間。


アストはダンジョン前に集まった集団の顔ぶれを見て呟く。


「全員居るじゃん」


昨日、無言で立ち去った人達は何だったんだと思いつつ声を掛ける。


「おすおーす! 皆さん早いお集まりで」


アストの言葉が嫌味に聞こえたのか睨む者が数名。


「嫌味じゃないですよ。集団行動は時間厳守。これ基本ですから」


始業時間には厳しく、終業時間がやたら曖昧な日本社会で育ってきた日本人らしい言葉である。


「それでは僕がボス周回をしますので、皆さんはある程度バラけて雑魚狩りをお願いします」


それを聞いて、さっさとダンジョンに潜ろうとする人達を見て、やる気があってよろしいとポジティブに捉える。


「キリギリスさんが居ないといいな」


サボろうとする人が居なければいいと呟き、アストもダンジョンに足を踏み入れた。



結果を言えば、ボス周回はあまり出来なかった。


アストのバラけてを大雑把に捉えた為か、効率のいい場所でかち合う面々が続出。


ボスのリポップが遅く原因究明のために、様子を見に行く羽目になった。


その結果、上記の理由が発覚したのだ。


明確に狩場を決めとけば良かったと反省し、グループを作りそれぞれの狩場を設定し終える頃には朝日が昇る時間になっていた。


アストも反省しているが、集まった冒険者の彼らの方が反省している様子である。


何年も冒険者をしているのに、上手く立ち回れなかったことで泣け無しのプライドが砕け散ったようだ。


「取り敢えずお疲れ様でした〜」


気落ちする彼らの前に立ち、終わりを告げる。


「一応、食材と調味料を持ってきたので、お腹が空いた人は食べて行ってくださいな。あ、タダで〜す」


それでも参加してくれたのだからと、リュックの中から美味しい肉とオススメされた調味料を取り出すと、全員目を輝かせた。

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