027 ボス待機の列
「マジっすか」
アストはそんな言葉を零す。
何せ、ボス部屋前にはかなりの数の冒険者が列をなしていたのだから。
(ここだけMMO風味)
ゴブリンダンジョンはそもそも人がおらず、コボルトダンジョンでは採掘する人しか居なかったが、ホーンラビットダンジョンではボスも人気者である。
(どこでこんなに差がついちまったんだろうな、ボスゴブリンとボスコボルト)
死闘を繰り広げた戦友たちがあまりにも不人気すぎて、アストは密かに黙祷を捧げる。
本人? たちが聞いたら、むしろ来るなと吠えるだろう。
そんな最後列にひっそりと並ぶ。
彼の前の冒険者たちからは、ダンジョン前の者たちと同じようにチラチラ見られる。
冒険者と言うがみすぼらしい格好の彼らは、その日暮らしを体現している底辺の冒険者である。
ダンジョン前で悪さをしていた冒険者ですら、彼らからせびったりしない。
お金を持っていないのは分かりきっているからだ。
ホーンラビットダンジョンは『最弱のダンジョン』と呼ばれている通り、ボスを倒せたからと強い証明にはならない。
ここに来るのは薬草を集めに来る薬師や本当の駆け出し。そして才能が無いその日暮らしの冒険者である。
彼らは言わば、努力をしなかったブルタである。
才能がなくても努力したブルタはDランク冒険者になれたが、アストの前にいる彼らは努力を放棄し、日々を安い酒で慰めるような生活を送っている。
(むっ。なんか辛気臭いね)
そして、アストは彼らの負のオーラを浴びて気分が悪くなる。
彼らから向けられる目は羨望と嫉妬、そして諦めである。
レベルを上げれば必ず強くなる世界でも、このように強くなれない者は居るのだ。
(なんか、このダンジョンだけ楽しくないかも)
薬師との会話は楽しめたが、総じてワクワクを感じない。
生きるための必要最低限を揃える場所のように感じて仕方ない。
「よし」
一回数分で回るボス戦故に、一時間も経たないうちにアストの番になる。
本来なら条件を達成しないとリポップしないボスではあるが、伊達にEランク冒険者たちの巣窟になっておらず、倒しても数分でリポップするぐらいは他の冒険者たちが狩りをしたり、採取したりしているのだ。
彼の後ろにはついさっきボスに挑んだばかりの冒険者たちが列をなしている。どうやら、周回するつもりらしい。
ドロップ品を持っている様子も無い為、アストは今更の事実に気付く。
(もしや、ボスも確定ドロップでは無い!?)
最初から高い幸運故に、ボスからドロップしないという経験が無かったアストはその事実に気付く。
ボス部屋に一人踏み入れるアストは、鋼の槍を構える。
「最近ようやくスキルを手に入れたからね」
槍を使い出してから一ヶ月以上が経過して、ようやく念願の【最下級槍術】を手に入れたのだ。
スキルのお陰で手に馴染む鋼の槍の頼もしさに口元がほころぶ。
黒い光の粒子が収束し五匹ほどの輪郭を形作る。
四匹のホーンラビットと、一匹のボス。
「角が二本に増えただけやんけ」
間違い探しかな? レベルの変化である。
それでは試しに違いを味わおうと、無防備にホーンラビットたちの突進を受け止めてみるが違いは無かった。
「君たちも苦労するね」
あまりもの弱さゆえホーンラビットたちに同情を禁じ得ないアスト。
「せめてもう少し可愛げがあれば狩られずに済んだかもね……お疲れ様」
槍を一閃し、さっくりボス戦は終了。
ボスドロップが現れる。
「これは……!」
【N】硬い獣の皮
[硬く丈夫な皮]
一メートル程度の四角い皮がアストにより広げられる。
【インベントリ】から硬い革鎧を取り出し見比べる。
「何となく加工前の素材に見えなくもない」
この事から、もしかしたら他にも通常の皮や黒い皮もドロップするのではと考える。
正直、武器や防具に比べると素材系はさほど収集に興味は無いが、せっかく来たのだからある程度周回してドロップ品をコンプするのも悪くない。
だがその為には周回する必要がある。
日が暮れ始めれば冒険者の大半は街に帰っていく。
そうなれば雑魚狩りも並行してやらないとボスはリポップしなくなるだろう。
「効率悪し……よし。決めたぞ」
アストは硬い獣の皮を【インベントリ】に仕舞いつつ、ボス部屋前の冒険者たちの元へ向かう。
「マナー違反だろうなぁ」
そうボヤきつつ、やめる気が無い。
自分たちの前に立ったアストに身構える冒険者一同。
「すぅ〜みなさーん! 集まってくださーい!」
ダンジョンではタブーの一つであろう、大声を出すアストにギョッとする彼らは顔を見合せて動かない。
「ふむ……金貨一枚の仕事があるんですけど!」
その一言で警戒心の強い彼らは渋々集まってきた。




