020 黒革装備一式
アストは一週間ほどで、リュックの中をインゴットで埋めることに成功した。
ドロップした武器や防具は売る予定が無いので、【インベントリ】に収納している。
「しっかし本当にボスは手付かずで良かったよ」
討伐されるコボルトの数が百匹以上、もしくは採掘ポイントでの採掘回数が百回以上でボスがリポップする。
受付嬢にボスのリポップ条件だけ聞いておいたお陰でアストは早々に装備品をかき集め終えられた。
何せ、アストがせっせとコボルトを狩らなくても、他の冒険者や職人が採掘をしまくるのだ。
一日に二十周以上は安定してボス周回が出来た。
【N】黒革の手袋
[防御力45 耐久値65]
【N】黒革のズボン
[防御力75 耐久値95]
この二つにゴブリンダンジョンでドロップした黒革シリーズ。
【N】黒革の兜
[防御力60 耐久値80]
【N】黒革の鎧
[防御力80 耐久値100]
【N】黒革の長靴
[防御力70 耐久値90]
五つ合わせて、装備枠は装飾以外埋まった。
合計防御力は330。
圧倒的な防御力である。
それにメイン武器の鋼の剣とサブウェポン的な鋼の短剣、そして新顔の鋼の槍。
【N】鋼の剣
[攻撃力100 耐久値100]
【N】鋼の短剣
[攻撃力80 耐久値90]
【N】鋼の槍
[攻撃力100 耐久値100]
これがアストの完全体だ。
「鋼の剣と鋼の槍はステータス上は一緒なんだよね。これ、【N】ランクでの上限だったりする?」
アストはそう考察した。
何せ、鉄の剣と鉄の槍は攻撃力が違うのだから。
【N】鉄の剣
[攻撃力80 耐久値90]
【N】鉄の槍
[攻撃力75 耐久値90]
その為、レアリティごとに装備品のステータス限界があるのではないかと。
その場合、更に強くなりたいなら【R】以上の装備品を獲得しなければならない。
「危なかった。幸運値極振りだったら詰んでたかも……だから先達の冒険者はDランクで引退する羽目になったんだ」
幸運以外が初期ステータスなら、これ以上【N】ランクの装備での強化は望めないし、ならばレベル上げをすれば良いと言いたいところだが、それも難しい。
「一週間狩り続けても上がってないからね〜」
レベル16でコボルトダンジョンに入ったアストは、既に四桁のコボルトを狩ってきた。
だがレベルはひとつも上がらなかった。
そもそもレベルが10越えた辺りから、ひとつレベルを上げるにも一週間以上は掛かっている。
幸運極振りの冒険者がブルタと同じレベル20台なら、それ以上のレベル上げは困難を極めるだろう。
Eランクダンジョンの魔物がどれほど強いのかは分からないが、十年以上冒険者をしていたブルタが鋼の短剣二本使って戦ってなお、レベル22止まり。
それは即ち、【N】ランクの装備品だけでゴリ押せるほどぬるくは無いということでは? と、アストは考える。
「コボルトダンジョンでレベルを18。ホーンラビットダンジョンでレベル20を目指そうか」
恐らくレベル20。それがDランク冒険者の推奨レベルなのだろうと考え、それまではダンジョン周回でのレベル上げを優先する。
アストには【天賦の才】というスキルがある。
その為、既にレベル20越えの冒険者並に強い。
だが、慌てるような冒険では無い。
本来の冒険者が踏む手順を辿るのもいいだろうとアストは思う。
そもそも、アストはボスが定まっているなら、その道中でやれる事をやり尽くしてから挑んで瞬殺するプレイを好んでやっていたのだ。
余裕はあるに越したことはない。
リュックをパンパンに膨らませたアストは一週間ぶりに街に帰還。
顔馴染みになりつつある門番ともフランクなやり取りをする。
今回は採掘した鉱物を納品する前提で潜っていた為、長くても一ヶ月は潜らないだろうと、再度街に出入りする為の切符を購入しておいた。
その為、定期券みたいだなぁ、とアストは切符を門番に見せ街に入る。
「あ、あのっ……おはな……かってください」
「うん? あぁ……良いよ。おいくらかな?」
小さな女の子が花のつまった籠を持って、花を売りつけに来た。
小学生にもなっていなさそうな子供であり、着ている服もほつれが何ヶ所も見られる。
(親御さんは……居ないの?)
少女の前にしゃがみこみ、革袋を取り出すアストは一応保護者は何処だと探すが少女の知り合いは居なさそうだ。
「えっと……いちまいです」
「それじゃあ、……はい」
「ふぇぇ〜これ、いつものとちがうよ!?」
アストが手渡した銀貨を驚いたように見る少女。
(銅貨一枚の方でしたか、まあ予想はついてたけど)
お金の使い道が宿に泊まるぐらいで、他にはツルハシやリュック、切符を買うぐらいしか使っていなかったアストはこれ幸いと多めにお金を払った。
「こんな綺麗なお花を僕は知らないからね。そのお礼だよ」
「わぁ〜ありがとうっおにいちゃん!」
「ぐほっ!? ……ち、ちょっと聞いてもいい? お母さんとかお父さんは近くに居ないのかな?」
天使の微笑みとお兄ちゃん呼びで危うく昇天しかけたアストは、これはマズイと気になっていたことを尋ねる。
「おとうさんはしんちゃった……おかあさんはげんきないの! だから、ハフがおかねをかせいでおてつだいっ!」
「そっかぁ〜ハフちゃんは偉い!」
「わふぅ〜」
つい頭を撫でてしまってお巡りさんの存在を探そうとしようとしたアストは、嬉しそうに目を細めるハフから目が離せなかった。
(こういうお涙ちょうだいに弱いんだよね)
少しでも気が緩むとこっちが泣きそうになる。
念の為目元を擦って、立ち上がる。
「あっ……」
もう終わり? みたいな表情のハフに、アストはそんなわけないさぁ! と、言いたくなるが相手は見知らぬ他人だ。
これ以上の接触は異世界と言えど、許されないだろう。
「ごめんね。お兄ちゃんはこれからお仕事があるから……また会ったらお花さんを売ってくれるかな?」
「うんっ! ばいばいおにいちゃん!」
ブンブンと元気いっぱいに手を振ってくれるハフに見送られつつ冒険者ギルドに向かうアストだが、その顔はとても名残惜しそうであった。




