018 コボルトはゴブさんの亜種?
「可愛くないから殺りやすいなぁ」
ゴブリンよりほんのりすばしっこいのと、武器が錆びた短剣に変わっているぐらいはなんとも言えない強さである。
アストは今、コボルトダンジョンに潜っていた。
ツルハシを大きなリュックの横に取り付け、黒革シリーズを身に付けての挑戦であった。
レベルは16。SPは使わず貯蓄して120ポイントある。
そんなアストにでさえコボルトの攻撃は一切通用しない。
黒革装備の耐久値を考えると、裸で潜ろうかしらと真剣に考える。
今も背後から襲いかかって来たコボルトに目も向けずに裏拳で顔面を強打し倒す。
犬のような長い鼻が曲がり悶えるように絶命していくコボルト。
コボルトが倒れた場所にはドロップ品だけが残されている。
「ここでも水と黒パンは共通ドロップですか」
貧乏性なのか、在庫が四桁ある水と黒パンを【インベントリ】に仕舞う。
その際に、周りに他の冒険者が居ないか確認する。
ここはゴブリンダンジョンと違い、人がちらほら居るのだ。
アストは取り敢えず、マップを埋めようと歩きまくる。
方眼紙など持っていないが、知力30のお陰で何となく構造を把握出来る。
「相変わらず薄暗いね」
坑道という構造でも、ダンジョン特有の発光現象により常に薄暗くも松明が必要な程では無い。
「おっと……」
行先に、鉱石を掘り起こす職人らしき人物を発見し、別のルートを取る。
不干渉と受付嬢には言われているので邪魔しない為の配慮である。
「うぅ〜ん。さすがに一階の採掘ポイントには大抵人が居るねー」
マップを埋めてから、二階などに行きたかったが仕方ないと、階段を探すことにする。
坑道だから穴に吊るした縄を伝って降りるとかではなく、階段を降りる。
ダンジョンによっては上がったりもするが、基本的に全てのダンジョンは階段による階層形式のようだ。
二階に降りたアストは襲ってくるコボルトたちを倒しドロップ品を集めては奥に進む。
【N】錆びた槍
[攻撃力35 耐久値40]
コボルトダンジョンでは、これが新しいドロップ品である。
「つまり鉄や鋼などの槍もドロップするのかね? あとは、短剣もか」
コボルトたちが装備している武器は錆びた短剣だ。
なら短剣シリーズもドロップすると考えて良いだろう。
錆びた槍をブンブン振り回してみると、どうにもしっくり来ない。
恐らく【最下級剣術】みたいにスキルが無いため、完全な素人扱いなのだろう。
「でも僕は剣も振り回した事ないんだけどなぁ……やっぱり神様がくれた初期スキルなのかね?」
ならばせめて下級か中級が欲しかったと密かに愚痴るアスト。
【最下級剣術】は間違いなく彼が、稲田明日人の頃に身につけたモノだが、それを知る由もない。
「槍投げは定番だし、覚えられるか試そうかな」
槍は投げるもの。みたいな風潮が出来たのはいつだったか分からないが、割と最近のゲームでは使われる戦法の一つとしてある。
それを思い出したアストは有るだろう【最下級槍術】の取得を目指してみることに。
「発見! そーい!」
「グギャ!?」
器用90による抜群のコントロールで放たれた槍は空中でグラつき、多少の誤差はあるもののコボルトの身体に突き刺さる。
一発で粒子になるコボルトと、その仲間の姿に慌てふためく他のコボルトを普通に剣で処す。
「牽制としては有用かな。でも外れたらマズイ」
ここは他にも人が居るダンジョンだ。
槍投げ失敗で、万が一他の人に刺さるようなことがあるなら、アストの冒険者人生は幕を閉じるだろう。
その為、槍投げは控えることにした。
二階、三階と降りてみても、採掘ポイントには人が居る。
「これ、採掘ポイント固定くさいね」
でなければこんなにピンポイントで人が居るわけが無い。
せっかく買ったツルハシが一度も使われずにリュックのアクセサリーと化していた。
「まあ、しょうがない……っと!」
接敵したコボルトをドロップした鉄の槍で突き刺すアスト。
【N】鉄の槍
[攻撃力75 耐久値90]
錆びた槍よりも遥かに強い鉄の槍。
オーバー火力の為、豆腐に槍を突き刺しているような手応えのなさである。
採掘は半ば諦め四階に降りた先で、倒したコボルトから驚くものがドロップした。
【N】銅のインゴット
[精錬した銅の塊]
一キロ程度の銅のインゴットを手に持ちアストはしばらく考え込む。
そして、おもむろにリュックを降ろし、横に取り付けられていたツルハシに合掌。
「お疲れ様でした」
間違いなく、採掘するよりコボルトをシバいてインゴットをドロップさせる方がしょうに合っていると判断。
「それにこれは一石二鳥な作戦なんだよ」
採掘に来ている冒険者や職人たちにとってコボルトは邪魔でしかない。
だが、その邪魔なコボルトをアストが狩れば狩るほど彼らの安全と効率は上がるのだ。
そしてアストもインゴットを沢山ゲットしてみんなハッピーになれる。
なんという素晴らしいアイデアなのだと自画自賛する。
ここが無人のダンジョンなら高笑いのひとつでもしているところだ。
早速、コボルト殲滅計画を発令しようと動き出したアストの元に、誰かが近付いてくる。
「くそっ……ツイてねぇ〜不良品を掴まされるなんでよ〜」
悪態をつきながら、アストとそう歳が変わらない少年がボロボロのツルハシを肩に背負いながら歩いてくる。
(ふむ……話しかけようかな)




