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017 次はコボルトダンジョン

ずしりと重たい革袋を受け取るアスト。


せっかくだから百枚は銀貨で受け取ることにしたようだ。


「もし、納品ではなく売りに出した場合はどれぐらいだったんですか?」


ふと思い尋ねると受付嬢は渋い顔をする。


「硬い革装備なら一つ金貨二枚、黒革装備なら金貨八枚と言ったどころでしょうか」

「ええっ!?」


硬い革シリーズは四倍。黒革シリーズに関しては八倍であった。


どこのぼったくり商会だよ! と、アストは口に出そうになった。


「でもそれはおやめになった方がよろしいかと」

「その心は?」

「生産ギルドの方々の恨みを買います」

「なるほど?」


そして受付嬢は丁寧に説明してくれた。


生産ギルドに所属している鍛冶師のほとんどは【N】ランクの武器や防具を生産しているのだと。


彼らはそれらを売り、メンテナンスすることで生計を立てている。


その為、同じレアリティの【N】ランク装備のダンジョンドロップ品を嫌う。


逆に【R】ランク以上の装備を作り出せるような鍛冶師はほとんど居らず、居ても国宝級の扱いを受けるので、【R】ランク以上の装備は問題なく売買してくれるそうだ。


例外としてウーナガ大陸に居るドワーフの国なら、【R】ランク装備を製造出来る職人が多く居るようだ。


「とは言っても、【R】ランクの武器や防具などはオークションに回され、金貨数百枚単位で落札されるので、通常販売されることはありません」


日本円換算で銅貨一枚十円。銀貨一枚千円。そして金貨一枚十万円になる。


【R】ランク装備は数千万円で売れるということは、それほどドロップ率が低いということなのだと、アストは戦慄しつつも気分が高揚する。


(絶対ドロップしてやる!)


アストの中には、装備品を買うという選択肢はない。


全て、ダンジョンで揃えてみせると意気込む。


彼は幻視する。


全身レア装備で武装し、冒険者や街の住民たちから羨望の眼差しを向けられている光景を。


ハクスラのゲームはどんなにレアな装備をしようが、NPCの反応が変わらなかった為、もの寂しさを感じていたのだ。


MMORPGでも、人の集まる広場には自慢したいが為に最新のエンドコンテンツを最速でクリアして、ドロップした限定装備を見せびらかす廃人たちが居るが、大抵はギルメンにでも褒めて貰えやと無視される者が多い。


ちなみにMMORPGのエンドコンテンツはもれなくボイチャ必須のリア充コンテンツなので、アストは軽く触れて退散した。


それが現実なら間違いなく素敵なリアクションが貰えるだろう。ならやるしかない。


アストは本当にこの世界に来てよかったと改めて思った。


「受付嬢さん! 他のFランクダンジョンはありますか!?」


早く早くと急かすアストが何を考えているのか、何となく分かり苦笑しつつ丁寧に教えてくれる受付嬢。


アストは間違いなく彼女に足を向けて寝れないぐらいはお世話になっている。


「二つほどありますね。一つはEランク冒険者の資金稼ぎの場所にもなっているホーンラビットダンジョン。ドロップ品は「ストップ!」……なんでしょうか?」

「ごめんなさい! わがままなのは分かってるんですが、何がドロップするかは知りたくないんです。自分でドロップさせるので!」

「なるほど……畏まりました。では、概要だけに留めますね」

「ありがとうございます! いつかすんげぇーレアドロップをゲットしたら真っ先に見せに来ますねっ!」

「ふふっ……約束ですよ? 期待しちゃいますからね」

「おっす!」


取り敢えず見せびらかす人が出来たとアストは喜ぶ。


(ぐふふ……見せてやろう、レア掘りの真価を!)


アイテムにレアリティがあるゲームで主人公が手に入れられないレアリティの物などないのだと。


例えここが現実であっても例外はないと証明してみせるとアストは何度目か分からないやる気を上げる。


「こほん……それでは続きを説明致します。ホーンラビットダンジョンは文字通り、角の生えた兎のみが出現するダンジョンです。Fランクダンジョンでも最も簡単なダンジョンとされており、別名『最弱のダンジョン』と」

「それじゃ、僕が籠っていたゴブリンダンジョンに誰一人来なかったのは、昇級したEランク冒険者はそのダンジョンから攻略を始めたりします?」


ご明察と受付嬢は頷く。


ゴブリンダンジョンのドロップ品のマズさは知られており、基本的に攻略しなくても良いダンジョンとされており、通称『徒労のダンジョン』と呼ばれたりする。


「次にコボルトダンジョン。平原から見えます山の中腹に存在する坑道が入口になっております。中では定期的に鉱物が採掘出来るということもあり、冒険者以外にも生産ギルドの職人の方々が採掘に赴くので気を付けてくださいね」


基本的にお互い不干渉だ。


わざわざダンジョンの採掘に来るような職人はツルハシで普通にコボルトをシバけるので、助けを求められない限りは採掘の邪魔をしてはいけない。


「冒険者以外でもダンジョンに潜れるんですね」


アストは冒険者以外では、せいぜい運営にも関与している国が兵士のレベル上げにでも使うぐらいだと思っていたのだ。何せ、冒険者ギルドの職員がレベル上げに使っているのだから。


「ダンジョン内採取及び採掘許可証発行試験という限定的に冒険者として扱う試験を突破した職人の方々だけですが」


ざっくり言うと、生産ギルドでダンジョンに採取や採掘しに行きたいという職人には、生産ギルドが冒険者ギルドに依頼を出し、冒険者によるレベル上げを職人たちに行い、その後に戦闘技能のテストを施し、それを突破した職人に許可書を発行する流れだ。


その依頼にかかる費用はある程度生産ギルドが払ってくれる為、割安でレベルを上げられ、尚且つ採取や採掘ポイントのある低ランクダンジョン限定であるが、立ち入る許可証を発行してもらえる。


「それらにもランク分けがされておりまして、Fランクダンジョン立ち入りが三級ダンジョン内採取及び採掘許可証になり、Eランクダンジョンなら二級、Dランクダンジョンなら一級の許可証が必要になりますし、二級以上は自己負担での取得になります」


Cランクダンジョンは主にBランク冒険者が潜るダンジョンであり、そのレベルになると職人では即死するような罠や魔物が現れ始めるので基本的にBランク冒険者に依頼を出し、代わりに採取及び採掘してきてもらう。


大抵の職人は三級を取得して、おいおい二級を取得するか、冒険者に依頼を出す方向に舵を切る。


コボルトダンジョンでは鉄と銅が採掘出来る。


それはEランク冒険者の主流になる装備の素材であり、日常生活でも非常に多く使われる為、常に需要がある。


「もし興味があるなら、採掘をしてみてもよろしいかと。依頼も有りますので」


Eランクの依頼ボードに万年貼り出されている常駐依頼のようだ。


冒険者ギルドに持ってくるだけで買取をして貰えるし、依頼達成数にも加算される。


Dランクに上がりたいなら非常に効率の良い依頼と言えた。


「決めました! コボルトダンジョンに挑みます!」

「畏まりました。余談ですが、コボルトダンジョンが人気なのは採掘出来るという点のみですので、常にボス部屋はガラ空きだそうですよ」


アストのことを完全に熟知したようで、最後にご褒美とも言える情報を与える受付嬢。


もちろんアストは目を輝かせる。


「ツルハシはどこで買えますか!?」

「それなら地図を描きますよ。あと、ちゃんとしたリュック、もしくはバッグを購入しましょうか」

「あっ……うっす」


すっかり忘れていたアストに、念を押して正解だったと受付嬢は額に手を当てた。

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