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016 これが今の最高装備

「しまった……やっちまったよ」


アストはどうしようと途方に暮れる。


彼が納品依頼を受けてからまるまるひと月。


彼がドロップ品を納めるリュックなどを持ち合わせていないことに気付いたのはさあ、街に帰ろうかと準備した時であった。


夏休みの宿題を早々にやり終えて遊び呆けていたら、夏休み最終日に絵日記をやっていないことに気付いてしまった時のような気持ちであった。


あの時は三十一ページ分を全て、悪くなかった! の一言でやり過ごそうとし、教師にゲンコツを食らったことを思い出し、受付嬢にめっ! される光景を思い浮かべホッコリする。


嘘。


アストは既に受付嬢の無言の圧力を幻視し、震え出す。


「くそぉ……【インベントリ】のレアリティ下がらないかな」


【インベントリ】が誰もが持っているスキルとかなら良かったのに、と無理のある理想に縋りたくなるアスト。


「いや、待てよ? ないなら作ればいいじゃないかリュックサック」


あまりにも天才的な発想に自分の知力を確認してしまうアスト。知力30の効果が!? とオーバーに驚く。


早速と、武装ゴブリンのハズレドロップである綺麗な腰布を複数枚、無理やり結んでひとつの大きな風呂敷にすべく奮闘する。


彼が街に一回帰った後に、道具屋などでリュックを買って詰め込んでから冒険者ギルドに向かえば良かったと気付くのは全てが終わった後であった。


「完璧じゃないか!」


歓声を上げ、広げた穴だらけの風呂敷を満足そうに眺める。


本当に器用90ある人間の仕事か? と思わずにいられない。


そこに夢と希望とそしてひとつまみの絶望を入れることなく、ドロップしたダブりなどをぶち込んでいく。


「うんしょっと!ふっ……軽くないぜ」


アストは思わず腕力にポイントを振りたくなる気持ちを我慢して風呂敷を背負い込む。


街に着く直前に【インベントリ】から出せば良いじゃないかと気付くのは街の門が見えてきた辺りであった。


「こんにちは〜! 一ヶ月ぶりっす」

「本当にひと月ぶりだね……それにしても形容し難い状態になっているね」


門番になんとも言えない顔をされながら大銅貨五枚を支払い街に入る。


背中に小山でも背負ってるのかいと突っ込まれそうな姿のまま街を歩くものだから、街の人たちからジロジロ見られる。


そのまま冒険者ギルドに直行し、大きめなスイング扉に風呂敷が引っかかりつつ、受付カウンターの最後尾に並ぶアスト。


「なんだありゃ?」 「あれ、俺見覚えあるぞ。風呂敷代わりになってるの綺麗な腰布だよ」 「はあ? それボスゴブリンのドロップ品だろ? なんで風呂敷代わりに何枚も雑に結ばれてるんだよ」 「知らねぇーよ。それに穴から見えるあの防具と、あの黒髪の装備見てみろよ……黒革装備だぜ」 「は、はぁ!? 黒革のドロップ率分かってるのか!? 最後にドロップしたのは十年以上前だぞ!?」


にわかに騒がしくなるギルド。


アストはやり切った表情で、ボケーッとしているので気づかない。


アストの番になり、どさりと風呂敷を横に降ろして満足げに受付嬢に向き直るアスト。


アストが来た知らせを受け、わざわざ担当を変えてもらった彼女はドヤ顔のアストをジト目で見つめ返す。


「おかえりなさい」

「おっす! たたいまです」


アストの褒めて褒めてと言わんばかりのドヤ顔をスルーしつつ、分かりきっていた要件を尋ねる受付嬢。


「要件は何でしょうか?」

「納品依頼の品を持ってまいりましたっ」


そう言って小山になっている風呂敷に寄りかかり、その表面をバンバン叩くアスト。


どーよ? どうなのよ? としつこいぐらいドヤ顔である。


実は冒険者になって初めての依頼達成だったりする。


ブルタと一緒に受けた依頼は当たり前のように無効になったし、それ以降はアストが依頼も受けずにダンジョンに入り浸っていたので、しっかりとした依頼はこれが初めてである。


この世界基準では童顔のアストがゴブリンダンジョンの激レアドロップの黒革装備を身に付けているのだから、はしゃぐ彼は余計に注目を集める。


「はぁ……それでは検品しますので、納品カウンターに移りましょうか」


受付嬢が手を向けた方向には、低いテーブルが置かれているカウンターがあった。


そのテーブルに納品物を乗せて、職員が検品するのだ。


ドロップ品で品質は同じであろうが確認する義務がある。


「うーっす!」


移動を開始する二人を冒険者たちも職員たちも見守る。


ずっしりの風呂敷を持ち上げるアストに今更だが、歓声が上がる。


重さだけなら百キロは余裕で超えているだろうからだ。


それだけである程度の冒険者は、アストが目立つだけの法螺吹きではないと考えを改める。


「それではここに一つづつ乗せて貰えますか?」

「あいさー」


受付嬢は流石は最年少エースと呼ばれるだけあり、動じずにドロップ品の検品に移る。


「それでは硬い革装備の方から改めますね」

「了解です」


【N】硬い革の兜

[防御力45 耐久値55]


【N】硬い革の鎧

[防御力60 耐久値80]


【N】硬い革の長靴

[防御力50 耐久値65]


これがゴブリンダンジョンの硬い革シリーズの性能であった。


表面に目立つ傷もないドロップ品なので、受付嬢は品質を最良と手元の紙に記す。


「硬い革の兜が四つ、硬い革の鎧が二つ、硬い革の長靴が四つですね……」


多い。受付嬢含め誰もが思った。


「ふぅ……次は黒革装備ですね」


鍛冶屋製の黒革装備なら普通にある。


だがドロップ品になると十年近くぶりのレア装備なのだ。


多少の緊張をしつつ、受付嬢は検品を再開した。


【N】黒革の兜

[防御力60 耐久値80]


【N】黒革の鎧

[防御力80 耐久値100]


【N】黒革の長靴

[防御力70 耐久値90]


「黒革の兜が二つ。黒革の鎧が一つ。黒革の長靴が一つ。……改めました。こちらも問題ないですね」


受付嬢がまたしても紙に最良と書き記す。


ふぅ〜とアストは息を吐く。


自分の装備を揃えるのはいつだって楽しい。


だが、ランダムドロップという奴は物欲センサーとはマブタチなのだ。


妖怪一つ出ないがまかり通るアウトサイド。


その為、アストが難敵、黒革の鎧を下したのは周回を開始して二十日が過ぎた後であった。


二つ目がポロッとドロップして、思わず蹴り飛ばしそうになったのはココだけの話。


その為、ゴブリンダンジョンのドロップ品をコンプすることに成功しつつ、納品一覧もコンプリートである。


余談だが、ハズレ枠は、


【N】綺麗な腰布

[未使用の腰布。清潔である]


【N】美味しい水

[ほんのり美味しい水]


【N】美味しい黒パン

[ほんのり美味しい黒パン]


【N】硬い棍棒

[攻撃力40 耐久値30]


であり、そんなに悪い食生活ではなかった。


寝る時も綺麗な腰布を敷いて寝るという贅沢なのか貧乏なのか分からなかったり。


「硬い革装備は一つ銀貨五十枚、黒革装備が一つ銀貨百枚。しめて銀貨九百枚ですね。金貨九枚にも出来ますがどう致しますか?」

「えっ、全部納品していいんですか!?」


アストは驚く。てっきり一種類につき、一つのみ納品して残ったものがカムバックしてくるものだと。


全て納品していいとは、依頼主は了承するのかと。


何せ依頼書の古さからして本人が忘れている可能性すらあるのだ。


「御安心ください。依頼主はセントレン王国ですので」

「……なるほど」


アストは訳あり顔で頷いた。


恐らくアストが拠点にしている街が所属している国の名前だろうと。


そして国からしたら今回の依頼料など無いに等しい程のお金持ちの為、全部買い取りでも問題ないなとアストは納得する。

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