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015 ボスは狩られる為に生まれてきた

「それは本当ですか!?」

「きゃ……お、落ち着いてください。皆さんが見ています」


ぐん! と顔を近寄せてきたアストに少し驚きながら、宥める受付嬢。


「……コホン。すみません取り乱しました」


さすがにこれ以上騒ぐのは良くないと、澄まし顔を浮かべるが早くもソワソワして仕方ないアスト。


彼の頭の中では羊が一匹〜羊が二匹〜の代わりに、ボスゴブリンが一匹〜ボスゴブリンが二匹〜と狩られまくる憐れな武装ゴブリンが居た。


何となくアストが落ち着かない様子なのを把握しつつ、受付嬢はアストの問いに答える。


「ええ。この街でも非常に古いダンジョンですから、粗方情報は出揃っているんですよ」


そう言って、書類が挟まれているファイルの中から、該当の箇所をアストに見えるように広げる。


「本当だ」


そこには過去、ゴブリンダンジョンからドロップしただろうアイテム一覧が乗っており、そこには激レアのはずの鋼シリーズすら記載されていた。


「過去に幸運に多くのSPを振った冒険者がおりまして、残念ながらそれが足枷になりDランクのまま引退いたしましたが、その際にその方が冒険者ギルドに売った情報をもとに作成されたものです」


アストはその冒険者に感謝する。


何せ、そこにはボスである武装ゴブリンのドロップ品の一覧も乗っていたのだ。


「硬い革シリーズと黒革シリーズ……上のシリーズがあるんだ」


アストがドロップした革の兜は三つあるシリーズの中で一番下であった。


革シリーズ、硬い革シリーズ、そして黒革シリーズの順に性能が上がるようだ。


アストの中で萎びれたやる気に火がつく。


「受付嬢さん……僕、ちょっと行ってきます」

「はぁ……そうなると何となく分かっていました」


短い付き合いながら、アストの性格を把握しつつある受付嬢。


少し待ってくださいと受付嬢は言い、積まれていた紙の束の中から一枚見つけ出しアストに差し出す。


それは真新しい依頼書より古ぼけたもののキチンとした依頼書であった。


「一応、古いものですが依頼が残っているんです。硬い革と黒革装備の納品依頼が」

「これを僕に?」

「はい。余分にドロップするようならご活用ください」


アストはこれから果てしない周回に挑むつもりであった。


もちろんその中でダブることもあるだろう。


そういう時に納品依頼として納めれば、冒険者のランクアップに加算される。


本来なら依頼も受けずにダンジョンに潜り続けるアストは、ランクが上がらない。


ダンジョンを攻略しても、冒険者ギルドが真偽を確かめるのは大変だからだ。ならば、依頼の達成数のみでランクアップさせた方がトラブルも少ない。


それを考慮し、依頼をわざわざ探し出してくれた受付嬢に頭が下がる思いである。


「受付嬢さん!」

「はい、何でしょうか?」

「この依頼受けさせてください!」

「はい……承りました」


代筆してもらい依頼を受注する。


「出来れば最低でもひと月に一度は顔を見せに来てくださいね」

「善処します」


ドロップ具合による。


存外にそう言うアストにジト目をする受付嬢。


「いいですね?」

「あい」


もうアストは受付嬢には逆らえなかった。


「それでは行ってらっしゃい……前途多難(・・)な冒険者よ」

「おっす。行ってきまーす!」


チクリと嫌味を言われるが本人は気付かずに冒険者ギルドから飛び出して行った。


「お疲れー。あの子面白いね」


アストに付きっきりだった受付嬢に、先輩受付嬢が労いつつも面白いものが見れたと満足げである。


何せ、忙しい朝の時間帯に、小一時間もアストだけの対応をしていたのだ。本来なら小言のひとつでも飛んできてもおかしくはない。


その事に感謝しつつ、苦笑する受付嬢。


「ウチの最年少エース様をたじろがせるとはあの子は大物だ」

「……その呼び方やめてくださいよ。もう三年ですよ?」

「まだ三年だよ後輩」


尊敬してるし、信頼もしているが何かと自分を持ち上げたがる先輩受付嬢には困ったものだと受付嬢は思いつつ、自分の仕事に戻るのであった。




アストの街の滞在時間は一時間程度で終わった。


門番にも驚かれつつ、しっかりとひと月後に帰ってくると告げて街から飛び出した。


「今回は見たけど、次からは見ないようにしようかな」


ハクスラにおいて何がドロップするか想像しながらモンスターをひたすら狩るのが醍醐味である。


故に前情報なしでダンジョンに潜り、そしてレア掘りをする。


こんなのが出るの!? と驚きながら喜ぶのだ。


その為、アストは情報に感謝しつつも、頼りきらない方針で行こうかと思っている。


何が出るか分かってしまうと、お目当て以外がドロップした時に喜べないからと。


「幸運は……振らなくてもいいよね?」


Dランクで引退したと言う冒険者の幸運値は恐らく今のアストよりも低かった筈だ。


もしかしたら幸運系のスキルを持っていたのかも知れないが、それでも上回ることは無いだろう。


その為、これ以上幸運に振ってドロップ率を上げるより、何かがあったとき用に貯蓄しておきたいとアストは考える。


実際、ブルタに勝てたのは相手がどんなステ振りでも対応出来るようにSPを温存したからだ。


もし幸運に10でも振っていたら負けていたかもしれない。それぐらいシビアな勝利であった。


幸運に極振りした冒険者はアストと同じように鋼シリーズの武器を装備し、黒革シリーズの防具を身に付けて尚、Dランク冒険者で引退する事になったのだから。


ハクスラのゲームみたいに、ステータスを甘く見て良い訳では無いのだ。


ダンジョンのランクによって、ドロップするレアリティの上限が有るのならば、最低限の実力を身に付けないと詰む可能性すらある。


その事を肝に銘じておくアスト。


そうしてまだしてもゴブリンダンジョンに帰ってきたアストは、ゴブリン狩りを加速させ、一時間程度で条件を達する。


初のボス戦よりも緊張しつつ、ボス部屋に突入するアスト。


扉は閉まり、黒い光の粒子が集まり出す。


「よっし!」


ガッツポーズを取り、全身で喜びを顕にする。


「ギャギャ!」


何も覚えていないだろう武装ゴブリンとその配下の四体が首を跳ねられたのは僅か数秒後のことであった。

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