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014 ボス周回が出来ない!?

アストは早速、革の兜を被ってみた。


「視界がそこまで邪魔にならないね」


アストがドロップした兜はフェイスガードのようなものは無く、工事現場のヘルメットのような形状で、被っても視界が悪くなるということは無いようだ。


「……周回したいなぁ」


当たり前の帰結。


アストはレア掘りが好きなのだ。


彼の中にはボスを周回してドロップ品を集めたいという欲に呑み込まれた。


嬉々としてボス部屋から出て、意を決して再度突入。


だが結果はおおよそ納得出来るものであった。


「な、なんも起きない」


もしこの手順だけでボスがリポップするなら周回が捗るところではないのだが、そこまで甘くはないようだ。


「取り敢えずダンジョンから一度出てみるか」


次はダンジョンを一度出ることで、今のアストのダンジョンクリア状態をリセット出来るのでは? という考えから爆速でダンジョンを駆け上がる。


しっかり外に出ると、太陽の眩しさについたじろぐ。


「うっ……これが太陽神の光か」


太陽の光に焼かれそうな吸血鬼プレイも挟みつつ、直ぐにダンジョンに突入する。


だが結果は無情。何も起こらない。


「ゴブリンの旦那……出て来いやぁ!!」


試しにボス部屋で呼び掛けても無理。


次はもしや時間経過なのでは? と思い至り、むしろそれしかないそれしかねぇと納得して早めの就寝。


目覚まし代わりのゴブリンたちをシバキ、ボス部屋に意気揚々と突入し、突っ伏すアスト。


「絶望したー!」


アストは涙を浮かべて、ゴブリンダンジョンから脱出し街にとぼとぼと無気力に歩きながら帰って行った。


日が昇る前に出発して街に着く頃には、既に日が昇り街から賑やかな喧騒が聞こえてくる。


「ぶ、無事だったのかい!? ひと月以上も帰ってこないから心配したよ!」


アストを初めて街に向かい入れてくれた門番が心配したとアストの身体をベタベタ触る。


大きな怪我で動けなかったのではと思ったようだ。


どこにも怪我がないことを確認してホッと胸を撫で下ろす。


アストが女の子なら事案である。


「ご心配お掛けしました」


少し照れくさそうにアストは頭を下げる。


「……次からはどの程度の期間、街から離れるか教えてくれると有難いな」

「うっす」


ダンジョンに潜っていたと告げたことで呆れつつも納得いったように頷く門番。


残念ながらアストがひと月前に購入しておいた通行切符は期限切れで使えなかった為、大銅貨を五枚支払い街に入る。


その足で冒険者ギルドに向かう。


なんても受付嬢の一人が門まで来てはアストは帰ってきていないのか確認しに毎日来るようだ。


「悪いことした……のかな?」


間違いなくアストが冒険者登録した時の受付嬢だと確信し、少し申し訳ない気持ちになる。


彼からしたら二、三度話した程度の相手でそこまで心配されるとは思わなかった。


(あ、でもブルタ氏事件の直後だからか)


あの事件の数日後に、事件の被害者であるアストがひと月も帰ってこない。


(そりゃあ心配するよね)


もしかしたら残党が残っていて、襲われたのでは!? という考えに至っても仕方ない。


何せひと月、アストは散歩してくると言わんばかりの軽いノリでゴブリンダンジョンに行くことを告げたのだ。


完全にアストが悪い。


この世界に来てから、九割以上の時間をダンジョンで過ごしているのだから、普通の冒険者ではない。


この世界の住民からしたら、ダンジョンは恐ろしい場所なのだから。


「お、おじゃましまーす」


親の言いつけを破り、夜遅くまで遊び呆けた子供みたいにビクビクしながら冒険者ギルドのスイング扉を押し開く。


今日はまだ朝と呼べる時間帯の為、冒険者はかなりの数が受付カウンターに詰め寄っていた為、アストが目立つようなことは無い。


それでもブルタ曰くイーテニュー大陸に沢山居るが、この大陸では珍しい黒髪に視線を向ける者はそこそこ居る。


「おい、アイツがブルタさんを倒したやつか?」 「らしいな。それにしても……まだ子供じゃないか」 「でも見ろよ、鋼の剣だぜ?」 「はん! ブルタがあんなガキに負けっかよ。どうせ法螺を吹いてるに決まってる! あの剣だって見た目だけのハリボテだろうさ!」 「お前、ブルタさんに世話になってたもんな」


どうやら、黒髪以外にも注目される謂れがあったようだ。


アストからしたらどうでもいいことなので、無視して受付カウンターで順番待ちする冒険者たちの最後尾に並ぶ。


一言、私は帰ってきたと言ったら、宿でも取ってひと月ぶりのベッドで寝ようかなと考えていた。


(そうだなぁ、ブルタ氏の件で貰った大金が有るんだから、少し高い宿にでも泊まろうかしらん)


ボスがリポップしないことで落ち込んでいた気分を浮上させる為に、楽しみを自分に用意する。


彼はそうやって嫌なことがあった時に、ご褒美を自分に用意してやり過ごしていたのだ。


(なに、ダンジョンは一つじゃない。他のダンジョンに行けばいいんだから)


そうだそうだと、自分を納得させるアスト。


彼の脳裏には武装ゴブリンの鎧やブーツが浮かんだ。


欲しかった。アレ欲しかったなぁ。そんなことを知らず間にブツブツ言うアストに、コイツヤバいやつでは? と、彼に注目していた冒険者たちは思った。


未練だらだらのアストは自分の番が来たことに少し遅れながら気付き、受付カウンターの前に出る。


受付嬢の顔を見てアストは困惑した。


何せ、目を潤まさせてアストを見ていたからだ。


「ご無事で何よりです」


そう言って目元をハンカチで拭うと、凛とした表情に変わる。


「少し取り乱しました。申し訳ございません」

「いやいや! こちらこそ、そのぉ……何の連絡もなしに……ごめんなさい」


お互い深々と頭を下げ合う。


周りの野次馬たちが何事だとアストたちを見るが、受付嬢から何も聞くなと言わんばかりの視線を向けられて目を逸らした。


「仕事の一環なのですが、出来れば()をしていたか教えて頂けませんか?」

「は、はひ」


アストは洗いざらい喋った。


聞き終えた受付嬢は頭が痛いのか額に手を当てている。


「出来ればそういうのは前もって報告して貰えると助かります」

「ごもっともです」


個人としても心配していたが、冒険者ギルドの職員としても、街に滞在している冒険者たちの大まかな動向を把握し管理する必要がある。


ましてやダンジョンというのはその国と冒険者ギルドが提携して管理している都合上、冒険者が問題を起こせば国に報告しなければならない。


何も知らない他の冒険者が、ゴブリンダンジョンに行き、ゴブリンが一匹も居ないなどと勘違いしギルドに報告するような事があれば、異変として調査依頼を出さなければならないのだ。


そしてゴブリンダンジョンは旨みなしとされ、入り浸る者などこれまでいなかった。


その為、独占のようなことは起きたことがない場所での異変なら、尚更依頼を出し様子を見る必要がある。


人気の高いダンジョンなら、冒険者が入れば入るほど、魔物のポップが早くなるというデータがあるので魔物が狩れないようなことは早々無い。


逆に少数しか潜っていないダンジョンだと、魔物の出現率が下がり、安全度が高くなる。


そのような旨をアストに懇切丁寧に教えてくれる受付嬢だが、半分は心配させたアストに対する意趣返しだろう。


「……以後、しっかりと報告の上で活動させていただきます」


怒られた訳ではないが、こってり絞られた様子のアストはゲッソリしていた。


「私たち職員は皆、研修の時にダンジョンでレベルを5まで上げる義務が課されておりますが、その対象がゴブリンダンジョンになる事が多いので、少しだけ神経質になりました……申し訳ございません」

「いえいえ。……えっ、それじゃあ、受付嬢さんも魔物を……こう! やったんですか!?」


ストレートパンチを繰り出しデモンストレーションをするアストに苦笑する受付嬢。


「いいえ。私たちの場合は信頼のおける冒険者の方々に粗方お任せし、トドメだけ刺しました……こう、えいっ! っと」


短剣を振り下ろすような仕草をするノリのいい受付嬢にアストはホッコリしつつ、納得する。


「なるほど〜。それと聞きたいことがあるのですがいいですか?」

「……はい。どうぞ」


やったあとに顔を赤らめる受付嬢を見て、話題を変えるついでに聞きたかったことを聞くアスト。


「ダンジョンボスってどうやってリポップ……再出現するのですか?」

「ああ、ゴブリンダンジョンならダンジョン内のゴブリンをおおよそ、百匹ほど倒せば再出現するようですよ」


アッサリと答えてのけた受付嬢。


アストは目を見開き、言葉を零す。


「なん……ですと?」

 

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