012 あれから僕は強くなった
あれからひと月近くが過ぎ去った。
微睡みから目覚めたアストはたっぷりと時間をかけ、瞼をひらく。
ダンジョンの個室みたいな場所で寝ていたアストは上半身を起こし身体を解すように手を上に伸ばす。
「おおっ……おはよう、ゴブさんたち」
そう言って今の今まで寝ていたアストにひたすら棍棒を叩きつけていたゴブリンたちに笑顔で挨拶をしたのであった。
まさに歯牙にもかけないとはこのこと。
あれからレベルを上げ、頑丈にステ振りしたアストにはゴブリンの攻撃などそよ風にも劣る。
「さてと……」
瞬く間に剣を鞘に納めたアストは立ち上がる。
剣を抜かれたことにすら反応出来ずにゴブリンたちが絶命した。
「今日はついにボスに挑むぞ〜!」
ひと月前でも余裕で勝てた可能性はあった。
だが受付嬢からボス部屋は倒すか全滅するかでしか扉は再度開かれないと聞いていた為、念には念をとひたすらレベル上げに勤しんだ。
その間、生活を全てダンジョンで完結させた。
アストは一ヶ月もダンジョンに潜り続けたのだ。
少し正気を失っているのかもしれない。
「SPも余分に残したうえでステ振りも終えたし、いざ行こうボス部屋へ!」
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個体名 アスト 種族 人間 性別 男 年齢 15
レベル 14
体力 500 (1150)
魔力 200 (460)
気力 200 (460)
腕力 50 (75)
頑丈 50 (75)
知力 20 (30)
精神 20 (30)
器用 60 (90)
敏捷 100 (150)
幸運 50 (1050)
SP 40
〖LR〗
【幸運な転生者】
[幸運+1000% 幸運系スキル獲得]
〖UR〗
【宝石獣】
[幸運+600% 幸運ステータス低下無効]
〖SSR〗
【天賦の才】
[SP+100% 全ステータス+30%]
【天運】
[幸運+250% 幸運ステータス低下軽減]
【インベントリ】
[時間経過しない亜空間の物入れ]
〖SR〗
【超体】
[体力+100% 回復速度+100%]
【超魔】
[魔力+100% 回復速度+100%]
【超気】
[気力+100% 回復速度+100%]
【超運】
[幸運+100%]
〖R〗
【剛力】
[腕力+20%]
【剛健】
[頑丈+20%]
【知恵】
[知力+20%]
【冷静】
[精神+20%]
【技術】
[器用+20%]
【俊敏】
[敏捷+20%]
【強運】
[幸運+20%]
〖N〗
【共通言語】
[アファステーゼの共通言語を理解し、発音出来る]
【最下級体術】
[身体を動かす動作が滑らかになる]
【最下級剣術】
[剣などの刃物を操る技術が向上する]
【我慢】
[ダメージによる行動阻害が軽減される]
【見切り】
[相手との器用差が少なければ動作からの予測が付きやすくなる]
【縮地】
[踏み込むときの軸のブレが減り、体力の消費が減る]
【忍び足】
[音を立てず歩ける]
【夜目】
[暗くても見えやすくなる]
【熟睡】
[眠りが深くなり疲れが取れやすい]
〖装備〗
【武器】 【N】鋼の剣
【頭】 なし
【上体】 なし
【下体】 なし
【腕】 なし
【足】 【N】皮の靴
【装飾①】 なし
【装飾②】 なし
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ステータスはレベル1の頃の面影すらないほど変わっていた。
【天賦の才】により常人の倍以上強くなれるのだからこうなる。
体力を更に振ったことで全速力で走ってもそうそう息切れしなくなり、頑丈を上げたことでゴブリンの攻撃は漏れなくミス! や0表示されるレベルだ。
取り敢えず全ステータスに10は振ってみようとした結果、魔力、気力、知力、精神にもSPを振って効果を検証。
魔力や気力に関しては検証出来ていない。体力みたいに上げれば上げるだけ疲れづらくなるとかいう変化すら感じられなかった。
何せ一度も消費していないステータスなのだ。実感が湧かないのも仕方ない。
逆に知力と精神は分かりやすかった。
知力は明らかにアストの記憶力と物覚えが良くなったのだ。割と感覚で生きているアストはその場その場の即興で何とかしてしまうタイプだが、これによりパターンなどを覚えておくことでよりスムーズにことを運ぶことが出来るようになった。
とは言っても知力30程度ではそこまで劇的なものでは無い。いずれ魔法などが使える時には知力の本当の真価が分かることだろう。
精神は元々神経が図太いアストとはいえダンジョンの床で寝るという、本来なら出来ない大胆な選択を取らせることになった。
こんなんでもアストにもある程度常識がある。
魔物湧くダンジョンで寝るなど、死ぬようなものだ。
だが精神30により、細かい事は気にするなと楽観視出来るようになった。なってしまったとも言える。
恐らく精神値に関しては、本人の性格により影響が変わるのではないかと推測出来る。
アストの場合は大胆な考えが出来るようになったが、人によってはどんな時も賢者みたいに穏やかな気持ちで居られるのかもしれない。
頑丈を上げたことで身体が丈夫になり、ダンジョンの硬い床でも余裕で安眠出来るなど副産物も合わさり【熟睡】などいうスキルも獲得出来た。
【熟睡】の効果は寝ている間の諸々の整理をより深くより早く処理してくれるというもので、アストは一日四時間程度の睡眠でも八時間近く眠ったような満足感を得られる。
それでもアストの寝起きからの再起動にそこそこ時間を要するという点は変わらないが。
他にも二つほどスキルを獲得した。
【忍び足】と【夜目】である。
【忍び足】はゴブリンに背後から忍び寄り暗殺プレイを楽しんでいたらいつの間にかゲットしたものである。
効果は文字通り、足音を立てずらくなるというもの。
それだけ。もはや変わった? と思えるぐらい地味なものであった。
身体に影響する【N】スキルは大抵、意識しないと出来ないことが意識しなくても出来るようになるみたいな効果が多いのかもしれない。それが【R】になると途端に魔法みたいなことが出来るようになるのだろう。
ブルタの【加速】がいい例である。
そして【夜目】も同じようようなもの。薄暗いダンジョンで過ごしまくった結果である。
効果もささやかなもの。
明る場所から暗い場所に行った時、目が慣れるのにある程度時間を要するが、その時間を短縮出来るのだ。
もっと言えばささやかながら、より暗い場所が見やすくなった。
アストはこのスキルの上位互換があるのなら、暗視ゴーグルみたいになるのではと期待する。
ステータスの紹介はこれにて終わり。
……そんなわけ無かった。
アストは有言実行した。
幸運にSPを40も振ったのだ。
その結果、数値上は体力に比肩するレベルだが、実際は十倍近い差が生まれていることだろう。
今も倒したゴブリン一匹につき一つはドロップ品が出るようになったのだから。
残念ながらアストが獲得した鋼の剣以上の業物はドロップしなかったが、その代わり同じ物が五本以上ドロップしたので、いずれはゲートオブなんとやらが出来るようになるかもしれない。
もはや何もドロップしないほうが珍しいほど、幸運は猛威を振るっていた。
「なのに【N】以上の物が出ないんだよね〜ボスに期待かな」
それでも有るだろう【R】以上のアイテムにアストは期待を寄せる。




