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011 ゴブリンダンジョンに舞い戻り

あの後、街に帰りついたアストはギルドが用意してくれた宿に泊まり、英気を養う。


そして何となく精神が肉体に引っ張られているな〜と考える。


曲がりなりにも社会人として働いていたのに、思っていることと口から出ることが違ったりする。


でも、だからなんだ? とも思う。年相応になったのか、はなから精神が幼稚だったのだろうとアストは気にすることをやめる。


三日ほど経ち、ギルド職員からギルドマスターが事の顛末を話すから来て欲しいと伝えられギルドに向かう。


ギルドの二階。その奥にあるギルドマスターの執務室。ソファーで向かい合うアストはギルドマスターである中年の男性からブルタたちのその後を聞いていた。


ブルタは多くの罪を犯したことで奴隷落ち。商人も犯行に加担していたとして財産の没収と、町に対する無償のボランティアを三年することになった。


ブルタがつるんでいた連中は漏れなく全員捕まり、ブルタよりも扱いが悪い犯罪奴隷としてイーテニュー大陸に送られるそうだ。


「ブルタはこの街の資産奴隷として領主様預かりになる。そんなに悪い目には会わんさ」


被害者であったアストだが、真っ先にブルタの安否を確認してきたものだから、ギルドマスターは安心させるように教えてくれた。


「お前は恨んでいないのか? あわや売り飛ばされていたのに」

「全然。ちっとも怒ってないですし、恨むつもりもありませんよ」


しれっと言うアストにギルドマスターは面食らいつつ何故か問う。


「結果良ければ過程は割かしどーでも良しの精神ですので」


結果だけ見れば、アストは短期間でレベル10になり、ダンジョンも存分に潜れた。スキルとて二つ新たに手に入り、駆け出しにしては強力な武器も手に入れた。


「ブルタ氏とガチるのは楽しかったですし」


あんなヒリヒリするような経験をアストはしたことがなかった。それだけでも儲けもんだと本気で思っている。


「すぅ〜ふぅ〜。あいわかった。その件に関してはもう追求はしない。……これはブルタたちから没収した資産を被害者に分割した物だ。受け取って欲しい」


ずっしりと沢山硬貨が入っている皮袋をテーブルに乗せるギルドマスター。


目の前に置かれた皮袋をじっと見たアストはすっーとギルドマスターの方に押し返す。


「……何故受け取らない? 正当な対価だぞ?」

「これの代わりに一つわがままをお許しください」

「……聞こうか」


少なくは無いひと財産の代わりに何を求められるのだと身構えるギルドマスターに、アストは頭を下げ願いを言う。


「僕をEランク冒険者にしてください」

「なぬ?」


(もう三日もゴブさんたちに会っていないんだ! 我慢の限界だよ! ダンジョンに潜らさせろー)


アストが宿で過ごした三日間は苦痛であった。


一度でもあのレア掘りとレベルアップの瞬間を味わったらもう元には戻れない。


早くレベルを上げたい。早くレア掘りをしたい。


チュートリアルを攻略したのに、何故することも無い街に三日も滞在せねばならない? アストはそんな事ばかり考えていた。


だが、アストはFランク冒険者。


つまりダンジョンには潜れない。


この三日間はギルドもバタバタしていたようで依頼などまともに受けられそうにもなかった為、本当に三日間を無為に過ごしたのだとアストは思っている。


街に繰り出し異世界の街並みを観光するという、発想は微塵も浮かばないぐらいダンジョンに恋焦がれている。


そんなアストにすぐにでもダンジョンに潜る権利をくれそうな人が目の前に居るのだ。報酬なんか要らんから、ダンジョン潜らせろとなる。


「お主の実力がDランクに届いているだろうことはブルタから聞いている。だから実力については問題ない……だが、Eランクでいいのか? Dランク冒険者にしろと言われることも覚悟したのだが」


冒険者はランクが上がれば上がるほど旨みのある依頼を受けやすくなる。


その為、実力不足ながら依頼を規定の数達成したんだからランクを上げろと言う冒険者も多い。その逆に実力はあるのだから、早くランクを上げろと言う者も少なくは無い。


それらの対応をしてきたギルドマスターからしたら、ささやかすぎる我儘であった。


そんなギルドマスターにアストは目を輝かせ熱弁する。


「そんな勿体ないですよ! こういうのは噛み締めながら一つずつランクアップしていかないと!」


ゲームのように時短やらコスパやらタイパなどを気にするほどアストは生き急いでいない。


むしろしゃぶり尽くす勢いなのだ。


Fランクはどう考えても雑用でしかなく、やる気が出ない。


それでも渋々やるつもりだったのに、ダンジョンを先に味わってしまい、もはや雑用などやってられるかー! と完全にヤル気モードに移ってしまったのだ。


「そうか……まあ、そうだな」


アストの熱量にお、おうと若干引きながら立ち上がり事務机に置かれていたカードを手に取り、アストに渡す。


受け取ったアストは目を輝かせた。


「Eランク冒険者のカード!」


それはアストの冒険者カードであった。


そういえばブルタにパクられたまま帰ってきてなかったと今更気付く。


「元々Eランク冒険者に昇級するのは確定だったのだ。ブルタすら倒せるような者をFランクのままにはして置けないからな。だから、この対価も受け取れ」


皮袋をまたしても渡され、今度は素直に受け取るアスト。


「さあ、思う存分冒険を楽しむが良い。前途有望な冒険者よ」

「ありがとうございました!」


ガバッと頭を下げ、善は急げと言わんばかりに執務室から飛び出すアストを見送りギルドマスターはソファーに深く座り込む。


「気持ちのいい若者だ」


苦笑しつつもギルドマスターはアストの溢れんばかりの生命力の輝きに圧倒され、そしてそんな彼を気に入ってしまった。


スキルの有無で全てが決まると言ってもいいこの世の中であれほどまでに冒険者を楽しもうと考えるアストは珍しい。


「あの調子ならいずれはグラン様やミゼラ様……そしてアルテジア様のようなSランク冒険者になってしまいそうだな」


それもきっと遠くない未来に。


妙な確信がギルドマスターにはあった。



冒険者登録の時の受付嬢に心配されながらも、アストはギルドマスターと会ったその日のうちに街を飛び出した。


ゴブリンダンジョンの依頼はひとつも無い為、ダンジョンに潜りに行くだけになる。


因みにゴブリンダンジョンの依頼が無いのは、ゴブリンが基本的に汚い腰布や黒パン、水しかドロップしないからだ。そんなものを依頼を出してまで求める者は居ない。


多くの冒険者は別のFランクのダンジョンに潜る。


ブルタが受けたゴブリンダンジョンの調査は定期的に発生するもので、ゲームで言うところの定期メンテナンスみたいなものである。


ゴブリンダンジョンは一度攻略したら基本的に行く冒険者は居ないので、管理する義務がある国とギルドが提携して調査依頼を出すのだ。


全てのダンジョンは定期的に問題が起きてないか確認するために調査依頼を出す。その為、他にも同じ依頼が沢山ある。


報酬はダンジョンランクが高ければ高いほど旨みが出るので大抵はすぐに取られ、滅多に依頼ボードに乗ることはない。


逆に言えばゴブリンダンジョンは旨みがないので依頼を受ける冒険者が居ない。


ブルタみたいな古参が仕方なく受けるぐらいなので、今回アストを連れてダンジョンに潜ることが許されたのは普段からお世話になっているからという理由もあった。


そんな激マズダンジョンにアストが向かう理由は一つ。


「ボス見てないんだよね!」


草原を疾走し、ゴブリンダンジョンに向かうアストの目的がそれであった。


ひたすらレベル上げの為にゴブリンを狩り続けたが最深部のボスには挑んでいない。


ゴブリンダンジョンと呼ばれていることからも、ゴブリンのボスなのだろう。


(旨みが無かろうが有ろうが、未攻略のままにするのは背中が痒いんだよね!)


ゲーマーという生物はマップに一マスでも抜けがあるなら、それを埋めるためだけにダンジョンに潜るのだ。


故に一度潜ったダンジョンは攻略しないと、気分が悪いのだとアストは語る。


そう離れていないゴブリンダンジョンに戻ってきたアストはそのまま速度を緩めずにダンジョンに突っ込む。


そしてすぐに見つけたゴブリンたちに笑顔で鋼の剣を振るった。


「ゴブリンよ! 僕は帰ってきた!」

「グギャ!?」


心なしか、ゴブリンが帰ってくるな! と叫んだ気がした。

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― 新着の感想 ―
ところどころ幸運が作用しているような、気の持ちようなような…… ここまで極端に高くてこの程度なら積極的に上げる冒険者がいないのも納得ですね
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