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三姉妹傾国記  作者: 梢瓏
第一章 次女の章
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扉の中へ

 ルクレイツィアが扉に右手をかざすと、ルクレイツィアの体中に張り巡らされた鍵の文様が扉の模様に呼応して、全身から光が放たれた。その際にどうも少々の苦痛を感じたのか、ルクレイツィアは左腕で扉にかざしている右手を制するように押さえると、表情を少し歪めた。

「ルクレイツィア!」

 レインが叫んでルクレイツィアの背後からその肩を支える。アルニカも、ルクレイツィアの左腕に手を添えた。

「ありがとうございます、お二方!でも大丈夫ですわ!ちょっと痺れる様な感覚がありましたけど、一瞬でしたの。だから今は、扉の方を注視していただいてもよろしくて?」

 自分を心配して支えてくれた二人にルクレイツィアは礼を言うと、今正に開こうとしている?世界の扉に注目していて欲しい事を頼んだ。

 多分この扉は、使命を果たす時は三姉妹が揃った方が良いのは明白だが、それ以外の単独で開く時は『仲間』の存在が不可欠の様な感じがしたのだ。そしてその仲間とは、レインとアルニカの異母兄弟と言う事になるのだろう。

 ほんの数分の間なのに、何時間も経ったかの様な感覚を覚えていると、不意に扉の光が弱くなりルクレイツィアの身体から発せられていた光も収まった。扉の光も収まろうと言う時に、その瞬間は訪れた。

「ねぇ!扉が!!」

 アルニカの言葉で皆が扉を注視すると、さっきまで普通に出入りしていて開け閉めもスムーズだったこの部屋の扉が、まるで数百年の時を超えてようやく開かれる古の扉の様に、ギィィ・・・と言った重い感じの音を立てて、ゆっくりと開き始めた。

「・・・・!」

「これが・・・・」

「世界の扉?」

 扉が完全に開くと、この部屋から出た先の廊下の風景ではなく、どことも知れない謎の空間が目の前に、ポッカリと口を開いていた。

「マジかよ・・・」

 レインは驚きのあまり腰を抜かしそうになっていたが、自分とアルニカとルクレイツィアでこの扉の先の空間の探索をする事を思い出し、砕けそうになっていた?腰を老人の様に叩いて奮起させる。

一方アルニカの方は、

「アルニカ、あらかじめ準備しておいた荷物だ。これを持参してこの先の世界を見届けて欲しい。そして願わくば、オルトフレイルの三姉妹の開く本当の世界の扉の行く末も調べてきて欲しいのだ。」

 腹違いの兄であるアルフレドから、これからの任と旅路で使うであろう荷物を渡された。

 それを見ていたレインは、

「俺にも何か無いのか?アニキ。」

とアルフレドに詰め寄ると、

「殿下にはこれを渡しておきましょう。」

レインの背後からブレドが、この城に伝わる剣を渡してきた。

「これって、大昔からこの城に伝わる名剣『アルヴェント・ナーヴァル』じゃないか?!ラフェトニカ建国の際には、名だたる剣士がこの剣で建国を阻止しようとする周辺諸国の騎士を何十・・・何百と斬り伏せたと言う・・・」

 レインはブレドから剣を渡されると、昔聞いたこの剣にまつわる武勇伝を思い出した。

「左様で。この剣には、数多の剣士との戦いの記憶が刻まれている故、今はこの剣を使う剣士の腕がそこそこでも、それなりの武勲を上げられる名剣となっております。殿下のこれからの旅の良き相棒となってくれることでしょう。」

ブレドは、レインに手渡した剣の説明をしたが、レイン的には誰でも剣の記憶に頼れば武勲を上げられる・・・のくだりがイマイチ気に入らなかったようで、

「余計な説明は不要だ!」

と、少々ご立腹になっていた。

 ルクレイツィアは、レインとアルニカの装備が整っていく中で、自分だけは守られるだけの存在になっている事に気付く。

 でもそれは仕方の無い事、自分は一国の姫で、世界の鍵をその身に宿している者なのだから。

 しかもこの鍵のお陰で実際は、炎に包まれても死なない身体になっている事は、この二人には秘密にしておこうとも思っていた。


「では、参りましょうか?」

 ルクレイツィアは、アルニカとレインの準備が整ったのを確認すると、ぽっかりと開いた扉の向こうに足を踏み出す決意をした。

「ヨシ!行くんだな、後悔とか何かそう言うのは無いよな?」

 レインがルクレイツィアに問うと、

「むしろアニキの方が後悔しまくりなんじゃないですかね?」

ニヤニヤしながらレインの顔を覗き込み、まるでレインの心理を見ているかのような事を言った。

「ああ、後悔とか何か色々あるけど、でも俺がルクレイツィアの扉への旅路の同行者に選ばれたのなら、行くしかないだろう?いや、そうでなくても俺は付いて行ったけどな!」

 その言葉を聞いたルクレイツィアは、身体の奥底から何か分からないけど不思議な力が湧いてくるような感じがした。

「ありがとうレイン、とても心強いわ。アルニカも、私のそばを離れないでくださいね!」 

そう二人に声をかけると、扉の前に改めて立った。

「では、アルフレド様、行って参ります。帰り道はどこから出るのか分かりませんが、私達なら多分大丈夫です!」

 ルクレイツィアは、扉の中に一歩足を踏み出した。その身体は、扉の中に急激に吸い込まれて行く。それを見たアルニカとレインもまた、扉の中に吸い込まれて行った。

 3人が扉の中に完全に入ると、アルフレドの自室の扉はゆっくりと閉じ、元の普通の部屋の出入り口の扉に戻っていった。

 アルフレドとブレドは、まるで白昼夢でも見た蚊の様な顔見合わせて、その場に佇んでいた。


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