世界の扉
「ブレドから聞いた話と、私が前々から聞いていた話との混合になるが、これから話す話はかなり信憑性は高いと考えている。
と、アルフレドは前置きを言い、それから長い長い話をし始めた。
「まず、世界の鍵はそれを身に宿すルクレイツィア殿には分かり切っていると思うが、例え四肢を分かたれたとしてもその鍵は、鍵に課せられた任を解かれることは無いと言う・・・」
まず鍵の事について一言説明を話したアルフレドにレインは、
「えっ?!鍵ってよくあるこんな、物理的なモノじゃなかったのか?」
と、ポケットからどこかの鍵を取り出しながら質問してきた。
「そうですね、こんな感じで身体に刻印されていますね。」
レインの質問に返信するように、ルクレイツィアは服の腕をまくって肌を晒すと、そこには何かの文様の様な不思議な模様が浮かび上がっていた、そしてそれは時々脈打つかの様に光を放っている。
「うぉぉ・・・なるほど。ルクレイツィアの身体が鍵って事なのか。」
ようやくレインは『世界の鍵』の実態を知ることが出来て、満足と納得の息を漏らした。
その光景を確認したアルフレドは、
「続けるぞ。その世界の鍵は、旧文明によって作られたシステム上でのみ稼働する、言わばプログラムの一部と言う事になっている。そのプログラムを3つ揃えることによって、『世界の扉』が開かれることになっていると言うのが『世界の鍵』と『世界の扉』にまつわる知識の一端なのは、この件を知る者にとっては常識の様なものだと思う。所が、この『世界の鍵』で開かれる『世界の扉』は、3つの鍵で同時に開かなくても単独で、一つの鍵だけで開くことが出来ると言う事実はルクレイツィア殿は知っておられるだろうか?」
不意に質問を投げかけられたルクレイツィアだったが、その話は寝耳に水と言うか天地がひっくり返る?様な感覚を感じさせるほどに、ルクレイツィアには衝撃の展開だった。
「い、いえ・・・初耳です。父はこの鍵を託す時に、姉妹3人で『世界の扉』を同時に開きなさいとだけ・・・。本当にそれだけだったので、私達3姉妹は各自『世界の扉」を探しに行ってかつ、同時に開く方法を模索するしか無いのだろうと思っていたんです。私も、これから皆様と共にこの大陸を駆けずり回って扉とその方法を探しに行くものだと思っていました。」
ルクレイツィアの言葉を聞いたアルフレドは、
「やはり本家のオルトフレイルでは、あまり『世界の扉』についての伝承は正しく伝わっていなかったようですね。私がブレドから聞いた話とは、明らかに異なります。」
そう言って、ルクレイツィアを初め、驚愕の表情で固まっているレインとアルニカの顔も見た。
「ブレドは本家で生まれ育ちましたが、王位継承権を持たなかったので分家の方で暮らすことが多かったようです。その王家の分家の側に伝わる話では、まず『世界の鍵』で開けられる扉は実は一対になっていて、常に鍵の身の近くに存在しているそうだ。つまり、今から皆で遠路はるばるどこかに存在すると言われていた『世界の扉』はわざわざ探しに行かなくても良いと言う事になる。今も『世界の扉』はルクレイツィア殿お近くに存在していると言う事になるだろう。」
この言葉に一番反応したのはレインで、
「んな!そんならもしかしたら、ルクレイツィアの姉さんとか妹はこの事実を知らなくて、今もこの大陸のどこかを探索してるかも知れねぇ!って話かもだろ?」
と、兄アルフレドに突っかかる。
「かも知れないし、そうでは無いかも知れないぞ。何せ残りのお二方もオルトフレイルの姫君で、かつ妹殿は現オルトフレイル国王と言う身の上であらせられるからな。早々にこの事実に気付いて・・・もしくは、事実を知る側近が近くに居てもおかしくないだろうね。」
アルフレドはまるで、ルクレイツィアの妹シグリットの身辺に居る者に心当たりがある様な、そんな口ぶりでレインに返答した。
「話を続けよう。『世界の鍵』に付随するように近くに存在していると言われる『世界の扉』だが、ある一定条件を満たさない限りは、たとえ『世界の鍵』の所有者であってもその姿を見ることも触る事も叶わない。では、一体どんな条件が揃わなければならないのか?それは、知・武・運・志の4つだ。これを伝承してきたオルトフレイルの分家だったが、先のあの侵攻でほぼ滅ぼされてしまったのが無念である・・・。」
あの日の戦闘には、アルフレドも残党の保護などの為にメルルーク・ラングルス側に付いてオルトフレイルに赴いていたが、あまりの惨状に未だに目頭が熱くなる事しばしばだった。
「主・・・」
ブレドもまた、アルフレドの心情を察して涙していた。
「まぁ、色々あってこの『世界の扉』への執着は各国が血眼になる程に戦争の火種になっているのは確かなのだが、その『世界の扉』をくぐった先の世界の事を未だ誰も知らないと言うのが現実だ。もしかしたら、オルトフレイルの王族の先人の方々の中には扉の先の世界を見た者達も居たのかも知れないが、今はそれを誰に聞く術を私達は持っていないのだ。だからこそ、今これからルクレイツィアには『世界の鍵』を使い『世界の扉』を開けて、その先の世界を見に行って欲しいのだ。」
アルフレドは、今正に自分の目の前に『世界の扉』が存在しているような口ぶりでルクレイツィアに、これからの行動を示唆した。
「え?ええっ?!」
『世界の扉』?一体どこに?と、周囲を見回すルクレイツィアだったが、ルクレイツィア自身にはその扉の位置を把握しかねていた。
「おい!アニキ!!ルクレイツィアにホラ吹いてんじゃねーぞ!?」
困惑した状態のルクレイツィアを見かねたレインが、アルフレドに文句を言うも、
「何を言っているレイン、お前の目の前にも既に存在しているぞ?」
と言いながら、アルフレドは今しがたルクレイツィア達が入って来たアルフレドの自室の扉を指さした。
「何だって?」
何の冗談を言っているんだこの兄は?と口から出そうになりながら、レインは扉をまじまじと見つめる。
アルフレドの言葉を信じてルクレイツィアも、この部屋に入る時に通った扉を正面から見据えた。
ルクレイツィアが扉の正面に立つのを、まるで扉自身が望んでいた?待ちわびていたかの様に、扉に刻まれた模様の一部が変化していく。そして、その模様の一部が右手の手のひらを置く場所の様な形状になって行った。
「これが・・・『世界の扉』?」
ルクレイツィアがそう呟くと、扉は呼応するように光を放った。