昨年の話
ルクレイツィアがこのメルルーク・ラングルスの領国ラフェトニカに連れて来られた時は、それはもう凄惨な状況だった。
三姉妹が引き継いだ世界の鍵だが、それを手に入れようと最初に動き出したのがメルルーク・ラングルスだった。
メルルーク・ラングルスの王ダニストラム・ネル・ラングルスは、実は何世代か前のオルトフレイルとの政略結婚の末に生まれた王子の子孫であった為なのか、それとも天性の勘なのかは分からないか何故か、世界の鍵が国王の手から次の世代に譲渡された瞬間が分かったのだった。
ダニストラムの宣言で、昨年の戦争は始まった。
メルルーク・ラングルスに後れを取るまいと宣言直後に先陣を切ったのは、ムルニム大陸の中でもオルトフレイルに次ぐ勢力を保っていたスレアドニス帝国だた。
スレアドニス帝国は魔道国家で、国民の殆どが高度な魔法を使える事から、他の諸外国に傭兵として雇われたり、魔道の知識を世に広めるための教育機関が充実していた。その所為か、他の国々でスレアドニス帝国に行った事が無いと言う魔導士は居なかったと思われる。魔道に限らず知識を広めることに信念を抱いていると思われる国・・・それがスレアドニス帝国だった。
そのスレアドニス帝国が颯爽と、魔導士兵団を率いてオルトフレイルに攻め込んだ。最初に攻め込んだのが戦闘力の高い国と言う事は、メルルーク・ラングルス的にはもう手出しが難しそうな状況ではあった。
もしくは、この機に乗じてオルトフレイル侵攻と言う名の下でスレアドニスにもダメージを与えられる可能性の方を選択したのも事実だった。
遅れて参戦してきたのが、ナル・アルファストラ王国で。
この国は、100年程前から三度メルルーク・ラングルスと衝突しては領地を簒奪されている小国(に成り下がってしまっている)なので、このオルトフレイル侵攻と言う気を見計らって、メルルーク・ラングルスから元自国の領土を剥奪しようとか?もしくは、オルトフレイルを侵略して国土度してやろうと画策したのかは分からないが、とにかく何か参戦してきた?と言うイメージだった・・・と、当時ナル・アルファストラの戦力と相まみえたメルルーク・ラングルスの兵士は語る。
遅れて参戦してきた辺りで敗戦するかも?と言う想像は出来ていた筈なので、その点だけは勇敢だと称えられるかも知れないが、これらの3国が血で血を洗うオルトフレイル侵攻の中で四ツ巴の戦争になって行ったことだけは、後の吟遊詩人や語り部たちの間で多くの人に語り継がれる事となる。
さて、四ツ巴のごちゃごちゃな侵攻戦になって行った中で、オルトフレイルの三姉妹はからくも逃げ延びた。
次女のルクレイツィアはメルルーク・ラングルスに捕まってしまったが、領国のラフェトニカのスメルリナ城とその城下町での軟禁と言う、かなり優遇された措置を取られて有意義?な軟禁生活を送っている。
三女のシグリット・オルトフレイルも、どこかの国で軟禁生活を送っているとの話なのだが、まだこの話の詳細はルクレイツィアには届いていなかった。
シグリットは生きている、しかしどこの国のどこの領地に居るのか?と言う詳細は未だ三姉妹の他の2人には知る由も無かった。
因みに、オルトフレイルでは他の国々とは違い、国の名を名前に冠するのは王位継承権を与えられた者のみと言う決まりがあり、それに則って継承権を持つ三女のシグリットがオルトフレイルを名乗る事が出来た。
また、オルトフレイルは王族のみが魔法を使えるのだが、ルクレイツィアは主に回復魔法を、シグリッドは使い魔などの小さな生き物を生み出す魔法が使えた。
三姉妹の長女で戦闘系の魔法が使えると有名なのが、マルグリッド・マーデルで。戦闘系と括られているけど実際は、空間を操る魔法が使えた。
その為、空間に関する事ならマルグリッドの右に出るものは居らず、魔法大国のスレアドニス帝国の空間魔法科の教授達でさえ、マルグリッドの手腕には誰も太刀打ち出来ない程だった。
その実力を存分に行使出来るのが戦場・・・と言う訳で、もっぱらマルグリッドは軍部に入り浸り、姫として王城に留まる事は無かった。のが高じたのか、あの昨年のオルトフレイル侵攻の際には、オルトフレイル外の戦闘の鎮圧に向かっていて、オルトフレイルの防衛戦に加わっていなかったのだった。
そんなこんなで、三姉妹は何とか生き延びて、託された世界の鍵を各々が隠し持ち続けているのだが、世界の鍵は3つ揃ってからでは無いと効力を発揮する事は無いため、侵攻戦に参戦した各国の目下の目的
は、三姉妹を全員一つ所に集結させると言う事だった・・・のだが。
今は、三姉妹の誰かを保有している事が世界を将来統べる国になると宣言し、睨み合っている?様な状況になっている。
さて・・・これから世界の扉と三姉妹を巡る戦いは、一体どうなって行くのやら。