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三姉妹傾国記  作者: 梢瓏
第一章 次女の章
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それは幼なじみと言うのでは?

 チラチラと後ろを何度も振り返りながら、エルマキアに手を引かれたルクレイツィアはスメルリナ城の中を歩いていく。

 今まで、オルトフレイルの城の中以外の城を歩いたことが無かったので、ルクレイツィアの目に映るモノはすべて珍しくて新しい発見ばかりだった。

 歩きながら色々と質問したい気持ちに駆られたが、歩きながら返答するのは大変だろうと思い、部屋に着いてから質問攻めにしようかな?と、密かに恐ろしい?事を企んでいた。

 馬車が着いた城の最深部?の様な所から手を引かれて歩く事数分、目的の新しいルクレイツィアの住まいとなる部屋に着いた。

「はい、こちらがルクレイツィア様の新たなお住まいとなる部屋です。」

 カチャりと音を立てて開いたドアの先の部屋に、ルクレイツィアは一歩足を踏み入れた。

 外側の小さなドアからは想像も付かない程、広い部屋だった。

全体的に白を基調とした家具や寝具で整えられていて、広くて大きなクローゼットのスペースもあった。

 蛇口をひねるとお湯が出るバスルームもあったのには、かのオルトフレイルのルクレイツィアでも結構驚いた。

 城下町に住んでいた時のあの家にはバスルームが無かったので、時々街のお風呂屋さんに出かけなければならなかったのだ。

「蛇口をひねってお湯を出すシステム、結構大変だと思うんですが!」

 オルトフレイルでも蛇口からお湯を出し続けるのは割と大変な事で、しかも他の国ではそんなに当たり前ではないどころか、かなり珍しいその技術にルクレイツィアは目を輝かせていた。

 この、蛇口をひねると常時お湯が出ると言う状態は、つまり蛇口の先のお湯を送り続ける管の先で誰かがずっとお湯を沸かしているかまたは、別の機構が働き続けていなければならないので、それで結構大変!と言う言葉を、一回の従者であろうエルマキアに怒涛の様にルクレイツィアは繰り出したのだ。

「やはりルクレイツィア様は、このバスルームをお気に召されたようですね。」

 案内してきたエルマキアは、微笑みながらルクレイツィアに話しかけた。

「その技術もまた旧文明の頃の名残なのですが、このスメルリナ城はそう言った旧文明が今もなお息づく城なのです。」

 つまりスメルリナ城は、旧文明を生かしたまま使用し続けている言わば、遺跡をそのまま活用している城と言う事になるだろうか。

もしくは、遺跡になる前からずっと使い続けている、旧文明を後生大事に継続使用している城と言う事になるのだろうか。

 とにもかくにも、オルトフレイルとはまた違った方法で旧文明を生かして使いうづけている城が他にも存在している事にルクレイツィアは感心した。

「ほらほら、旧文明オタクのオルトフレイルのルクレイツィア!そんなに部屋の観察してばかりいたら、エルマキアが対応に困ると思うんだけど。」

 ふと気が付くとルクレイツィアの背後には、一仕事を終えたレインが立っていた。

「ひやぁ!」

 不意に背後から声をかけられたルクレイツィアは、変な声を上げて驚いた。

 その声を聞いたレインとエルマキアは、

「おっと!申し訳ない。そんなに驚かせてしまったか。」

と、気軽な感じに謝るレインに、

「殿下!妙齢の女性の背後から気安く声をかけるなど、どこぞの不審者かと思われても誰にも弁明できませんよ!」

結構なお怒りモードで、上司であるはずのレインはまくしたてられた。

 その様子を見ていたルクレイツィアは、

「先程から少々疑問だったのですが、どうしてエルマキアさんとレインは、王族と従者と言う間柄にも関わらず、そんなに兄弟間で話すかのような口ぶりで会話されるのでしょう?オルトフレイルでそれをやったら確実に、反省文10枚以上と数日の禁固刑になると思うのですよ。」

 昔、オルトフレイルでも似た様な、気さくな話し方をする従者が居て、その者がこんな感じの罰を受けていた・・・様な?と思い出しながら話した。

 それに対して、

「ま、まぁ・・・確かに他の諸外国では多分本来は王族と従者との関係は、完全なる上下関係で支配されていると思うんだが、この彼等は・・・俺の兄弟同然に育ったのでな。」

 レインは、もっと自信を持って話すべきだと言う先程の指摘にあまり影響を受けていなかった様子で、ちょっとまた尻すぼみ気味に話した。

「要は、私とアルマーとソフィールは幼年期の頃から殿下にお仕えしているので、それはもう兄弟同然の扱いで育ってきたのですよ。なので、大人になった今でも当時の関係性のままの会話をしてしまう、そんな感じでございます。」

エルマキアが、まるで上司レインの言葉を代弁するかの如く、自信満々で答えた。

 へ、へぇ~そうなんですね?とルクレイツィアは、エルマキアの迫力に圧倒されながら納得?をした。

 もはやエルマキア、従者でも何でもなくてレインのお姉さんなのでは?と言っても肯定されるような気がしてならなかったが。

「私達3人は元々戦災孤児なので、家族は既に居らず誰の保護も求められないと言う事で、このラフェトニカのスメルリナ城に引き取られてまいりました。以降はスメルリナ城内の城塞都市内で育ち、その際に殿下と引き合わされて主従関係となるのです。」

と、エルマキアは簡単に自分たちの身の上をルクレイツィアに説明した。

 因みに、城塞都市の城の街に住まう者の殆どが、城で何らかの役に従属している者達の家族が住んでいて、いつ何時に何が起きても即座に対応出来るような体制にしているとの事だった。

 何もかもがオルトフレイルとは違って、面白くて楽しそうに感じたルクレイツィアだったが、

「もしかして私、またあの城下町での暮らしの時の様に、特に何もせずただ日々を無意味に過ごして行かなければならないのかしら?」

と、これからのこの部屋での生活で、唯一不安に思っている事を口にした。

 昨日までのあの暮らしは、何も考えなくて良くて何も不安な事も無くてとても楽しい日々ではあったけど、でも何もしなくて良いって言うのは実は自分の事を必要とされていないって事なんじゃないか?とずっと、ルクレイツィアと言う名の自分の未来がどうなるかを想像するのが怖かった。

 このまま、何もせずに数年もしくは数十年が経過していくのではないだろうか?と言う恐怖感を抱いて生活していたのだ。

「大丈夫だ、ルクレイツィア。ここで生活するお前には、何らかの役割を担ってもらう。そうだな。その治癒の魔法を生かした仕事をしてもらう事になるだろう。」

 レインはそう言って、ルクレイツィアにまた頭を下げた。

 いやいやいや~、頭を下げるのは私の方ですよ!!と言わんばかりに、ルクレイツィアは頭を下げるレインの前で両手を左右に振り続けた。

 その光景を見ていたエルマキアは、

「殿下!オルトフレイルの姫様が大層お困りの様ですぞ!」

と、笑いながら声をかけた。

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