領国の町娘
その日はとても天気の良い日だったので、ルクレイツィアは買い物かごを片手に、城下町に繰り出していく。
「ここの城下町は何でも揃っていて、買い物のし甲斐があるのよね~!」
ルクレイツィアの趣味は、お買い得な商品を探し出す事だった。
お買い得な商品とは、店によっては値段の設定が違う同じ商品を探し出す事なのだが、同じ店でも昨日は100ルピアで売っていたのに今日は90ルピアだったりしているとか、とにかく値段の変動が激しい商品を見出して、それを買うと言う戦法だ。
とは言っても、それをやっているのはルクレイツィアだけではないので、他の町娘で目利きで買い物上手に先を越されることなどしばしばだった。なので、毎日ルクレイツィアは朝・昼・夕方には城下町に出かけて、町中の店の値段を逐一チェックすると言うのをやっているのである。
でも、そんなの毎日やっていて飽きないの?とある日、ルクレイツィアは城下町に住む少女に話しかけられたことがあった。
「確かにね、真面目に考えるとそうなんだけどね。今の私にはあんまりやる事が無くってね、それでこんなことばかりやっているのだけれども、でもそれはそれで町の主婦層には感謝されていたりする事もあるのよね。だからある意味これは・・・そう!趣味なの!私の!」
ルクレイツィアには、そう返事をするしか無かった。今は。
本当に今はそれしかする事が無かったのだ。
ルクレイツィアがこの、ラフェトニカ王国のスメルリナ城に来たのは昨年の秋頃だった。
今から数えると・・・そう、そろそろちょうど一年になる。
実は昨年は、ムルニム大陸にある3つの国で戦争があった。
3つの国で、血で血を洗う様な壮絶な戦いがあったのだ。
ルクレイツィアには2つ年の離れた姉が居るのだが、姉は戦闘系の魔法が使える関係でいつも国の軍部に入りびたり、昨年のあの日も結局一度も会う事無くルクレイツィアは祖国を追われたのだ。
祖国・・・オルトフレイル王国を追われたルクレイツィアは、この戦争で主導権を握っていた大国メルルーク・ラングルス共和国に捕らえられ、領国ラフェトニカのスメルリナ城とその城下町に軟禁されている。と言う状況だったりしているのだった。
なので、特に何かやらなければならない事なんて無かったり、城下町で好きなモノを買ったり物色したり、町の住人と面白オカシイ話をして楽しんだりして暮らしているしか無かったりしているのだった。
「何かねぇ~、せめて何かコレをやれ!みたいな指令書でも貰っていた方がね、気が楽だったりするんだけどね、」
好きな欲しいものを買い終えて、いっぱいになったかごを両手で抱えながらルクレイツィアは空を仰ぎ見た。
見た目は、妙齢の美人の町娘と言う風貌だったが、その顔つきには数々の苦労や悲しみを経験してきた者らしい雰囲気を漂わせている。
祖国オルトフレイルが倒され、家族ともちりじりになって軟禁されたこの国で、ルクレイツィアはいつか外に出られる日が来るのだろうか?と思いながら、ふぅ~~っと深い溜息をついた。