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コウ=シ=ケンラン おひめさま L27

 僕がなぜ、街にいるか。

 急で脈絡がないと思う人がいるかもしれない。

 実際その通り。

 何か奪われたような、そうでもないような、その衝撃だの、色々とあり。

 逃げるように、村を飛び出してしまった。

 念に念を押して、村に本当に何かあったときのためのアイテム一つを、途中で見た村長の近くの子に渡し、ついでに「あれ」の詰め込める家を見繕って放り込んでおいて欲しいというのだけは、忘れていない。

 やることはやった、僕は冷静だ。

 相手の顔や目は見れなかったが。

 そこから、猛スピードで観察したい敵陣を数か所再確認し、2日ほどで街に戻った。

 敵地に入る際のために匂い消しをしたり、水浴びは腐るほどしたが、実質食いものらしいものは食べていない。


 とはいっても、まぁ。

 街と言っても、今でも中心となる兵隊どもを入れて2万はいない程度。

 それも、半年ほど以前には数百人の集落だったから、言う割に実感がない。

 装備の更新がうまく回るようになり、異種族討伐の話を受けたときに、地理的には必要な集落を説得して、ここから遠出で稼ぐの楽かもねと思ったのが一年ほど前。

 僕が出入りするから安全と見るや、賞金稼ぎやら、なんやらが徐々に増加し、もともとの住人のために僕はボランティアで外様の人間の短期居住地などを整備。

 あぶれた職人などをそのため伝手で連れてきた結果、人数がバグったのでお仕事を増やすために僕が安定するまでは給料を出すようにしながら居住区を拡張。

 同時に元々の住人の家も全要求に応じて新築、増築というケア。

 活気があるように見えると、そこに商人と、奪い取った土地の所有権に関わる諸々で貴族が次々参入。

 僕も派閥争いに使われるぐらいにそれに巻き込まれ、地獄かというくらいの勧誘と脅しを体感したものだ。


 その時、すべて投げ捨てる覚悟を繋ぎ止めたのが、今いる国の皇女。

 そして、その近衛で働きもののアイーダだった。

 ある程度の距離を置けよう貴族をけん制して、王権主流派とも絡まないよう僕を浮いた位置に放り出してくれた。

 しがらみがなくなったことに関して、今も、これ以上助かることはない。

 利権欲しさの非主流派たちは怯まなかったが、ならばとアイーダが皇女の指示で王都を離れて参戦。

 最終的に、今のように王都主導の軍と貴族連合それぞれの出している兵士が何重にも最前線で亀裂を作って、戦いが終わった後の領有権や功績を奪いあうために日々関係を悪化させ続けている。

 王都側、つまり王城周辺の防衛隊から出てきた正規兵も一枚岩ではなく、王族の分家や次の嫡子に関する亀裂はあるし、前述の貴族と金銭でつながってるものもいる。

 船で全滅したというのが、その形でつながっている兵なのは間違いないだろうと思うと、ここからさらに街でも派閥争いは過激化するだろうし、気は重い。


 

 そんな毒の壺みたいになっているこの地だが、それでも思い入れはある。

 ここ半年ちょっと、自分の持つアイテムの限界を試すためもあり、建築資材になりそうなものをどんどん投下。

 滅んだような都市から柱などをそのままもってきたり、集落、そして観光地の様だったこの場所を万人がらくらく入る城壁に囲まれた街を半年ほどで頑張って作ったのだ。

 相手の足を引っ張りたい非主流派たちから、金をいくつもの手で言いくるめて引っ張り出したりして。

 なお、その建設などに必要な人員の半数は今兵士となっている人たちである。

 だから、そこには参加しなかった王都側とは復旧不能な、俺たちが作ったというプライドもその他の人たちに残っている。

 それが、僕にも一応ある。

 あまりに建築物資や運搬に関して僕がやってしまうので、途中から王国そのものはほとんど金を出さなくなったり、そっちにわだかまりも不満も、僕自身にも残ったままだ。

 貴族たちのほうが、そこに貪欲なだけ我先に関わってくるので、まだ話が出来るレベルな時もある。


 そんなこんなを超えて、今がある。


「アイーダさんには、途中で何度も色々と間に入ってもらいましたし、感謝しきれないです」

「いえいえ、功績の数では、半年足らずでこの都市が出来るなんて夢でしか不可能なことをしたリューオさまに誰がかなうものでしょう」

「一人ではしてません、みんなのものです」


 街並みを歩きながら、しばらくぶりの彼女にしっかり感謝する。

 内部の建物はまだまだ建築中のが多く、うるさくて情緒も何もないものだが、発展しているのを見れるのもまた、いい。


「ここだけで満足する人たちが多ければ、もうみんな幸せなのかもしれませんが、それもそれで、ここが消えてしまう悲しさがあって…」

「大事なのですね、ここのすべてが」


 言われると、うんざりする中でも、僕がここを気に入っているのも自覚する。


「みんなですよ、アイーダさんも、ここに居る人も、いない人も」


 割と作っている上っ面だが、笑われるだろうか、この人には。


「…素敵です」


 ずいぶんと、色々、目をつむってくれるものだ。

 毎回、こうして助けてくれる。


「今日は、今までにないくらい、空気がおいしく感じます」

「そ、そうですか」


 たまに、仕事と全く別の笑顔をするのに不意過ぎて僕は面食らう。

 雰囲気作りにも、気を常につかってくれている感じも、ちょいちょい感じてはいる。


「お忙しかったのでしょう? その中で頑張っていた、リューオ様といるだけで、ああ、空気がとてもおいしく感じるのです」

「……ああ、すいません、風呂とか、まだでして」

「いえいえ、そのほうが、ぜんぜん、いいですよ?」


 ………?

 たまに変なことを言うときはある。

 そのまま、軽く食事をして、ある店に共に寄るのが、まあ、仕事の合間に決まったパターンだったりする。


「皇女にも、たまに笑いかけてくださいませね」

「あ、ああ、わかっています」


 そう言い、アイーダに向かって深々と頭を下げる。

 なぜか?

 アイーダのイヤリングにある魔法玉に、その理由がある。

 それは特殊な遠隔装置で、

 王都にあるとある部屋に、それに映ったものがすべて投影されているのだ。


 つまり、一部切ることはできるが、アイーダの見ているすべてを皇女も見ているのである。

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