コルレーニョ アイテム L**
「ど、どうしました!?」
「あ、あそこ!」
「ヤバヤバなのです」
「そこ!そこそこ!」
「し…死体が…」
口々に混乱した言動が重なって、何が何やら。
かなり大きなものが水の中に落下した音だけだが、パニックは絶対に避けたい。
ので。
早急に解決して即座に動き出し、できるだけ早くここを脱出したいところ。
声も含めた大きな音がこれだけ連発されれば、そっちで発見される危険もあるのだから。
そんなわけで急いでリューオがとりあえずの憶測で状況を推察するに、音の原因である何かを誰か見た可能性がある…?
そのくらいか。
下水道であるから、いろんなものが落ちてくること自体は、おそらく不思議ではないが。
そう思い、水路を少し見まわすが…。
たしかに、一部赤い部分が水面にある。
大きめの排水口に野犬が入ったり、食肉加工する区画の下ならその処理で色々…は、一応、珍しくはない。
などと平気で眺められる程度には、リューオは慣れた空気で確かめる。
そして、すぐ近くに浮かんできている布を何気なく掴むが……。
「……ああ……」
いたたまれないものを見てしまった。
しっかり見てしまった人もいたんだろうな、という、見事に人間の死体。
他殺と言い切れる程度に、肩口から腹のあたりまで見事に切断され、人の形であることを一瞬確認しきれなかった程である。
「しかも…そうかぁ…」
「大丈夫ですかぁ」
「あ、はい!言ってる人ので少しだけちょっと…」
そのかわいそうな死体。
数日前も遭遇した、獣人のマヌである。
状況からすると、以前にもリューオを狙っていた暗殺者一味でもあるこの獣人。
リューオが囚われて死罪確定となれば、役目が完了したわけで、このように秘密が漏れないように末端から切り捨てが始まる。
もちろんこれは神視点での話であって、おそらく始末を開始した人間以外これを深く知る者はいないだろう。
もちろんリューオも。
なお、実行犯はマヌの直接の上司だったこともある男。
より深く言うと占い教団の最初の被害者である謎の組織の男だったりするが、この一行の何にかかわることでもない。
ただ仕事熱心な一人の男の地位が、遠くで人知れず上がるだけである。
とりあえず、そんな仇や恨みやという見え方も義理もない立場であるから、ただリューオとしては冥福を祈るだけだ。
リューオから見る彼女は、いまだに迷子になっているときに出くわしたこともあるだけの、料理屋の看板娘なのだから。
「いたぞぉ!こんなころに逃げ出したリューオがいるぞー!!」
「!!!」
ちょっと立ち尽くしている間に、そうだ、大切なことを忘れていた。
一刻も早く逃げないといけない、逃避行の最中じゃないか。
しかも、今完全に特定されて包囲されかねないまでになっている。
「人もさらに殺しいる!応援を呼ぶぞ!」
「地下水路だ!奴のほうが詳しいはずだからきをつけろ!」
もう、奴呼ばわりだ。
もともと人望、なかったのかなと少し悲しみを覚えるリューオ。
「急ぎなよ!こっちこっち!」
(隠れたほうがいいのにどうして大声を!?)
さらに、早めの脱出を促してれるフミには、どうせなら手伝ったこともばれずに街に戻る方向で一つ…と思っていたので完全に一味認定されるであろう今の事態に悲しみのリューオ。
だからといって、今さらに別の演技をして村の皆様への危険度を上げるわけにもいかない。
したがって、まぁ、言う通りに逃げる。
リューオも街の設計を全体的にやっちゃいるが、なにせ工期を圧縮して無理やりに作った街だ。
門や壁に限らず、遺跡を削って丸ごとキューブで移動して置いただけという手抜きもたくさんもある。
特に新区画は住人のほうが、もうずっと詳しいことだろう。
「ああ、ごめん迷ったわこれ」
「……問題はないです」
ありありだが、言えない。
「あれ?この場合どうするんです?」
「八方ふさがったのです…」
「…と、いうより、その…君はどうして、死体そのまま担いでいるのかな…」
ムカの当然の疑問である。
「いえ、しのびなくて…せめて、知人のよしみとしてお墓くらいはと…」
「かわいいこと言っちゃってまぁ…好感度稼ぎしてたりするのお?」
「そういうわけでも…」
「信頼できる人の行動としては、まぁそこそこ加点してもいいですかしらねぇ、過剰だとちょっと怖いですけど」
「…追われやすい血の跡をわざわざ増やすのは加点できないのです…恐ろしいのです…」
「言われてみればそうかぁ!」
タマ、そこは頷くのはいいとして笑うとこじゃない。
感傷でわざわざ自滅しそうなことするのをもっと叱られてもいいものを、何とでもなると割とみんなが思い込んでいるので、全体的に救いようがない程度に緩いのがいけない。
なお、その根本的な原因は、リューオと村の皆様の感覚の違いがそもそもでかいのがある。
リューオは街も衛兵たちも馴染み深く、ある程度守りたい考えが働くが、ぶっちゃければ村勢の過半数は殺そうが壊そうが構わないのだ。
あわれ。
リューオだけが、この救出計画を立てた時点で相当な暴虐ありきを前提にしていたことを、知らない…。
「あっちだ!」
「その道に応援を多めに置け!スライムも気をつけろよ!」
迷い、道を変え、いろいろとしている間も聞こえてくる、それぞれの方向からの声。
向こうも完全に地下を把握しているわけはないはずだが、街を守る最低限の人数はどれだけ工作してもいるわけで…。
数で包囲する当然ながらの手は、当然ではあるが、穴が開きまくっていなければ効果も確実だ。
ポイントを押さえて人を配置していけば、逃げるだけの目印付きの一団などは容易に取り囲める。
それだけの話だ。
「見つけたぞ!!」
「そこのお前!仲間なら一緒に捕まえるぞ!」
そうして、その中で、ちょうど悪いところに。
体が強いわけでないステラが、少し遅れて離れたところに、三叉路でちょうど兵士と出くわした。
「い、いやです!離してください!」
「ステラ!」
兵士がステラの手をつかんで捕獲しようとする。
リューオが手をふさがれているので即座に対応できない中、ムカとタマがあからさまにやる気を見せて即座に走り出す。
やる気というのはつまり、それだ。
それなのだが…。
「はなして!」
「……な……あれ…」
「おいどうした!?……あれ…」
ものの数秒だった。
わずかな抵抗のように、ステラが手を動かしたように見えたその途端。
掴んだ側の兵士が、か細く何か言って倒れた。
その隣の兵士も、続くように倒れ、ぽつんとステラだけが立っている光景が広がる。
「何かした?ステラ……」
「……わ、わからないけど、離れたい、取られたくない…そんなことを…必死で思ってた…かな……かも」
「力で何かした様子は…ないですねぇ…むしろ、生気を抜かれたような、この肌の色が不可思議ですが、どう考えたらいいものか」
「ま、死んではないっぽいから、ほっときますか」
ムカは起きたことそのものは気にも留めていない。
「何もケガしてない?」「大丈夫かい?」
そして少し遅れて、案内係のフミとリューオもその場に来る。
「はい、お二人もありがとうございます」
やっと、ステラにも少し安心した表情が出てきた。
「あまり離れないように、もっとみんなでゆっくり行こうか」
「い、いえ、何か体が軽くなった気もしますから、すぐ行きましょう」
「そうなの?」
みんながステラを見る。
「……気がするだけですけど、大丈夫です」
その中で一人だけ兵士のほうをじっくりと観察しているフミが、ぼそりと呟く。
「…確実にアブソーブ…ですなぁ…怖いほど強力な…」
「どうしました?」
「いや、何でもないよ」
さらりとスルーするが、本来であればとても流せるようなものではなかったが。
「またやられているぞ!」
「ここだ!みんなを集めろ!」
「号令だ!!」
「…あいたぁ…」
それなりにのんびりしている間に、当然であるが周囲は全力で移動しているので、とうとう特定、周囲を完全包囲のターンになっていた。
こうなれば、もう何も衝突なく逃げ延びられない。
一部を蹴散らすか、捕まるか。
「出来ればここに穴もあけたくないし、立場はわかるから誰か傷つけたくもないんだけど…」
「まぁ、ここはお任せしていただきたいですリューオ殿」
もはや周囲には敵意しかないのを感じて、覚悟を決めるべきか悩むところに、素晴らしい何も考えてなさそうな笑顔でドヤっとした空気で寄ってくるのはタマ。
雰囲気的には、何でも殺害で解決するような性格だと思っていないのと、何かミスしてすぐ次にという精神的な清涼剤になる気すらしているので、リューオはとりあえず頼むことにする。
期待度は無いに等しいが。
「ふっふっふ…見たら驚きますよ、わたしも『アレ』もらって世界に通用する速球王になった気でいますから!」
「そっか、ディスクみんな何かしらもらってたはずでしたね」
「そうです!ということで試運転です!」
何が言葉の正解なのか、もはや訂正する必要を感じない。
むしろ正解などないのだろう。
そんな軽い空気から、取り出されるそれ。
「起動!コルレーニョ!レベル指定!フォルティッシシシモ!!」
「え!?それマズ……」
言い終わることもなかった。
その瞬間、その周囲のすべてが変わった。
ゆえに誰も聞き取ることなどできなかったのだ。
コルレーニョ
それは、ほぼ何でもない、可変式のハンマーを取り出すディスクである。
武器だけであればキューブから取り出せるだけで十分で、ディスクとして存在するそれはあまり意味のないものとなることもある。
ただ、リューオが使っていたものにもいくつか武器としてのディスクがあったように、操作と、それに反応できる機能や装置などを組み入れたものは十分な価値がある。
マリカの見立てで村の皆さんに配られたものとしても、一応は持っているものすべてを投げつけたわけでなく、これなら使えそうだという判断はある。
例えばマヨイはものの見方がいびつっぽいのでパートナーでバランスが取れたら良い傾向があるだろうという判断、オーマは痒い所に手が届く細やかさがいるかもという判断、などだ。
タマに関しては、おそらく、複雑なものは何も使えない気がするという判断で武器以外はもらえていない。
その中の一つがコルレーニョ。
ただし弱いわけでは決してない。
大きさは自由に指定、ハンマーでありつつ柄の長さなどは出した後でも自由にでき、意志だけで槍のようにも弓のようにもなる奇跡の武器だ。
それを、何のためらいもなく極めて大きく召喚したタマ。
結果はというと。
その場には、縦に伸びるように全長にして軽く2キロを超える超巨大物体が出現した。
遠くから見れば傘のように見えなくもない、まっすぐに伸びて上側に重しのような頭部がありつつ、それでいて、なぜかしっかり直立している。
が、そう見えるとしたら相当な遠くにいた時の見え方だ。
現場は、急にハンマーの柄の、全体を支えるだけの太さの棒状の何か。
それ自体も数十メートルかそれ以上のものが突然出現したと把握するのが限界だ。
地下の範囲はそれのため急激に破壊され、その上にあったであろう建物などは間違いなく壊され、周囲の余波もそりゃあ、ある。
ハンマーの頭に乗っかった形で持ち上げられてしまった逃亡者たち一行には、離れすぎてその確認はできないが…。
「…やったなぁ…陽動より派手に目立って破壊の限りを尽くす本体がありますかだよ…」
『マスター、友軍が最大開放のリンク生成を行った場合、緊急事態として全制限を解除した戦闘もポップスは可能ですが、必要ですかあ?』
「ないない、遊びのレベルっちゅうかだな…確かアレもらったのタマだよね…ほっとけだとか、正面から関わるなの類だよ、バカバカしい」
街の中で再度の混乱の引き金を引こうかと待機していたマヨイ。
となりには、兵士が急に大量に地下に駆り出されて隠す必要すらないほど街が無防備になったので出しっぱなしにすることにしたポップス。
巨大な塔のような何かが、いきなり登場しても街であわてていないのは、もう、この二人だけかもしれない。
結構な範囲で、大地がめくれたような崩壊も起きたが、何とかその影響外にいたのはただの幸運。
ま、何かがあっても行動自体はしっかりしているポップスが、なんとかはしていただろう。
『お仲間は皆様まとめて上空に反応が確認できます、他者の追跡は困難な状況にあると言えます』
「比較的うまいことやったってことに…なるのかなぁこれ…」
『警戒していますが、ん~…想定値を超えるエネルギー体も敵対存在らしい反応もないですねぇ~…どういうコトなんでしょ?』
「タマだけに関して言えば、いつものことで覚えとけばいいわよ。そしてそうなると、私たちだけが後は問題、かなぁ……こりゃ」
周囲を見て、逃げるではなく相手を行動不能にする手段を本体側が採用し、もう終わったものと思うことにしたマヨイ。
街の惨状に、多少そ知らぬふりをするのに気が引けたりはする。
数秒で無駄な考えだなと思いなおすが。
…どうせ二度とこないのだ。
「…で、ポップスさ、お嬢様たちと合流したいんだけど、方法って何か、思いつく?」
『はいマスター、慣性制御モードをご指示下されば、このキュートで煌びやかで完璧なポップス=チューナーが数秒でお連れすることも、全然不可能ではないですよ』
「じゃ、お願いするわ」
『それとなく確認いたしますが、慣性制御と反重力バネで初速マッハ28ほどは軽く出ちゃいますけど、お体は問題なく対応されておられます?』
「大丈夫大丈夫、見た目より健康なのが取り柄だし」
『では、すぐに参りましょう。衝撃波ガードなどの対応は当然完璧なので、ご心配なく!』
「……はいはい、早くね」
さて、説明されたようで全く理解されていない、この一連の言葉の応酬。
平たくまとめると、特殊ディスク、ポップスが飛べて、上空のリューオのところまで連れていけるというもの。
それだけである。
が、そこに問題がいくつかあるのが、すっ飛ばされた。
おそらく普通にゆっくり飛ぶのもできるものを、超音速で飛ぶ指定をマヨイが生返事でしてしまったこと。
そこに、Gなど体の負担があることに、マヨイが想像すらしてないので適当に返したこと、など。
これによってどうなるかというと…。
『では!ご覧ください、ポップスが華麗に空を舞うさまを~!』
何の遮蔽も前触れもなく周囲を襲う、音速突破の破裂音と衝撃波。
防御されたり制御されているとしても、完全に抑えられるわけではない急加速のGや振動などなど。
そういった感情的な配慮をディスク側をするはずはなく。
『皆様ごきげんようです、可憐で清楚でこの世界で最も艶めかしい人型メカ、ポップス=チューナーがマスターをお連れしましたよ~!』
「…ポップス!?あれを持ってきちゃったんですか!?誰が!?」
リューオからすると、周囲を顧みたりしないうえに、この調子なので空気も合わないコレ。
それでいて、想定上そこまで必要性を感じないレベルの過剰な攻撃力だけはある。
リューオはこれを、見つけた後で一度試して即封印の分類に入れた。
特殊ディスクは言うコト聞かない危険なもの、という認識を植え付ける大きな要因の一つでもある。
『以前にマスターしていただいた方ですね。お久しぶりです!私のマスターは…あら…?』
「マヨイさん…なんて姿に…」
保護しきれない分の重力負荷で完全に気絶して、口から何か垂れている。
ポップスが不満げでなく、体が汚れているようでもないので、それを見越し体からマヨイを多少離していたのが原因だろう。
ポップスは自分に汚れが付くのを、命令を簡単に拒否するくらい嫌うからだ。
そういったすべてを複合すると…。
どうなるか、どうなったか。
つまり、こうなる。
「もう、こうなっちゃったら何ができるわけでもないですし、帰りますか」
「馬車のほうと待ち合わせ…ちゃんとできるんでしょうか?」
「そのへんは、あの子らの持ってるディスクですぐ何とかすると思いますわ」
「そうでなくても自力で多分帰れるでしょうしね」
「万事解決、なのです」
「……あの……」
リューオが悲しそうに心残りを語ろうとするものの、他は完全に勝利ムードでかき消していく。
こうして、一行は悠々、街を後にしたのだった。
……いいの、かなあ。




