ポップス アイテム L**
「では、いきますか!リューオ開放計画!」
あれから数日。
あの多大な破壊によって被害を受けた人たち。
駆り出された医者などでは到底間に合わない人たちを次々担ぎ込んで薬漬け…もとい、ありえない治療薬で治療したのが、イウナを囲む宗教のような占い集団たち。
よくわからない薬が大量に生産され続け、見た目としては完全にすぐ直るので、感謝と寄付は増加の一途である。
それを作っていたムカは、あれからリューオ生存の報であっけなく回復し、空元気のまま5徹でぶっ倒れて翌日に回復。
製法は他に伝えられていたので、ひたすらに作り上げては飲ませ続け、もはや街の乗っ取りでもする気かというほどに膨れ上がる占い教団。
惜しむらくは、そこにおいてリューオと何らかの繋がりがある形跡すらないため、リューオの失地回復には全く役立たないこと。
…いや、関わっていなくてよかったとも、言えるが。
なんにせよ、それによって入ってきていた情報とお金は活用する。
直接の襲撃犯のようにして使い捨てるまではいかなくとも、人も利用する。
さらに言うと、生えてきた人脈も残らず利用する。
まぁ、当人たちに自覚がない程度に、あちこちで「急用」が発生して、人が集まらないようにする工作程度であるが。
必要な物資についてはイウナとマリカで確実に揃う。
侵入経路のアドバイザーは、先日お金の関係でお世話になったお店の店主にしてパティシエ、フミ=シツエボシ。
そして…アイーダである。
皇女も自ら参加したいと言ったようだったが、さすがにご遠慮いただいた。
ただし、決行となる予定の日に帰ってもらうことで、そっちの警備に人を多く持って行ってもらう役に立ってもらうことに。
なお。
今のこの街の状況と世論としては。
人々の認識の大勢としては、リューオはこの街そのものを囮として作り、皇女を呼ぶ機会を作って暗殺を企んだ魔族の一味という噂で固まってしまっている。
破壊や幻覚で街に多大な混乱が起きた中心にいたのは確かで、一部は本当にリューオが指示したものであるから、本当に始末が悪い。
そのせいもあって、リューオもおとなしく捕まることを選んでしまったんだろう。
村の皆さんの中では、自然とそういう結論で話が進んでいた。
つまり、現状どうなるか、というと。
つまりもクソもなく、王族の命を狙ったことに関しては即時処刑。
皇女の目の前で行うかどうかの違いでしかなく。
それをなんとか、皇女のほうでも口を使って引き延ばしたり事実確認のやり直しを求めたり、動いた形跡はある…が。
数日遅らせる程度が手いっぱい。
そこから、公に流れてくるべき情報が今もずっとないということは…。
処刑されたことそのものが内緒でないのなら、事は決まって執行待ち状態ということだろう。
ということで。
村の皆さんで、黙ってそのまま帰ろうという人はいるはずもなく。
もはや、破壊活動を前提で動いているテロ組織の風格すらある。
見た感じは、年頃の女子しかいないモーテルだというのに。
ここに関しても、マリカが手配したことでリューオに関りがあるものとして今のところ見られていないのは幸運である。
街に入るときにリューオが彼女たちと一緒だったことに関しても、名前をリューオが覚えてもいなかったという門番の証言があるため一味という認定はされていない。
その結果ゴーカが平手打ちを食らわせたりしたことで、その時は問題になりそうだったことも、印象に残るという形で仲良しでも仲間でもないというアピールに受け取られたようだ。
彼女たちは、本当にノーマークなわけだ。
「アレ」と呼ばれてばかりの謎物体、ミコの宿泊所に関してはリューオが手配したが、そちらは、宿泊した存在そのものがずっと確認されていないという怪談のような話しかない。
本当に、そちらに関してはずっと何かわからないままなのは、どの立場からも変わらない…。
そして、もっとも関係者として疑われる可能性が高いマリカであるが、当日実は警備の人間がずっと数人、商店の近くにいたことでアリバイがあるのと、地下施設の存在をそもそも誰も知るはずがないので、深く関係性を追求し得る材料がない。
街の建築に関してちょっと喧嘩になった時期もあるため、実は店が出来てからの期間、足しげく通っていたわけでもない。
街の出来る前から二人を知らなければ、流行らないし客も少ないお店の店主と客、で片づけられる。
最後に付き合いをある程度疑われそうなアイーダ。
そもそも普段の行動に加え、近衛として国に従事し忠誠を誓うそのたちの模範であり、疑うことそのものが不敬。
そういった空気がもっぱらなので、お気持ちと一応の形式的な調査はうけ、潔白が証明されるので心配そのものがなかった。
「では、本日正午を持ちまして、ここを引き払ってリューオを回収、しかるのち地下か適当な乗り物で高速で失礼する、という方針で!」
「「「は~い!!」」」
明るくゴーカの言葉に返事が返ってくるが、完全に破壊工作の指示。
それでも、みんな元気に、一丸でリューオのために動くことは変わらない。
なお、其れとは来た目的から違う、行動を共にする必要がない魔王、そしてそのお付きの二人であるが…。
諸事情もあり、参加しはしないが、独自に皇女の影武者、リリカの監視として重要な役に付いていた。
管理を任されている状態であり、目が覚めないままでもいろいろ拷問じみた事があった形跡がなくもないが、まぁ、そこは見なかったこととしてそれ以外のものは済ませている。
「す、すみません…この近くで落し物が、あ、あり…まして…」
リューオが閉じ込められている兵士本営の外れ。
計らい通り、皇女の帰還の際の周囲警備に駆り出された兵士と、家族の急用などで多数の休みが重なり、スカスカになった本営の人員。
そこの入り口に、たまたま現れた、困っている人見知りの少女。
何の不審さもない。
「何時ころ落とされたのですか?私ではすぐには対応できないのですが…」
「こういう…これと似たような形のディスクなんですが」
「み、見た事がないですが…それと、いま、手からいきなり出たように見えましたが」
「ディスクロード、ポップス…レベル、フォルティシモ、コードプレイ」
人が本当に少ないことを確認し、少女が受け取ったばかりのディスクを起動。
少女の名は、マヨイ=ウチズハ。
人目に触れることはあまりやりたがらないマヨイがまず先制で突っ込んだ形だ。
これを陽動として、すべて動き出す。
「は…なにを?……うわぁ!?なんだこれは!?」
呼び止めた警備がかなりの新兵っぽいのもあり、眼前で起動したそばから注意がディスクに向いて、彼女を取り押さえる注意力もない。
心の中で無能さに感謝しながら、マヨイは迷いなく近くに隠れ、指示を出す。
「素晴らしき天気!素晴らしき眺め!そして素晴らしき私!この世で最も美しい、輝く眩いキラキラパールのメタルな妖精ポップスチューナー!お出ましです!」
「…間抜けな口上はいいから、働きなさい頭ドピンク。生命体はできれば避けて踊ってればいいからさ…」
「いやん!ご主人辛辣!でも、私がんばりますよ!」
軽く三階建ての建物ほどの身長がある巨大なロボのようなもの。
ロングドレスの衣装の女性型ロボのような、ずいぶんと趣味的で特殊な形状のもの。
リューオがギリギリまで、何するかわからないからと出すのをためらっていた特殊ディスクのひとつ。
初手でお出しするのは詳しく知らないからなのか、リューオ以上の覚悟や胆力がなせる行動なのか、判断が分かれるところである。
そして、門を、入り口周辺を破壊しながら、理解の範囲を超える歌声をまき散らす巨大な人型。
割と無邪気な感じでドスンドスンと周囲を破壊する感じが何とも怖い。
「…うわぁ、私が見た事ないタイプの地獄だなぁ…」
マヨイもやっている側ではあるが、ドン引き。
「ご主人ー?それで、ひとつ困ることが出来てしまったんですけどぉ?」
「…あの、めっちゃ目立ってるから、別の手段で話して」
『ではこれでぇ。猫ちゃんが足元に居るのがかわいくて命令を続行できないんですけどぉ』
「思った以上にめんどくさいなぁ…まったくもー…イジェクト…」
「そんなぁ~!」
あまり活躍せずに止まって、あっさり回収されるディスク、ポップス。
急に消えたことにより、捜索という形でさらに人員がこちらに誘導されたりもするのだが、マヨイ当人としては成功の判定にできそうにない。
場所を変えてまた出そうと試みながら、陽動の役割は真面目に遂行していた。
そのころの、リューオの幽閉場所、だが。
扉の鍵こそかけられているが、牢屋ではなく普通の部屋。
リューオ自身も制限はかけられているが、思うより自由な軟禁生活を送っていた。
まぁ、無理もない。
投降したはいいが、もともと裸で武器らしいものがない。
キューブにより好きに取り出す範囲のものは、そもそも没収もできない。
どこに置こうが、手足を封じたとしても意味が薄かろう。
そういった軍のトップの意見があったがゆえである。
そして、それ以外にも諸々があり、リューオはほとんど自主的に罪人としての処遇を待っていたのであるが。
「このでかい音!?まさか、影武者の人が起きてすぐ暴れだしたとかじゃ…大丈夫かな、みんな…」
指示があるわけでも、唯一内外で行き来できるだろうアイーダから何か前もって聞いているわけでもないし、混乱するのは当たり前。
実際、アイーダとも皇女とも捕らえられてから面会などできていないので、仕方ないことだ。
連絡役として誰かしらが機能していれば、この行動もかなり変わっていたことは間違いない。
こうなった一因は、まぁ、アイーダが何のかんの理由をつけられてひたすら面会を断られた焦りと怒りをマリカの店でぶちまけたからというのも大きいので…。
つまり。
「リューオさま、お助けに参りましたよ!」
堂々と扉を蹴破って、アイーダが陽動と見事に連動して部屋に入ってくる。
「へ!?」
「場所を特定するくらいなら、私も手のものを使って探れますからね。うまく本営のあいつらも隠したものです」
「いや、格好もともかく、声出したら見つかりますから…アイーダさん無茶なことは…」
「絶対に、リューオさまはこんなところで殺させません…私とて、皇女に負けないくらい、リューオさまをお慕いしているんです」
アイーダの行動の疑問よりも心配が先に来て、とりあえず帰った方がいいというつもりだったが、あまりに不意の告白に面食らう。
言葉も詰まるほどに驚いたまま、リューオはそのまま、「こちらへ」の一言とともに手を引かれて連れ出される。
途中に誰に見つかるかと思ったが、その途中には、通路の前面をふさぐ壁のようなものがあちこちに作成されていた。
もしかして、独自にアイーダもディスクを取得していたのだろうか。
攻撃系ではない渋い効果っぽいのは、彼女の選びそうなものっぽいなという、らしさをリューオに感じさせた。
その一方、警備が急に詰めかけないのも、もともといないのも、かなり重めの罪人相手にしては違和感しかないのだが、アイーダとしては陽動に釣られたと信じるほかない。
まず考えるより、連れて逃げ切るのが先。
秒を争うほどの時間勝負なら、それを優先して後から考えるだけだ。
「では、私はここまでです…もしかしたら、もう…会えないかもしれませんね、リューオさま…」
裏手の大窓から抜けて、物陰にある地下への穴まで案内したアイーダ。
途中に、一瞬だが、建物の近くが完全に壊れているのを見てしまったリューオ。
リューオは、そこでやっと、何人かが協力して脱出計画が動いていたのを悟った。
「アイーダさんは、大丈夫なんですか…?……ぱっと見、とんでもないんですが…」
「目撃者がいなければ、ここで捜索の命令系を混乱させられるように問題のある指示を意図的に出すだけですし、そうでなければ私にも偽物がいたと言い張って粘るだけです」
ずいぶんと周到な何かが出来上がっているようで。
「そんな簡単なものではないのではというのと…その、残って嘘をつき続けたり、疑われたり…」
本気で言うと、リューオからすればヤバいのと加担して何してるのかと叱りつけたい気持ちもあったが、出来はしない。
今になって告白のようなことを言われたからには、この短い時間のすべて、その一言一言に、色々意味が詰まっている気がしたからだ。
思い余って間違ったことをしたとしても、原因である自分が、頭ごなしに何か言うべきなのか。
少なくとも、とっさに感情を優先して言えることなどはない。
そもそも感情を当たり前に操れている自信すらない存在が言えることなのか、という心の足かせも含め。
ただ、リューオであるから、相手の心配は何にも優先する。
「その一言、その髪一本、汗の香り…何から何まで、私の理性を溶かして劣情で満たしてしまえるくらい、リューオさまを欲していました」
言い方!
いい場面になりそうな別れのような空気でその言い方!
「私は忘れません。またお会いできる時まで、全てを忘れません…でも、私は何一つ捨てられない立場があり、それは全ての信頼を支えに存在するものですゆえ」
「そこまでしっかりと考えておいでで、僕に何かしようと思わなくても、いいんですよ…でも、僕もアイーダさんは好きですよ」
「…形だけでも、大変うれしく思います。それだけで十分、後に何があっても乗り越えられる気がします」
「アイーダさん…」
「あ、もう一呼吸、こう近くで吸っていいですか」
(こう、今になって、なんか空気感が一定じゃないなぁこの人)
今まで隠していたのか、それとも気付いていなかったのか。
いろいろと欲求ぶちまけたようにしつつ、感動を味わうアイーダにリューオも困惑をする。
とはいえ、嫌いになるようなレベルに邪悪な欲求でもないし、扱いの正解がわからない。
「で、でも、確かに今までのように、会ったり助けたりという関係では…なくなってしまうのかもしれないですね…ですので…」
リューオが、一つ、キューブから取り出す。
ツールと呼ばれた、あの光の棒を出すアイテムだ。
たしか、村の武器屋に複数あるような話があった気がする。
ゆえに、特に惜しくはないものを渡しただけという話だったりするが。
「何かがわかりにくいので、いざという時には、これで身を守れるかもしれません。これをどうか…」
「私なんかに…?」
「こうして使えますし、マリカさんに聞けばもう少し詳しく、何かしてくれると思います」
「ありがとうございます。いつか、またきっと…」
「はい、またきっと」
軽く光を出すために握ることだけを見せて、渡す。
そのまま、そうして出来るだけ早く、アイーダにとってみつかれば致命的な状況を終わらせるべきと穴へ潜る。
張り巡らされた下水道の入り口でしかないが、一般的に各町にできている施設でもないからか、重点的に見張るものがいる様子がない。
「…さようなら」
体を落としたとき、軽くキスをされた。
反応ができないまま、リューオはそのまま消えていく。
冷静に、アリバイのためその場所から速やかに離れながら、アイーダは、さすがに少しだけ泣いた。




