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ミコ=ミカ=ノチキラク つかいま L1

 銀色の輝くような髪。

 睨みつけるその奥の、オッドアイ。

 側面から覗く、ツノ。

 

 横と後ろには、何やら無残な、魔物の死体がある。

 そして一人の人影が立っているのを確認する。

 例の村を管理している奴なのだろうか。

 いやむしろそれは…。

 死んでいるのと生きているの、どっちなのだろう?

 たどり着いた時にはもう判断材料がない 。

 そう、頭を少し巡らせた時。


—汝は我に死を強いるものか


 強い言葉を聞いた。

 可能ではある。

 僕は答える。

 ただ話もしないままに終わらせるのは趣味じゃない。


—了解した


 一応言葉は通じるようで一安心だ 。

 次に、暗がりなので見えなかった姿をあらためて確認する。

 角などがある以外は大体人間に近い。

 いや少女のように見えた。


「ボクの見た目で判断なんて意味がないぞおまえ~」


 耳に、別の声が聞こえる。

 姿を認識したとたん、そこから声が聞こえるように、おんなじ存在が変更したような。

 脳が、そんな都合がいい状況に疑問を抱かないよう、無理につじつまを合わせに来たような感覚。

 それを瞬間的に感じて、違和感に気持ちが悪くなったが、それすらもまた、瞬時に消える。

 すさまじい違和感をその短時間に、立て続けに感じた。


「オマエが攻撃できないだろう見た目と、ボクが残したい固有の特徴を混ぜたものがオマエに視覚情報として与えられているだけなんだぞ~気をつけろよ~」

「それはそれは厄介な…」


 幻覚を使える高度なやつか。

 しかも、ネタバラしを最初にしてくるとは、自信があるか、ずいぶん舐められたものだ。


「でもそのせいでボクもボクがわかんないのだ~」


 間抜けだな。


「そんなボクを当たり前に攻撃できるのかそこのオマエ~」


 やってることとは似つかない、気の抜けた声と、重心がないような、頭がけっこうふらふらする挙動。

 挑発するのは結構だが、それは近接が可能な動きなのかな。

 どう見たって、力を抜いた棒立ちなんだが。

 一応警戒はする。

 思考を読んだり、幻覚を見せたうえにその場には存在すらしない、死角から切り込んで殺すタイプなら、すでに相手の術中ということもある。

 と、いうことで。

 手持ちをまず捨てる。

 ナイフ、水筒、乗ってきたドラゴンのディスクなど。

 別の方向から本命が来たなら異常を察知しやすいよう、音が出やすいような、引っかかりそうな場所を考えて投げる。

 ディスクが相手の魔力などに反応した場合は想定として一番楽。

 遠隔起動すれば先制は取れるはずだ。

 相手にそれと思われないように、何気ないふりはしながら、ポイと。


「なんじゃワレ~、やんのか~」


 舌ったらずに無駄に煽ってくる。

 僕の心象なんだよな?

 これだと攻撃しにくい、できないと思う…または思わせる姿を作っていると言われた気がするが。

 ぜんぜん、そうとは思えないが。

 で、素手になった僕は、相手のこれの頭をてっぺんから、無造作につかむ。


「んがぁ!なにしとんのにゃ~!おまえなんて一撃やぞお!」


 あ。

 だめだこいつ。

 早くなんとかしないと。

 周辺魔力感知のアイテムも投げつつ、相手の仕掛けを警戒したが、だめだ。

 まず見た目の場所のコレが幻覚でもなんでもない。

 普通につかめた。

 本当に殴ったら死ぬような魔力が込められているのかと一瞬検知を試みたが、ない。

 そもそも、掴んだ時点で、相手の手が短く、腕を振って何かしているようだが、届いていない。

 仮に、殴ろうと腕を振っているとしたら…。

 悲しい煽りを、こちらからもしなくてはいけない。

 やめよう。


「……しようか、話し合い」

「そこまで泣いて卑屈になって頼むなら、仕方ないって言ってやってもいいが~なぁ!」

「そうだね、プロ根性だね」


 もはや、生暖かい優しい笑顔を向けるまでに、内心見下している自分がいる。

 いっそ全部演技だったら、すごいなあ。

 そう思って、少なくとも殺意は一度も湧かないまま、対峙が終わった。

 後ろの死体だけ片づけたいが、仲良くお片付けできるほど親しくはないので、そこからはちょっと離れる。


「あれは、一応聞きますが、あなたがやったんですか?」

「なんか二人で殺しあってた」

「へ…へぇ」


 そこは幻覚の効果だろうか。

 殺意の塊か、警戒か様子見する知能も余裕もない場合には、特別高い効果があるとか。

 ということで、さて。

 互いの立場の確認をしてみるわけだが。

 こちらとしては、住んでる人たちに牧場呼ばわりされているあの村の奪還か、視察に来ている魔物が来ると思っていた。

 それが一番怖かったとも、言う。

 そこが確認できるならば。

 事情からすれば種族がどうの関係なく、今は敵対を避けてもいい。

 そこが予想通りでないならば。

 ぶっちゃけ、軍の侵攻に相手から一撃を入れる目的でも、ここは見逃してもいい。

 もう勝ったも同然と、侵攻軍に気を緩められてはいけないのだ。

 攻撃前の、僕のいない間の警戒度を確認できるのは、むしろプラスだと僕の視点からは言える。

 被害が出てから僕が指摘したりすれば、偉そうに見えるので。

 が。


「召喚された、だけ?」

「そうなんだよねえ~、愚かな人間どもめぇ」


 相変わらず上半身を揺らして、弱さアピールでもしているかのようだ。

 話をすべて正しいとして組み立てると、だ。

 契約の召喚陣で呼び出された、異界の存在らしい。

 今この世界で対立している魔物や生き物と、そもそも何の関係もないと。

 そういうものは、召喚されて契約を結ぶもので、誰かの支配下になるか、はたまた支配者として一定の規模を庇護する既存の社会集団から見る異物になるはずだ。

 じゃあ、なんだ、こいつは。

 そこについて、掴めるんだか掴めないんだか。

 まとめているから短いが、聞いて理解して整頓するまで軽く6時間は使った。

 なので、結果から言おう。

 召喚はされたが、どういうわけか任意の場所でない、よくわからん山の中に出現。

 探されもしないし、サポートもされないので、勝手にこの世界をうろつき、稀に召喚者の痕跡を探す。 (ここまでに4時間)

 気が付くと召喚に際して権利があろう存在はあらかた死亡して、「これ」は自分の目的すらなくしているのに気が付く。  (観光話の無駄な2時間)

 そのまま、局所的な生きている怪奇現象と化したこれ。

 偶然の偶然に、それに出くわしたことになる。

 魔物を殺害した、よくない現状だけを残して。


「つまりっていうと、帰りたくてうろついてるんですか?」

「どぉかなぁ~どこにいても暇なことは変わんなんじゃないかな~」

「それと、こちらからの質問ですが、人間の集落なんかにも、幻覚使ったまま行っていたんですか?」

「こっちに興味を持たなきゃ勘違いもしないから、相手しなきゃいいだけじゃ~ん?」


 使ってたなこの野郎。

 しかし、知る限り、人間の町が頻繁に原因不明のまま滅んだりはしていない。

 だから、偶然会っただけなら、そのまま接点がなかったものとしてさようならしても、いいといえばいい。


「とりあえず、この先の港町は賑やかで楽しいって聞くからこの後行くんだ~」

「やめて」

「いくんだ~」


 軍の前線基地。

 割と殺気立っている連中の集まる戦闘の口火を切る場所。

 これがそこに行って、仮にすべてに幻覚がかかるとなると、話は別だ。

 侵入は差し止めるだろうし、異物に関して敏感になっている、というのもまずい。


「あの、少し小さい村だと、もっと楽しくないですか」

「なぁんで~やあだ~!ボクにぎやかなの好きなんだもん~」


 やっぱ駆除すべきなんじゃないだろうか、これ。

 何が起こるか、ある程度予想しながら動いている雰囲気もするし。


「頼むんで、そこそこの距離なら王都でも、交易都市でも、どこでも連れて行きますんで、やめませんか」


 命がかかっているぞ、あまのじゃくですべてぶち壊さないでくれよ?


「自分だけ楽しんで、ボク仲間外れにしようとするのず~る~い~!ボクにも権利があるんだ~法の盾は利用するためにあるんだ~!」


 舌ったらずな気の抜けた口調で、難癖だけ適当に言い続けるこの感じ。

 子供か!

 いや、今の僕から見た見た目はそうだけど。

 召喚者が死ぬところまで長くさまよっていた話からすると、相当長寿な雰囲気はあるぞ。

 これ。


「じゃあ、何だったら納得するんですかっ」

「ぉ~、ボクを止めてしまおうという、無謀で不遜で世間を知らない態度を取ろうって言うんですか~、いいですよいいですよ、ボクだってグレるし~」


 楽しんでます?


「でもね~」


 少し睨むような目つきに、少しだけ血の気が引く。


「ボクのこの世界での契約可能というステータス自体は、一応残ってるんだ~いまでもね~」


 何を言い出したのだ?


「ボクの機嫌を損ねずにやりたいことを邪魔したいって言うならねぇ~、対価を払って僕を使役することはできるんだよ~」

「僕に、そんな話を持ち掛けよう、って言うんですか」

「楽しい気分でいて欲しいなら、ひとつだけ出来ることを教えて悩んでくれても、ボクはいいかな~って~」

「悩むことだけを楽しもうと思って、無茶なことを要求できるチャンスと思っているのでは…」

「ないない~」


 軽く言うが、それが簡単なら、それほど長年うろついているとも思えない。


「単純に、10万人の羨望を集める情念が凝り固まったような器、それと5万人の血を浴びた怨念の集積したような物、あとは因果の特異点を生むなにかくらいしか要らんし~」

「それ、儀式的なものなのか趣味なのかわかんないな…」

「どっちでも、そもそも変わらないよ~ボクの対価という条件だから~」

「じゃあこの場で渡すわ」

「……おや?」


 さすがに、これがどんなに悪魔的なものでも一度は固まるか。


「出したままにはしないでくれるんだろ?」

「安定もなく、ずっと抽象的なこの世界と空間にボクのほうを合わせて固定化するのに~必要なものだから、そのままのものにはなんないよ~」

「じゃあ、いいな」


 僕は念じて四角い箱を一つ取り出す。

 空間キューブ。

 ある程度この世界と途絶された空間を手元に置くという魔法のアイテムらしい。


「4をアンロック」


 言葉とともに、上からぽろっと、何かが落ちる。

 合図もないが、目の前のこれは、しっかりそれを両手でつかむ。


「たぶん3つともの条件を満たしてるかもしれないんで確認してくれ」

「ぅわ、つよつよだ~これ、すげ~つよつよだ~」


 種族抗争がずっとあったこの世界。

 生まれた国もあれば、滅んだ国もある。

 その中で、常に国境のどこかで戦闘が起き、千年近く持った、とある国がある。

 伝説上なので、それを見たことがある存在は、今いないに違いないが。

 その国で、争いの元の一つであった、その国の国宝の一つ、壊黎水晶。

 確実に付与された呪いと、あまりに強いそれを解除する手がないので、持ち主を破滅させるだけのものとして持ち主を転々としていた物体だ。

 空間そのものを隔絶させることで、呪いがかかる条件の例外を確認。

 過去に絡んだ探索で、それをできる都合がいい僕が発見時近くにいた、それだけで、勇者ならできるだなんだで押し付けられた物体。

 因果がどうかは知らんとはいえ、血を吸って、怨念や情念は集めていそうな宝石だ。

 見た瞬間に人が光に魅せられて狂う、だの言われる物体だったし。


「満足できるかね」

「世界の調律を狂わせるほころびがあるものなら、まぁまぁ妥協してやっても、いいかな~どうしようかな~」

「しなさい」

「おけ~」


 納得しやがった。

 ま、うかつに表に出せるものではないから資産として換算できなかったし、よかろう。


「あとひとつ、ちょっとだけたりないから、あと、なんだったらオマエくれよ~」

「契約で主従になるのはわかるけど、あっさり俺が子分はないなぁ、これで我慢して」


 ぽい、と折れたナイフを渡す。

 長く使っていた方だと思うので、血の数がどうの、と言っていた話なら、足しになるだろうと。


「そうじゃなくな~ほら、よくある、体の一部やエネルギーよこせよ~ってお話で、貰う方法でエロくなるやつあるやぁん?」

「あるねぇ」


 見た目で正しく判断できる要素が全くないよと言っている奴がなんか言い出したな。


「それで勘違いして、服脱ぎだしたりしないのかな~って」

「しないなぁ…」

「なんだよ~ノリ悪いんじゃない?」

「ひたすらお前が残念なんで…」


 声も態度も、そんな雰囲気出せていたか、自分で一度問答してくれ。


「じゃあもういいや、これで契約条項やっちゃうよ~」


 言うが早いか、「これ」は黒い霧の塊のようになり、僕の認識できない何かに変わる。

 少しすると、人間のような形になり、落ち着いた時には、さっき見た幻覚と同じ姿だ。

 僕にとっては、何が起きたのか理解できなかった。

 別の誰かから、この世界にあるべき物体として色々なものを書き換えて順応を試みる、かなり高度な術法が使われたことを知るのは、ずっとずっと後のことである。


「オマエの考えた見た目と同じになるようにしたけど、これでいいの~?」


 どちらが上なのか下なのかわからないが村に一人変なものが増えた瞬間であった。

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