グレートフィフティオーガ じりつへいき L61
「ひとまず、これを外に出せれば好きにやっていいのよね?」
「助かります!」
薬屋の人のオーガの足元近くに寄りながら、騒音の合間を縫って会話する。
空気が読めてえらい!
と、いった、かからかったようなことを言うばあいでもなく。
本当に、感覚の近い真人間っぽい感性を持っている人がいると話が早い。
そして心強いし、休まる何かを感じる。
「いょし!」
瓦礫を乗り越え、フェルマータの合間の押し込みを共同作業の結果、やっとのことで壁の外に戦場を移せる!
壁そのものはこれから多少壊れても、もうそんなに変わるまい。
区画ごと完全に新規建設は変わらないだろう、これは。
「それでさリューオくん、さ」
「はいはい、大丈夫ですよ」
「…あいつまだいるんだけど、どうする?」
「……どういう意味で?」
理解しきれない、なんとなくの生返事。
壁の中にまだ足がついているとか、そういう?
「あー、低いから見えないか…壁の外、もうちょっと遠くみてほしいかな」
「…なんですかね……っ!!」
ああ、みちゃった。
見えちゃった。
まだいる、たしかに…。
足の間から見える範囲で三体。
「洒落にならない…」
「予想よりかなり分が悪いけど、ま、なんとかなるでしょ」
薬屋の子も言ってはいるが、ダメっぽいかなとはわかっている気がする。
「危ないのはだめですよ、奥は僕が好きにしますから、そいつは任せます」
「はいよー」
「フェルマータ、イジェクト!」
取りあえず一度フェルマータを回収する。
必要なら、すぐに出せるし。
オーガを操るのが癖になっているのか楽しくてやっているなら、邪魔はないほうが、たぶんいいだろう。
「まけないでくださいね!」
「もちろん!」
力強い一言を聞いて離れる。
なんのかんの、街を守るために一緒に戦ってくれているのだ。
あとで、本当に感謝が言いたい。
ケガなんかをしないでくれるといいが。
「さて…僕は僕で…」
奥にいたやつらに、向き合う。
どの程度ヤバいか、改めて確認していこう。
見渡すと、一人入ってきたものと、奥にいるのが4体。
空間変化を最初に試すが、どうにも働いていない。
あとでやり方を、老人に聞きたいもんだ。
死者に関して確認しますと言ってから黙ったままなので、落ちていた水晶玉はしまっているが。
そうなると、ディスクや、キューブにあらかじめ用意したもので戦うわけだが…。
力に任せて殴ったり、乗り込んだり出来るものは…ほとんどないな、たしか。
特殊ディスクに関しては、この間のロンドもそうだが、意図しないことをいくらでもしてくるので、できれば出したくはない。
あの時こそ、僕の状態を見たからからか守る対象をしっかり保護すると把握してくれていたが、このオーガだらけの見た目で一体これは守らないといけない、というのを、いきなり出して理解してくれるかが、とても怪しい。
街を守るのも理解せず反物質生成したら、その時点で終わりである。
信じてないとまでは言わないが、怖いことは避けるべきだ。
あとは、マリカさんの店にこれから行って、それっぽいものがあるか聞くのも…。
いや、今で来ていないということは、興味本位でここに来るより優先しないといけない実験でもあるか、もしくは。
もしくは、これないよう妨害があるか、くらいだ。
そんなこんな思いながら、対策を練るが、物理で真正面から行く自信がないからには確実性のない実験が主になる。
「ソッカータはない…フェルマータは今まだすぐ出せない…ロンドは出したくない…スタッカートで挑発するほか…何があるんだ?」
少し焦る。
そこに。
「ディスク、クエイバー!volフォルティシモ!コードプレイ!!」
「お付きの…魔族の人!?」
「どうも、三下風の顔の冴えない不能男、そして侯爵…こんな計画、私知りませんが?」
「泣かせようとしていますか?」
「ウノか、お前は魔王の警護以外に必要なかろうに」
「お眠りの時間にうるさくされては、こちらに関して妨害でしょう?何を企んでおいでなのですか侯爵」
「ま、退けとは言わん」
「いかな立場でありましょうと、あるじたるものが私の目から変わることは絶対ない、それだけは言っておきますよ、侯爵…あとでお話の機会を改めて求めさせていただきます」
魔王と一緒についてきたお付きの人。
いつの間にか後ろにいて、しかも、マリカさんに調査に出していたはずの自前だったディスクを発動。
あまりのことで、頭が追い付かない。
使い方も熟知しているようで、オーガの大きさに合わせたくらいのものを複数出現させて相手の頭数と合わせてくる。
…戦い方、この人のほうが多分、うまいな。
「一つ、言っておきますよ、あるじさまを食べようとした最低の間男の方」
「なんでしょう、一言ごとに僕の心に傷が出来ていくんですが」
「このクエイバーですが、見た通り簡素な、おそらく低めな能力のディスクです」
「村の片づけにも、ずっと使ってたやつなのは気づいていましたが…」
「しかも、そもそもあのフィフティオーガの出力テストなどに何度も使っていたものです…わかりますね?その軽そうでクソみたいな脳みそのルーチンでも」
「…こいつの製造にしっかり関わってたんですね…詳しいはずだなぁ」
「そんな些細な点に注目しないでください…知能が低いですね…力加減を見なくても、勝敗がわかるレベルだって言うことです」
「あ、なるほど」
普通に会話しているが、どうしてだろう…ずっと、心が痛いよマリカさん…。
あと、ニュアンスでわかる…そうか、勝てる見込みはないんだ…足止め程度なんだね…。
言っている間にも、次々に殴られて、抑え込まれかけている。
「あれに詳しいなら、逆に乗り込んで乗っ取ったり、味方に付けたりする機能はないんですか!?」
「私が関わっていて、そんなお手軽な穴なんて作るはずがないでしょう?勉学を志すなど考えたこともないのでしょうね、その低能ぶりは」
「…本当にいいすぎですよ…泣きますよ…」
「時間は作ってあげているという、私の立場からは今後絶対ないサービスなのです、有効に使って、打開して見せてくださいね」
「そ、それはどうも…」
いきなり出てどういったサービスの仕方なのか、どんな心変わりなのかさっぱりだ。
しかし、ディスクは確かにマリカさんのところにあったと思うので、そういうことなのではないだろうかと…推察はする。
とにもかくにも、戦力を把握するのと、打開策を考える時間は貰ったということなので、何かを出そうとは…思うが。
「まぁまぁ、当然であると納得すべきでしょうが、まったく…魔族というのはあてにならないことでして!」
その言葉に、それも遮られる。
嫌な声。
影武者の、あの声だ。
「初めまして裏切り者の方!」
「こちらもはじめまして、ちっぽけな下級の使い魔の方」
どこから聞こえるのか声の元を探れないが、それでも真っ向から魔王のお付きの方がバチバチな態度で反応している。
何が気に障ったのか…。
「あなた、内通としても侯爵ではなくアショク様と直接接触していたはずです!気に入りませんね!なぜ侯爵とも接触してオーガを渡されるまで厚遇されているのか!しかも私が手塩にかけて開発協力までしたフィフティをです!人間ごときに!」
なるほど、そういうことか。
「そういうことを大声で話すのは空気が読めていない三下ですね!私からすれば立場的に当然なんですから、やめてもらえますか!」
「首輪無しでいられるだけで感謝されるべきだというのに、人間ごときが!」
「どの口が!!」
仮にも皇女の直接の懐刀でもあったのだから、まあ、人間側から見るとそうなる。
双方から見た立場や見解が著しく違いすぎる。
「腹立たしい!!ええい!ドリルスプラッシャーパンチ!マーブルミサイル!」
「侯爵!!ずいぶんとご親切に能力まで教えましたね!」
一体、また一体砕けて消えるディスク、クエイバーの分体たち。
「状況は最低ですけど、本当に惚れ惚れする破壊力ですねフィフティ…」
「言ってる場合では…」
そこまで眺めて、やっと色々と思いだす。
そして、気が付く。
「乗ってますね…あの人」
「今気が付いたんですか?豆粒くらいの脳みそしかないからそんな注意力なんですよ」
「あの、なけなしのプライドが出血しているんでその辺で勘弁していただけると…いや、それより、あの人がそんなに自由にしているって、お嬢さ…ゴーカさんは?」
「おやおや、知りたいですか?」
ディスクを蹴散らして近寄ってくるオーガから声がする。
はっきりと。
「ゴーカさんはどうしたんですか!」
「あのお方は大切に保護していますよ?もう生きて誰とも会える日は来ませんが…ね?」
これ見よがしに、影武者の人はオーガの中から半身乗り出して右手を見せる。
仕草で、察した。
「まさかキューブに…封印したのか!!」
今週は多めに更新していきたいと思っています




