フィフティオーガ じりつへいき L50
終末遺跡。
そう呼ばれた、前文明の終末期に生まれたとされる建造物たち。
魔族の話では、その前提が違うように疑われる節もあるが、人間は、少なくともその前提で研究しているもの。
その遺物の一つであり、数こそ見つかれど、充填方法の確立されていないエネルギー切れか破損品しか基本見つからない、そんな物体。
それがキューブなのであるが。
「まぁ、あなたのお得意様以外でも、これについて詳しい方はいるのですよ…そして、扱える存在も、ね」
「僕の歪曲形成を、無効化していたわけですか」
「左様でございますな、リューオ様はさすが、ご理解が早い」
この声。
キューブと一緒に影武者の人が持っていた、水晶玉である。
そこから遠隔で話してくる、聞き覚えのある悪魔の声。
「ご老人がまた出てくるわけですか…こいつも配下なんですか?」
「まさかまさか。私は、対等な協力関係であると思っていますけど?」
「と、いうことでございますな」
面の皮が厚い。
数日前に敵にしたくないだの、思い入れがあるだの、ずいぶん好意的に出ていたじゃないか。
「下手したら、魔王を人質に取ったり、そうでなくても街の被害と一緒に巻き込まれたりするというのは考えないんですか?」
「リューオ様自ら、幼子にそんな卑怯で無慈悲なことをする可能性がありますでしょうか?」
「…ないねぇ、するわけはない」
「「…魔王?」」
影武者の人とお嬢様。
変なところで妙な二人の息が合う。
二人とも、魔王が馬車にうずくまったり街で遊んでぐっすり寝ていたりする現状をご存じないのか…。
どっちがどう利用を考えたりしても、後味悪くなるのが見えるので、今はそっちの説明は控えておくか。
「ま…魔族に対して痛そうな傷口みたいなものに、こっちも心当たりはあるということで」
「侯爵、あなたどっちの味方なんですか?」
「人間に恨みを持つものに対して協力するという、一貫した姿勢以外は私たちの視点を明かしていない、それだけですよリリカどの」
「油断のならないこと!」
影武者の方も、無条件に組織の一員として情報を共有している間柄ではないようで。
老人の、おちょくりながら、わざと言うべきところを隠しているような話ぶりに、露骨に悪感情を出していると喜ばせてペースを握られるのは、本当に避けるべきだと改めて思う。
他人との絡みを見ていると。
「で、あっちも被害が馬鹿にならないんで、そろそろこっちに話に来た理由を話してもらってから、あれを片づけてもらえませんかね?」
「ああ、そうですね」
少し気分を入れ替えたように、影武者の人がこっちに向き直る。
「とりあえず、この姿で壊せるだけ壊せばいい、簡単でしょう?」
「…姿で…それだけで魔族なんかと絡む必要ありますか…?」
「魔族と繋がって街を破壊し、悪魔の側に付いた皇女…そんな話が広がれば、そのままの地位ではいられないと思いませんか?」
「その顔でその、とんでもないこと言いだすの、いますぐ…やめてもらっていいですか…!」
「いま、気分任せに隠れて私の足を切断しようとなさいましたねぇ?それほど気に入りません?」
それを聞き、思ったより見過ごせないような視線でお嬢さんが僕を睨んでくる。
なんでだ。
「効かないのはわかっているから、ですかね」
「だったら、顔でも狙った方が、脅しにはなっていたのでは、ないでしょうか」
しったことか。
会話する気分にすらならないのをこうして付き合っているんだ。
「復権派を最大限に利用すれば、あっちの傀儡にできる分家の嫡子を継承権の最優先の順位に据えられるよう、すぐさま変えることが出来るかもしれません」
「反逆にしか見えないことを、影武者が堂々いうのか?」
「皇女「だった」人はそれを奪われ、殺すことはできず生涯幽閉…などということも、ありえるかもしれませんねぇ、リューオさん」
もはや会話すらままならないくらい苛立った手いるのを見て、明らかに楽しいんでいる。
最終的にどうしてくれようか。
「そうして、役割を終えた私も生涯、捨てられた皇女を監視する役目を貰ってあのお体を、昼も夜も味わい尽くせる…いえ、お世話できるといった、なんとも甘美でお得な関係が出来上がる…なんて、素敵な未来じゃないですか?」
「「…悪趣味な…!」」
僕とお嬢さんが同時に、ハモる。
「頼るものがなくなってすべてにやる気をなくしたあの方の顔を見ながら、道具のように使って我欲を吐き出すなんて、考えただけでたまりません!」
「わたくしめも、これだけ正直に痛快な趣味を暴露していただけると応援したい気持ちになってしまいましてね」
「お前が絶対焚き付けたろう!」
「そうでもないから面白いのでございますよ」
身もだえするような、自分の世界を満喫する影武者の人と、楽しそうに眺める老人。
これに絶望しないやつがいようか。
「楽しそうな妄想は語り終わりましたか?この後は、楽しみが丸ごと終わるまでの時間ですよ」
とりあえずわかったのは、容赦の必要がないことだ。
いっさい、言い分があってやらないといけない苦悩や何やなど、あったものではない。
まぁ、いっそ気に病むことがなくて心地いいくらいだが。
それだけ思い、軽くマリカさんにも調子を見てもらった光の棒を作るアイテムに力を込める。
汎用の可変ガジェットじゃないかなぁ、くらいに軽く言われたが、持ち主に明確なイメージがあれば攻撃的なものにも、作業用の農具的なものも自在に形が作れるようであった。
今、作るのはもちろん、剣。
「体術に自信があるなら言ってください、こっちは遠慮なくやらせてもらいます」
「あら怖い。ですけど、いきなり切りつけない甘さの時点で、本気は出せないのではないですか?」
「ぜんぜん」
たしかに、皇女の顔の見た目で痛がったりしたものを、死ぬまで切り刻むのは想像したくないし、遠慮するかもしれない。
だが、確実に敵である。
遠慮などできない。
本物の皇女に責任を擦り付けて地の底に落とそうとするやつなんだ。
躊躇えない。
「…だとしたら、わたくしが、相手をしてあげればいいのです」
「え…お嬢さん…?」
「…もう、いいかげん名前覚えてください!ゴーカです!いいですね!本当に嫌いになっても知りませんわよ?」
「あ、いえ…はい」
「ゴーカ……?皇女の昔話で話していた、あの本物の御幼名……?」
「あなた、確実に死にましたから、しっかり後悔のないように歯向かってくださいませねぇ」
お嬢さん。
いや、ゴーカさんが、どうしてなのか勢いよく相手を買って出る。
今の話に腹に据えかねただけなのかなんなのか、僕からはわからないが…。
そのまま、またあの呪文を聞くことになる。
双眸を開け
主の未来を拓くその視線を
そして照らせ
御先にあるべき我が道を
曇りなき覇王の道を
その眼差しで輝き拓け
『ゲイズ!オブ!ロードス!!』
「な!?」
「ここで、堂々と見せるとは強いですなあ」
「この圧倒的なオーラ、伝説とたがわぬ恐るべき姿…本物…間違いなく本物…!」
そういえば聞いた名前だとは思った。
それの名前って…皇女がずいぶん神聖なものとして言ってた…。
影武者の人が、あまりに表情を豹変させて目を見開いたので、さすがにこれは思い出す。
と、言うことはつまり…え?
「まさか…まさか!こんな幸運が、こんな場所で私に与えられるとは!」
「何物も、これを見たからには逃れられませんわよ!敵として定められた瞬間から!!」
遠く飛びのく影武者さんと、追いすがり切りつけていくゴーカさん。
「欲しいです!それを手に入れられれば、私はただ一つ欲しかったものを誰かに頼って手に入れなくても、あらゆるものを自分の力で手に入れられる!すべてを手に入れる象徴をこの手にできる!」
「わたくしが、特に魅力がないと捨てていったものを、どうやらあなたは何でも欲しがっているようですわね…これを知っているだけでもよほどですが、その欲は、即ち万死に値する罪ですわよ?」
「そうかもしれません…ですが、あなた様をどうやってでも、それを私は手に入れる!!」
月夜に交錯する光と炎。
影武者の人が魔法でいくつも攻撃をふるうも、全く意に介さずゴーカさんは、纏った光で打ち消し、掃う剣で振り落とし、間合いを近付けるために飛びよる。
疲れ果てるまで一晩逃げ回られるほどのことがなければ、勝負はまず、番狂わせなどおこらないだろう。
つまり、老人の話を聞きつつ、あとはオーガをなんとか…。
「ご老人、オーガそんなにいっぱい作る意味、本当にあったんですか」
「それは、もう、仮想敵の力を見ればまだ全然足りないと思わざるを得ませんので」
「遺跡の力を持つ、なんかだっけ…それはいいとしても、あれは壊すからね」
「いやいや、村の時とは違い、フィフティオーガは手こずりますよリューオ様でも」
「…なんか違うんだ…」
「村のあの方が使っているサーティと、さらにパワーを上げた高性能型があのフィフティオーガ。計画としてはさらにセブンティ、ハンドレットという最高性能もございますねえ」
「…いいかげんにしといて…」
楽しそうにするんじゃない。
そっちの目的からすると、役に立たない破壊だけの兵器じゃないか。
まだまだ作る気マンマンなの、どうなのよと。
しかもあれオークそれだけ多く使ってるということなんでしょう?
材料を提供したような形の僕らが言うのもなんですけどね。
「うわぁ!壁が!おい!なんだあれ!」
「えっ」
しまった。
もみ合っているオーガを見ながら老人と話している最中だったが、一気に血の気が引いた。
さすがにあの音だ。
外出禁止と言えど、これだけだと兵士が巡回して押さえつけても、人はそのうち来るか。
つまり。
影武者の人の計画通りになりつつあり、皇女を主犯にする既成事実作りの段階が進んでしまっているということでもある。
どうすると、いいものなのか…。
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