スピランテ アイテム L**
ドゴン、という、街中に響き渡る爆音。
震える地面と建物。部屋の家具たち。
ほら来た!
心の壁が壊れたからその辺の壁もついでに壊れたんだろ。
とかネタ言ってる場合じゃないんだよ。
「な、なんでしょう…」
「相当大きなものが壊れたような、そんな音でしたね」
「建物の建築で事故でも起きたのなら…夜でも誰か呼ばなくては…」
そういう真面目さが人の尊敬を集めてるんですよ皇女。
「そんなレベルじゃないと思います…予測はあるんですが…あまり言いたくない酷いのが」
「…こんな時じゃなくていいのに…」
「まったくです。皇女はちょっと落ち着いて安全そうなら、マリカさんの店に行ってアイーダさんを呼べるように取り計らってから、あの建物に戻ってください」
「…いじわる」
「何か言いました?」
「いえ!リューオさんは切り替えが早くて冷静ですばらしい方ですわね!」
めっちゃ皮肉を言われた気が。
「さすがコウが好きになった方ですわ」
「…どうも」
そして、お互い真っ赤になる。
数分たつくらいなのか、時間の覚えもすでにないが、暗いところで皇女が頬や首にじゃれあいを諸々してた程度なはずなのだが、十分照れ臭い。
「それと、一応言いますと…アイーダは近くの酒場に居るのがわかっておりますので、すぐに会えます」
「…お酒飲むんですね、あの方…」
意外だなあ。
「それと…リューオさん」
「なんでしょうか…」
「全部おいてきて、それでも私を貰ってくれるか私なりの賭けをしてたつもりですが、これだけは…持ってきたんです」
それを言われると辛い…。
念のためとはいえ、ここに一人で隠すわけにもいかず、この壊れた何かに乗じて村のみんなすらおいて逃げるという選択も取れず、とりあえず元に戻れと、あの空気を味わった後に言ってるわけで。
好きなんですよ?
雲の上のお姫様と恋仲になれたら最高だよなと、ずっと思ってたりもしましたし。
しかし、この状況に、なんとなく思い当たることがあるんです。
本当にすみません、皇女。
「宝物…これ、持っていてください、リューオさん」
「僕に?」
手渡されたのは、ネックレス。
ずいぶんと古い…間違っても安そうなとは言えないが、欠けた個所もあるネックレスだ。
「寄宿舎の話、しましたね?」
「聞きましたね、お昼」
「あの、彼女が持っていたものなのです…この半分」
「そんな思い出がある物なら、僕が持っているべきじゃ…」
「コウでは、もう、あの方に会うことはできないだろう、とは、わかっていたのです。だから…」
「…お預かりします」
思い出ごと共有したいとか、別の人に探してほしいとか、持っていることで縛り付けられる辛さがあるのかもしれないとか。
いろいろなものが詰まっているのだろう。
そして、そこまでの内面まで、見せたり托したりできると思ってくれても、いるのだろう。
そう思っていよう。
「では、少しだけ失礼します。今度はきっと…」
「…待ちます…待っています」
飛び出す瞬間も、信頼してくれる優しい声だった。
そういうことで、飛び出し、真っ先に想定する音の出所に走る。
「ですよね」
街の外壁。
一部が崩落して見事に壊れている。
穴とかいうレベルじゃない。
かなり出来にむらがあり、別の遺跡から持ってきて上等な部分や、無理に積んで後から隠すように固めていった箇所が混在するのである、この壁。
何で知っているかというと、作った本人だからだ。
しっかりした設計士が入ったのは結構後なので、もろいところはもろい。
それを思い出して、見た目派手に壊れそうなところを下見した僕の計画でも、使うべきだと思っていたところの一つ。
まぁ見事に、そこを思うままにやってくれたものである。
つまりは…。
「こっちの予定も考えて欲しいもんだね、話し合いの意味もないじゃないか」
魔族ども。
そして、かなり詳しい内通者がいることも、疑うべくもない状態。
夜とはいえ、野次馬が集まることもなく舞台が用意されているようなのを見るに、それらを追い払うような指示を警備の兵隊にできるのが魔族に通じていると見てもいい。
それは果たして、この破壊した存在と同じなのかどうか。
確認したいところだが。
思いながら崩れた壁にさらに近づく。
崩したとたんに、崩落に巻き込まれて自滅してたら楽でいいなと思うが、さすがにそこまでユーモアがある奴らではないだろう。
「これ、まさかあのゾンビ兵器…オーガ配ってるのか、あの老人」
明かりがない壁の崩れた場所に見える巨大な影。
おそらくだが、あの無駄に固めまくった金属鎧はサーティオーガと呼ばれたそれだろう。
さらに大きい気もするが。
「もう十分だろう、これだけで」
再建を人的資源優先で対処するのに、ここを指摘しながら他の改修必要な個所を提案すれば、一か月程度はそれだけでかかるだろう。
壊したほうが早い場所に、これらのごみの撤去だけでも相当な手間である。
僕が全力で手伝わない限り。
「人は中に入ってますか?答えがないと、そのまま瓦礫の仲間に入りますよ?」
言葉で警告はするが、時間の猶予はなく壊しにかかる。
キューブ0領域を起動。
相手の足などの範囲に、空間の固定、歪曲、移動を適当に領域振り分け。
のち全体を再固定。
これにより、空間は元と違う位置からいきなり部分的に動いたような矛盾となる。
この矛盾は、世界の中でずっと残らず、すぐ修復される。
動いた部分は移動したまま処理され空間が穴や隙間がなければ通行不能などといった最低限の矛盾がない形として修復される。
移動したところは空間ごと矛盾がないものとして移動したまま固定し、修復されたことにされてしまう。
これにより元からある空間にあった物質は矛盾を持ったまま修復が終わった扱いとなり残される。
物質が移動した空間にまたがるように存在していて移動されたのなら、切れたり割れたり曲がったりした状態が正しい世界として固定されるのだ。
こういったものを利用して、僕は相手を壊していく。
移動に使ったサーティオーガで、人が入っている場所のおおよそは理解したつもりなので、手足や頭を一気に。
「さて、ここの修復作業の邪魔ですから、後は移動しながら壊しま…」
言い終わる前に。
相手の、手が振り下ろされた。
攻撃されている。
「切れているはず!?」
空間の防護壁で相手を曲げながら、自分に当たらないように避ける。
それはうまくいくが、しかし、よけた位置にも多少違和感を感じる。
「リューオでしたかしら、勇者さんはさほどお強くないのでしょうかね?」
オーガから声がする。
やはり誰か乗っているのか。
再度の攻撃をよけながら、光源になる光の魔法が弱くかかったナイフをオーガの操縦席と疑うあたりに投げる。
同時に空間湾曲も狭い範囲でかけてみるが、やはり、動いていない。
キューブが動作していても、投げた光が揺らがないなら間違いようがない。
「僕のやることを理解しているあいては、初めてですね、感心します」
「しないはずはないでしょうねえ!そうでなくとも、私のほうが強いはずですが!」
いくつか投げたナイフの光で、オーガの頭が何となく見えた。
頭の上に乗っている人影があった。
マント、メガネ、細めの体型と長い髪。
「…皇女?」
さっき見たものに近い何か。
それに、僕には見えた。
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