じょうきゅうしょく? だいうらないし
街にたどり着くなり、人の役に立つべきと一行から即時抜けていた占い師、イウナ。
通りに座り、ちょっとしたテーブル一つ置いて、彼女は人を待つことにした。
「…顔色悪いのですね、そこの方…占いを勧めるのです…」
「あぁ?俺はもうすぐ死ぬんだ、お前が何を言うかで何も変わらねえし…何ができるってんだ」
「…占いましょう…変わらなくても、せめて、変わる未来があるか否かを…」
この物語は、リューオが何やら仕込んでいる間に、何気なく運命を変えられた存在達の物語である。
「…なるほど…凶兆は西よりあり…得難く替え難し…」
「何も変わらないんだろ?じゃあな」
「…いえ、待たれなさい…」
イウナは、去ろうとした男に声をかけると、カードを一つ、引いて見せる。
「これが来たということは…」
「なんだそれ」
「重武装 カエノキク・カエル、と読みます…」
「…いやだから、なんなんだよ…見たほうが意味わかんねぇよ…何が起きたんだよ」
「攻めか守りか選べる運命があったと、わたくしは見えました」
「なんだ?死なない道があるって言うのか」
「あなた次第…選ぶのであれば…」
街に行く、あの選抜戦の時に使われた、バトルカードの一枚。
見知ったような、カエルの絵の札を手に、彼女はうっすら微笑んだ。
男は、占いを一応信じて、街の門を一度出て最初の三叉路の木を掘った。
一度掘った後があるので、それほど迷いもなく。
「なんだ…えらく…綺麗な石が…」
知ってる人は知っている。
マッドメガトードの卵である。
一行が…というか、ムカが、街に付く前にいくつか、飛び散って馬車やサーティオーガの体に付いた卵をとって、埋めたのだ。
街にあっさり入れたら大変、でも毒欲しいという気持ちを込めて捨てずに隠したつもりでもあるが、他の子は知らない。
それと、未成熟すぎて親指程度の大きさの卵は、それ自体に詳しくなければ石にしか見えない。
触っても叩いても、水にずっと浸けなければ硬いのだ。
男はこれ幸いと、買収に使えるだろうとそれを、とある人間に渡す。
男が殺されると言っていた、その組織の使いにあたる人間だ。
小袋に見たことのない二桁あるだろう宝石。
少しだけ、その人間も心が動き、組織に持ち帰ってしまった。
そうすると間抜けなことに、なぜかその組織、それが有用な毒物だとは知らずに山分けし、素手で触ったことで全員死亡した…。
毒に関してなぜ詳しくなかったのか…いや、取得難易度が伝説級の物体なのでそれも酷だが、知識に漏れがあったのは、その道のものの中では死に値したのかも、知れない。
翌々日。
義手であったことで死を逃れた、占いを信じた男は、度重なる組織での失敗すら、事実も知るものがすべて死に絶えたため死ぬ理由が消滅。
その組織…とある貴族によって作られた暗殺組織で潜伏任務中のもの以外唯一の生き残りとして、リーダーの座に就いたという。
なお、その組織は、この機会に皇女暗殺も計画していたようで、この大量死のために準備もできなくなり計画がなくなった、ということを知るものは少ない。
イウナは、それを見つけてもってきたら自決の道もあるよと勧めるつもりだったようだが。
―そんなイウナ。
男が走り去った後、通りの傍らでいきなり開いた占いの商売の食いつきが悪いことに、悲しみを感じていたが、困っている感じの女性を発見。
「…おこまりでしたら…占いは必要ないでしょうか…」
「それどころじゃないんです!お嬢様が熱を…どうしたらいいのかわからなくて…」
「…街ですし、治療院などはございませんですか?」
「皇女様がいらっしゃるということで、警備や軍所属のお医者さま、薬屋さんが当日以降の動きを円滑にするため集められているのです」
「個人の薬屋さんなどは…おられるのでは…」
「魔族たちの領地に攻め込むためにできた経緯がありますので、今、街の主要で希少な職は軍の所属となることでしか商売の許可が下りないというお触れとなっていまして…それで」
「…職業の方が軒並み持っていかれているのですか…それは大問題ですね…」
都会のいびつさを感じるイウナ。
いってさほど都会ではないのだが、ここも。
「…ですが心配です…占いということで、この木の実と、この薬を持って、お子さんのいる部屋に置いておくといいのです…」
早くも占いでもなんでもないが、まぁ、人助けの許容範囲。
今度は何かと言われると、リューオがバラバラになった事件の時に増殖した植物たち。
あの時に実り、ポケットや馬車にいつの間にか入っていた木の実など。
そして、その後にムカがみんなに配った、解毒剤として色々混ぜたものの余りである。
害があってもいけないので、木の実は飾り用で、薬は飲むのではなく、部屋の空気を換える用途ですと断りを入れた。
「色々頂いてすみません…ですが御代はどのくらい…」
「…お金は…この、二枚のカードどちらかを引いて無地のものを引いたら支払っていただくのです…さあ、先にひくのです…」
お金がありそうな感じはしない、そして早くお子さんのところに帰るほうがいい。
そう思うイウナ、目の前の台に伏せたカードを二枚並べた。
これは、タロットっぽいなにかであるが、イウナのよく使う、トリックカードである。
魔法ですらない。
無地のカードに、ちょっと押して圧力をかけると色がちょっとの間浮き出して見える樹液が塗られている。
ちょっとずるいが、カードの真ん中押さえて下から足で少し圧力かける程度で、うっすら色がついてマークが出るのだ。
当然…。
「こっちに紋章がついているのです…占いの結果なので、お金は取れないです…ではまた、どうぞ…」
「あ、ありがとうございます…」
ちなみに、結構幼かったようで、木の実は即時お子さんが食べてしまい、あの有り余るポッドのパワーの残りで、当然お子さんは過剰に回復。
いきなりいくつか言葉を覚えてしゃべりだしたのだという。
占いというより、何もかもを抜きにしてヤバい何か。
むしろ、これが何の要因で起きたのかを知るために占いが欲しいと言われそうな…。
結局、呼び止めずに来てくれた人はおらず。
困り顔の数人を、同じようにトリックカードを使って無料にしたうえで占うという、もはや慈善事業。
何かしらの役に立つなら、とりあえずはいいという適度な欲のなさのおかげでストレスはなく、初日を終えることに。
―その日の夜。
いろいろあって、皆さんで泊まることになった滞在用の宿。
「…そちらはそちらで、大変ですね…」
「イウナ、よく食べ物買う程度でも、お金持ってたわね」
「最初に占った方が、どうせ死ぬからと、適当に袋を投げて去っていったので、そこに助けられましたね…人は助け合い…なのです」
「それ以外にも、まとまって動いてた私たちより、すごいたくさんの街の話をしっていて、すごいです」
「病人の話に関しては、ちょっと酷い気がするねぇ…イウナ、目立つところに行くなら、少し人助けもしておく?」
考えなしに言うべきではないとは、まさにこのこと。
いや、考えた時点で詰みというべきものなのかもしれないが。
ある程度、食べ物のついでに持ってきていた薬の材料。
追加するのに買うべき薬の材料。
そしてそれと別に、作る時間。
そう、言い出したからには、作らないといけない。
長時間の加熱が要らないものを選んだとしてもだ。
ムカ、こうして徹夜確定。
明日のバイトも、休まないで頑張ってね。
そんな、小さな事件も発生しつつ。
―翌日。
「占い師さん、昨日は本当にありがとうございました」
「…お顔を見ると、困りごとがなくなったようなのです、よかったのです」
「せめてもと思って、お屋敷の中で聞いた悩み事などを色々紙に書き留めて、お金を集めてきたんですよ」
「…お金が先というのは、少々よくないのではと…思うのです…」
どうにも、詳しく聞くと、どこぞのお屋敷に住む召使、というか、乳母のような仕事の方だったらしい。
並べた紙は、健康のことだったり、いつか失くした落とし物だったり、体調をよくする食べ物の相談だったり…色々。
どうやって集めてきたのか、文字も様々。
「それで、こちらが御代です」
どさり。
何か、理解力を少し超越した、重量感のある袋が置かれる。
「ご主人の機嫌がよくてよくて、お嬢さんの体調に関する感謝と皆さん相談料まとめてこれを持っていくように言われました。ぜひご遠慮なく」
「…そんな話で出てくる音には、聞こえなかったのです…」
隠せるはずもない程度に、引くイウナ。
ただ、すべて断るのもできず、多少は規模を縮小するよう言いながらお仕事開始。
お手頃な大きさの水晶玉、カード、風水、などなど。
自ら宣伝するだけある、多くの手段と、目の前にいる実績という成功例。
占いそのものも、決してでまかせでなく、まぁ、それっぽく納得できそうな言い回しはできる。
精度はそれなりだが、それなりで優秀な的中率。
むしろ、イウナの本領は、解決している気にさせる空気作りなのかもしれない。
これに加えて、気分的な不調や、ちょっとしたケガに対応出る、ムカ印のアロマ的嗅ぐ薬品、塗る薬品を適宜に配布。
さらにいうと、ゴーカたちが労働する羽目になったスイーツショップへの誘導と割引も完備。
少しづつ、噂になる兆候を見せ…。
宝探しの場所あて、人を振り向かせる手段など、色々と無茶なものが集まってきたりもするのだが。
持ってこられたものが謎解きレベルのものなので即解決したり、ほぼ催眠術のような怪しげな勇気づけをしたり。
カードで無料になることもあるという、手軽さを見せつけたような罠も手伝って、夜半まで営業する程度に。
「…薬、無くなってしまったのですが…」
「つまりは、や、役には立ってるのよね?」
「…その場でケガが楽になったと、何人も感謝していただけましたのです…」
「…なら…困っている人もいたのが実証されてしまった…やらねば…」
「あの、ムカちゃん、混ぜたりするのは手伝うよ?」
「じゃあ…少しだけね」
ムカ、よくわからない義務感で二徹確定。
今度は作成に、ムカとステラが参加。
いまのところ、いきなり怪しい量のお金が飛び出して空気が変わるのも問題がありそうと、そこは占いに頼らず、みんなには見せていない。
薬の材料がもうない、お金もない、といった流れになれば、すぐ差し出すつもりではあるが。
―そして、さらに次の日…。
怪我が治った人、お屋敷の悩みが解決した人、さらに、最初の死ぬアピールの人。
みんながなぜか、ふらふらと自然に集合。
経験談や凄さを語り、周囲を勧誘し、果ては万能の救世主をこの目で見たのかと金すらばらまく謎のハイテンション。
これは、もはや宗教である。
ムカの嗅ぐ薬が忘れられず、早くも中毒になったようなお客も増えていき、興味がなくても見ないわけにはいかない騒ぎにまでなっていった。
もはや通りでは、これを続けられると警備の人に目を付けられるレベルとなり、昨日まで暗殺ギルド本部だった謎の場所で繰り広げられる、怪しい香りの宴と悩みを忘れさせる演説。
ぶっちゃけ、どう見たってカルト系の宗教である。
隙間を縫ったような、ケガや病気、メンタル治療需要と、それを確実に回復させる謎の薬たち。
実績が余さず増え、その噂で集まるのも追加されて行っているのだから、止まらない。
止まらない。
「…ムカ…大変申し訳ないのです…が」
「もう薬の材料、あんまり…え゛!?なにこれ!!?」
「…知らずに誰かが献金を受け付けて、今、この倍以上があって困っているのです…目立った材料も裏ルートとか言って、すぐに持ってこられて…困った人もたくさん集まってしまい、止まらないのです…」
「…い、いいでしょう…役に立つって言うのなら、もう、とことんやるよ」
スイーツから何とか解放された一行だったが、すでに大事になって止まらない謎の組織の中枢に組み込まれたのを知る。
そして、その組織の薬作成集団として、分担作業で量産計画を始動。
脱法どころか、人間世界では普通に邪悪に分類される物品もあったが、取り寄せなどは伝手でたやすい。
徹夜五日目でムカがぶっ倒れる寸前に、一部信徒にも、この分担作業の手順は伝えられる。
精神安定剤なのか、高揚剤なのか、怪しい薬品たちと、それに頼り切ってイウナを崇め、すがるものたち。
こうして、この街において、イウナは、数日限りとは言えど地の底の神となったのである…。
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