ジャハン=イダイナエーヨ ジェネラル L34
「10日以上、ですぞ」
「…本当に、弁解しようもないです」
街の駐留軍指令室。
いろいろ、大変なことはあったし仕事もしていたはず。
急に召喚されたり、かなりなんともできないトラブルこなしたんですよ。
とはいっても、そりゃここの街の人には通じない。
関係ないんだから。
一応、様子を見てから、仕事も別にやっているふりをしながらマウントをとる計画も頭にはあったのだが…。
街の入り口で立ち入りのチェックをする際、相変わらず僕が数人の名前を覚えておらず…。
「ほんっとうに!嫌いです!」
正論の平手で侵入前に顔もバレ。
自室や外を内緒で出入りして仕事しているふりは、できなくなった。
そのまま、僕は連行されるかのように軍のほうに移動。
我先にと、僕の所在を知らせたり案内しようとしたり、考える暇も与えてくれない状態だった。
「私としてもだ、丸投げに近いその状態で出来る限りはしたつもりだ」
「さすが名将であると敬服いたしますな」
「不明な点等があるときに、リューオ、君がいないその不手際をものともせずなぁ」
言わせておこう。
こっちのやらかしがあるのは事実だ。
「どうせなら、まとめて吐き出していただいても大丈夫です。聞きましょう、その躓いていた箇所」
「だいたいは我々の配下で、もう何とかしておるよ」
「素晴らしい軍であります」
何もなかったよ、という本末転倒な話でないだけよかった。
「一応、まぁ、この数の行軍を賄える兵糧の調達だけで月単位かかるだろうとは思ってましたから資金繰りはわたしの関わるところではないと安心しておりましたが」
心ばかりの反撃。
「君の計画そのままでは、余力とトラブル予測を考えすぎなのでなぁ」
それはわかる。
言われるのも。
「資材に関しては、あれは無駄で一蹴されるものと、今後は考えておいたほうがよろしいですな」
「覚えておきます」
あれ。
延々と数時間くらい文句言われるのは覚悟していたんだが、アドバイスしてくれる?
「ずいぶん、機嫌がいいですねジャハンさん」
「わかるか」
おやおや。
こんな上機嫌なの、本当に数か月たびたび顔あわせていたのに珍しい。
「リューオ、君のおかげもあるからな…運がよかったのだよ、お互いに、な」
「ジャハンさんにとっても運が良いというのは…ご結婚でも決まりましたか?」
「そうなる一手ではあるかもしれんなぁ!ここにまさか皇女が、わたくしごときの働きを見に視察に来られるとは、相当なことだからな!」
ガハハハと、まさに絶好調な笑いを見せる軍の方。
「え…本当なんですか」
「もう王都は発たれているようで、明後日あたりにはご到着なされるのではなかろうかな」
「訓練の成果が見せられると、みんなも張り切っているのでしょうね」
「むろん、吾輩もな!」
侵攻計画に関して変更点や疑問点を挙げられる暇すらない。
これ、実は、資材調達しかしていない?
計画に関しての詰めとか、日程に合わせた各所への指示とか、完全にしていない?
いや、まさかな…。
「式典のようなことも、考えているのですか?」
「おお、もう、決まったときからすべてのものを動員して出迎えと行進の人数割り当てなどは完璧にできておるよ」
いつ決まったか知らないが、だめだ。
つまるところ、その前に何かしていたとしても、丸々そっちに食われたな。これ。
お祭りしか考えていない空気になっているっぽい。
ま、侵攻に関しては、秒単位を争うような急務ではないのだし、構わないと言えば構わない。
「…それでは、皇女がお帰りになられるまでは、私も警備に加わっておとなしくしていた方がいいですね」
「そうするのか。まぁ、任せる」
「街中の配置云々など、細かい小隊中隊の動きは元々専門外ですからねぇ、お働きが実をむすびますよう、私もかげながら応援しております」
「まかせておけ」
高笑いをして、もう前後を忘れたような姿を見ながら、とりあえず本部を後にする。
…その途中の廊下。
「リューオさま!」
いきなり手を引かれ、そのまま抱き着かれた。
「え!?」
「心配いたしました!話の次第は伺いましたが、よくご無事で!私は…わたしは!」
アイーダさんだ。
「あの、普通にみんなが通るところですから…」
「!…失礼。そのお姿だけで、私、たまらなくなってしまって…」
言われてみれば、急に消えてそのまま行方不明。
たぶん転移した理由がどう、という説明をアイーダさんくらいには、マリカさんがしたはず…だと思うが。
「てっきり私、急なことで…その、みだらな行為がお嫌いなリューオさまが着の身着のままで誰もいないところに逃げておしまいになったりしたのかと、そんなことを考えて…数日、生きているべきか悩んでおりまして…」
「それはないですから全力で生きてください」
僕の存在というか、僕の外からの見た目はどうなっているのだろうか。
たびたび思うが、顔を合わせたり僕を見た人が、こぞって似ても似つかない人物像で話を盛るような傾向がある問題について、僕も訴えを起こすべきではないかという気がして最近仕方ありません。
アイーダさんもそう。
村の、何か縛られて踏まれて「これが好みなんだろう?」と言われたりするのもそう。
この街の兵隊たちに至っては、もはや際限がない。
「それはそうとして、皇女がこちらに参られるそうで…」
「ああ、そうですね」
少し、アイーダさんがため息をつく。
「あれは…私を叱りに来るのです」
「……つながりが…読めないんですが…」
そこから先は、少し人目を避ける場所で、小声になって話し出す。
「つまり、無断でリューオ様の裸を触ったり、あわよくばその先まで進もうとしたり、さらに見えないところに逃げてしまったり、皇女から見て、私はかなり失望されかねない行動をしております」
皇女からは、だけで済むことかどうか、断言しないほうがいいかな。
そう列挙するとなかなかよろしくない大人だ。
「なので、直々にリューオ様を探したいのと、私に報いたる何かを与えたい…と、言うことで、すぐさま皇女のご来訪が決まったのです」
うわぁ。そういわれると大事っぽい。
それ以上に、何に入れ込んでそんな急に動くのか、少し怖い。
「なにか…危険なんでしたら、僕…少しは助言しますが…」
「い、いえいえ。私に傷がついたりする、そういう話ではないですので、リューオ様がご心配されることは一切、無いのですよ…ただ」
「ただ?」
「…リューオ様…少し女の匂いが…しますね…近寄るものがいるなら誰であろうと全て教えてくださいませ…残らず斬りますわ」
顔を近づけて、まぎれもない殺戮者のような殺気漂う目をぶつけられるその瞬間、僕は一刻も早く逃げるべきではないかと感じた。
危険である。
そしてそれとは別に、最高にまずいタイミングを持ってきてしまったことに戸惑いも感じていた。
それは、村を出たあとに急いでいた理由。
もちろん、街をあけている間に街がどうなっているか気になっていたのもある。
計画の放置で僕の評判が地まで落ちていないかを気にしたのもある。
それ以上のこと。
実は僕は、あの老人との実質的な会談によって、とある話を承諾している。
軍の侵攻を、一か月は遅らせてくれ。
そのアレだ。
そのための手段を考え、なるべく被害がないように、動きを止める話として僕は受けた。
つまるところ、それは。
人的被害をなるべく減らし、僕が街を壊して復興期間を作る計画である。
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