ウノ=ウセコイ まほうけんし L44
「お伺いした配下からの、大変急な頼みを聞き入れてくださったようで、心から感謝を、まずは申し上げます」
ものすごく一人の女性の機嫌を損ねたのと、今日は一人で休みたいと嘘をついたのもあり、いつもの僕のための部屋に村の子はいない。
「ずいぶん顔を合わせるの、早かったなぁ、あんたと」
「わたくしめも、姿を偽ってその村の存在らしく少女になるとよろしかったでしょうかな?」
「やめとけ気持ち悪い」
部屋の真ん中には、水晶玉。
そこから顔をのぞかせる老人の顔。
はしっこには、胸あたりに剣を構えた、あのフルフェイスの鎧の悪魔。
夜に時間を取れと言っていたのは、そういうことだったようだ。
出来れば、この老人が密談をしたいと。
その機会を作るのも、村に侵入した役割の一つだったわけか。
「村とは関係ない、よほどの要件がそっちにあるわけかな?」
「お話がわかる方と会話するのは、非常に時間の節約になってありがたい。全くもって、その通りでございます」
「勿体付けないでくれ?何度も顔を合わせていい間柄じゃないんだぞ、親戚じゃあるまいし」
「なるほどなるほど、それでは手短に」
ずっと演技じみたこいつの本音みたいなものが見えるのか、または、それがあるのか。
応じて見せたのは、それを知れる可能性と、もう一つ、あることを聞くためだ。
如何によっては、今の僕なら、直接聞いて即首を取りに行ってもいい。
そこまでの、自分の覚悟をきめるための会話だ。
伝わっているといいが。
本音が少しでも聞けるようにするために。
「少々、人間の攻めてくる時間を遅らせられませんでしょうか、一月ほど」
「ぶっこんでくるな」
核心にもほどがある。
殺すための周到な準備の時間をくれと頼みに来るのか、この老人は。
待ったらその間に別のところに攻め込んでみますだの、好きにできる時間が出来るだけの裏切りじゃないか。
「明確に、こっちに付けという方がまだ耳障りがいい言葉だな、それはさ…」
「無理は承知でございます、ですが、間違いがないように申しますと、どの時間であっても我々が負ける可能性はないので、少しだけ理解度の底上げをしてみませんか?」
「譲歩を迫ったり自慢したり忙しいな!」
「情報は戦力でございますよ、リューオ様…あの駐留軍にあなた様の倒したサーティオーガを傷つけられるものがおりません」
「あのカタマリ…か?」
あれのことと言われると、おかあさんのチームふたりが倒せたのが不思議なくらい硬かったし、あの可哀そうな悪魔も驚いていた。
空間切断も大規模魔法もなしで倒せるのか、と言われたら確かに…兵士の人数で押せるタイプではないのかもしれない。
と、同時に。
疑問がそういえば、まだある。
その、サーティオーガって、本当にそれの本名でいいのか?
「…綺麗に完勝したものを、なんだそれ、という顔をしておりますな。こちらとしては心外ですが、伝えましょう。あれは終末遺跡の一部を骨にして、オークどもや野生のものの防腐処理した筋繊維などを動力として組み込んだ、兵器です」
「人間の心無いのかお前ら」
「悪魔ですので、ご理解を」
完全に死体利用の再生ループか。
怪物が無限に生まれて湧いて出てくるより畜生の度合いが高かったな。
「おそらく勘違いを人間の方々が皆、なさっているのだと思いますが、あの下級生物どもは、わたくしたちどもにとっても仲間ではなく、迷惑な増え続けるケダモノなのですよ」
「うん、割と普通に、初めて聞いたな」
「ですが我々にも故郷というものの概念はありますからな。あるものと思って保全を、まではいかずとも、自然の戯れと思って共存はしてもよかろうと、その程度でして」
「それが好き勝手に、他の国に広がって被害出しているのが根本だろうが…」
「あるとは思いますが、理由の一つにして旧王国の土地と資源が近くで余っているから奪い取ることにすべて利用してやろう。それだけだとわたくしめは、思っておりますよ」
思考のずれに関しての話題を本当にやっている感じがする。
根本的にこれが通じない、ここからは譲れない、という点を見つけられるだろうか。
「人間の欲に際限がない、それはあの街の変遷だけで、リューオ様もわかってきておられるのでは?」
「その方向で引っ張りこもうとしても無駄だ、僕にだって欲はあるし、どうしても失えない関係もある」
「残念ですな」
「それに、ゾンビ兵器のそれにしたって、ぼくは楽に勝てるのは見てたろうに…進行すべて止められる自慢みたいに言ったってただの見栄だぞ」
「転移陣はこちらのほうが進んでおりますし、リューオ様が隊列の端の端まで行く間に少し削って指揮中枢か食糧庫もあわよくば、と…すれば詰みですな」
「それが勝ち筋だとしても、今言ったら意味がありそうにないが…?」
「ですが、それをリューオ様が疲れて寝る時間もないだけ繰り返せば、知っていても返す手はない…先の先を読むべきですなリューオ様」
「転移も無限に使える魔力があるか、それだけでだいぶブラフかどうかが変わるから、対策の考えようはあると思うね」
「その考えでは、将棋をリューオ様と指す機会があれば何度でも泣かせられそうですなぁ、楽しみが増え申しました」
「…将棋ねえ、知ってるんだ」
「棋院の知人もいましたし、そのへんは自信ありますな」
将棋って何か知っているだけで、もう概念のすりあわせだの、意思疎通の可能性とか、全部意味ない気が。
こいつも、アレだろ…。
つまりオーク何とかのゾンビ兵器も、あれ、非道だなんだではなく、廃材でロボット作るような、アニメのノリでやったんじゃないかな。
急に、何かと、疑問が次々解消していく。
「魔王の城の近くにコンビニとかは、まさかないよな」
「作りたかったのですが、ラッピングがやはり、だれにも通じませんでしてな、困ったものです」
「もう、隠す気ない過ぎてお前がなんで来たのか、よくわかったわ」
「いづれ殺し合いを楽しめるその時まで、数少ない接点を分け合って仲良くいきましょう、リューオ様」
「楽しそうだな…」
「それはもう、わからないご様子のリューオ様を観察するのは楽しいに決まっているではありませんか」
「やっぱり悪魔に向いてるよ、お前さ」
意地が悪いかどうかは、転生がどうの、生まれがどうのに関係ないんだな。
そう、内心思ったりしながら、思案は進める。
「ある程度腹は割ったところで、その、攻めてきてほしくない理由は、いい加減言ってもらえるのかな」
「それはですな」
言って、老人は指でそっと、上を指した。
それでわかると思っているとは、思えない。
「リューオ様は、終末遺跡が何かについて、細かく聞いておりますかな?」
「前の文明の遺産みたいな話くらいかな」
「わたくしめ、いえ、我々は、そこからが違うと思っています…それが、これの答えです」
「前や過去ではなく、地下でもなく……空?」
「もしくは虚空、さらに宇宙…」
「さすがに変な飛躍じゃないのか」
考えることがある程度絞れるようになったとしても、だます気があるかとは、それは別だ。
警戒が解ける、という話では全くない。
「口で信じる話のレベルかね、それは、さ」
「わたくしめとしましても、結論を出していいのか決めかねる部分はありますよ。ですから、ディスクもそちらで見られるよう差し上げる話を提示しましたし、今このように、疑問を再考証すべく、付き合っていただいております」
「身内じゃ話にもならんと?」
「遺跡に興味を持つものは、少のうございましたな…でしたから先代の魔王様に心から心酔し、遺言を果たす覚悟があるのですがね」
「ああいうのも倒される以外で代替わりあるんだな」
「三年前ですか…本当に惜しまれます」
「いや!?ちょっと!言っていい話かそれは!?」
すごい内情を、さらっといったな!
「今の魔王は、歴代としても誇るべき強さですので、むしろ問題はないかと思っておりますが?」
「それについても、色々言うことで何か別の側面で引っ張りこむ要因にしようとしていたりしないだろうな」
「ま、どうでしょうな」
企んでそうな目は…いや、ずっとしているか。
「一度話を戻しましょうか、現状の我々の領地、見つけた限り七つの終末遺跡があります」
「世界全体で三つしかないと言われてるものをか?」
「そこですよリューオ様、うち五つ、それが、埋まっているものではなく、置かれたような形で二十年以内に見つかっているのです、極めて綺麗な形で」
「そこが、妙と」
「リューオ様が持っているディスクと違い、それらで見つかるディスクは何かの対策のように力と仕組みが簡素です、手渡していいものかを選んでいるように」
「お前と同じじゃないか」
「ですねぇ。ですので、作られた年代から違うものなのか、我々の仮定を確証に変えられる誰かの調査も我々は欲しました、そして、それが別地方にもあることなのか」
「聞き覚えはないね」
「ディスクの時点で、我々にとっても脅威はありますし、野生生物にちょっとずつ見えない被害があることも確認はしました」
「懐かしいUFO特集を思い出して怖くなった、なんて言い出さないだろうな」
「そして…一度だけ、ある方の部屋に何者かが侵入し襲われる事件がありまして、それが出していたもの、それが簡素と思われる側のディスクでしてな」
無視したな。
茶化す話題ではないと跳ねのけて見せたのか、なんなのか。
「使っただけの権力争いじゃないか」
「リューオ様と同じような空間切断を使えるものが、魔力で瞬時にできるものとなると、存在しないのです」
「…キューブもまた別に見つかってるのか」
「いえ、いないのです。それに加え、そいつらの姿で、人間でも魔物でもなく、別の介入があるものなのだと結論を出すこととなりまして、先代様はその対策に力を注がれることとなりました」
「それだけだと、釈然としないぞ…話だけのものではないんだろうけど」
「深く話せるのは、後は少ないですねぇ。我々としても手持ちの残りディスクについてあまり詳細は話したくありませんので…言えるのは、ディスクを奪いに来た可能性がある、ことくらいでしょうか」
「ディスクが欲しくて空間をいじれる、か」
「あれを絞って探知をできる、などという技術は誰も持っておられないはずです、そちらの技師の方でも」
そこで、あれを元々作ったか、もっと技術に深い知識がある「別種の生き物」であるという結論を出す、か。
辻褄は合うかもしれないが、こいつくらい騙しや他者の利用を多めに使いそうな雰囲気の奴が、交渉なしの徹底抗戦する理由。
そこまでになる理由を全部聞けたのだろうか?
どこまで本当でどこまでウソか、隠しているか、見極める脳みそが欲しい…。
「我々はそれらを総合的に判断し、今やらないといけない対策に立て込んでおりましてね…人間に構う時間が惜しいのです」
「だが、まてよ。それだけ大義がありそうで共通の敵になりそうなら、むしろ人間側と協調して仲良くやれる可能性をもっと大っぴらに探れるはずじゃないか」
「…やったのです、やった後なのですよ、リューオ様」
「いつだよ」
「断続的に先代が十年は使者を送りつつ、内々でやり取りしておられました…もうその解決策は道がないがゆえにこれです。人間や獣の亜人の欲に果てしなくは、正直さすがに付き合えんのです」
「正直、今の話全てが嘘だという可能性は頭の端に入れながら、あんたの話の整合性を見ているつもりだが、まぁ、そこは疑わんな」
「おやおや、そこの心情をあまりこちら側に寄せては、そちらのほうが、あちらの軍を率いるときに問題なのでは」
「お前に心配されたら、おしまいだな……」
「まことにその通りで」
ついでに、忘れかけていたが、部屋の端の鎧が少し殺意ありそうに顔を向けていた。
軽口すぎると気に入らんのかな、こいつの性格は。
とにかく、やたら色々情報を出してきたのは意外であり、興味深いのは確かだ。
あの手この手で絡めて、しかし裏切れとは言わず、味方にしようと積極的でもない。
直接的に言えば敵意を生むと読んでいるだけかもとは、思うが。
「どちらにしろ、そちらから強めの要求があるのであれば、こちらの何かしらには応じられる用意はある、ということだよな?」
「脅しではないのです、我々にすぐにできることであれば、こちらも誠意は見せられることでしょう」
「この村、なんなんだ?」
「……おや、聞かれますか。グレーなものであるからこそ、本日のような和やかで能天気な日々があるものと、皆々様が心に秘めているものだと思っておりましたが」
「聞いたところで黙っていることはできるんだ、知っている話はしてもらう」
「やめておいた方がいいと言われても…ですか」
「もう、何も知らないとは言えない口ぶりじゃないか、話してもらうよ」
何を聞いても、失望はしないと思えるだけ、ここの人たちに思い入れを持ってしまったから。
読み飛ばしても通じそうな設定語り回で本当に申し訳ございません




