マオ=マオ かりのすがた L84
「あら、用心棒の方もいらしているんですか」
「やっぱりいいわね、いつでも入れるし、お湯加減もいいし!」
ぞろぞろと。
「本当ねぇ、バカ犬がいる」
「お、押さないでムカちゃん…」
「行かなきゃダメでしょ!ここは!」
ぞろぞろと。
「食後はやっぱりお風呂よねぇ」
「お酒も届けてもらえるのでしょ、ね?」
「やったぁ休憩だぁ!」
「世の背中を今押したの、だれなのじゃ…」
ぞろぞろと。
「まぁまぁ、いいタイミングですこと、本当に!」
ぞろぞろと、次々に人が飛び込んでくる。
広場に入ってくる時点で、みんな、裸のまま。
どうなってるんだ、本当にみんな。
端に追い詰められ、入っている湯船のスペースがもう危険だ。
どうしてこんな事態になってしまっているんだ。
頼むから教えて欲しい。
僕が何、悪いことしたんだ。
「あらぁ、何でしたら、思ったように、好きなことを…しても、よろしいんですのよ、リューオ」
腰に手を当てて、立ちはだかるかのごとく堂々と、僕を見下ろしてくる村長の近くのお嬢様。
凄い景色過ぎて、一瞬「見て」しまったが、目を合わせられない。
万一に、万一にだが、昼のことで許す気がなく、困らせる気で集めて見せました、というなら、言って欲しい。
ちょっと怒るかもしれないから。
今は、そんな勢いもないから、なんというか、隠れたい。
振り向いても、横を見ても、どうしよう…裸しかないな、この村。
「ほいな!泡だらけになる石鹸!お届けにきたで!」
「え!?」
声に反応して、がっと、思い切り見てしまう。
大きな箱を持ち上げて小走りしているマリカさん。
…はじめてマリカさんの脱いだ姿見ちゃったかもしれない…。
見飽きたよ!そんなのありすぎてと調子に乗ろうかと思ったその前に、どうしたらいいものか…かなり興奮している。
持ってきたのは、たぶん、あっちの街で流行りになっていた泡が噴き出すボトルだろうな。
作り方を分解して調べてたもんなぁ。
「洗ってあげましょうかぁ?」
「ひ!」
腕を引っ張られた。
マリカさんを、ちょっと執拗に見つめちゃった隙に。
いや?これ、あれだなぁ。
挟まれてるやつだなあ。
「先生…まずいまずいまずい」
みない。見れない。
「あらあら、こういったものを望んでいるものと確信していましたのですがねぇ?」
「もう!先生は色々知ってて抜け駆けしようとするんですから!」
早速泡だらけになって、先ほどのお嬢様の位置から同じように仁王立ちになっているのが、今度はタマ。
途中から気にも留めてなかったけど、やっぱり普通に傷もなく生きてるんだな、君。
あんまりに世界観違うから流石に名前覚えたわ。
「どうせなら、背中を流したらこっちもしてあげるくらいの制度にしてくださいませ、ほらほら!」
引っぱり出される僕。
「ひい!!??」
その勢いで股間の泡にもろに顔を突っ込まれる僕。
わざとなのかどうなのかは、聞かないからな絶対。
即座に離れて顔を洗って見渡すと、周囲がもう完全に、泡だ。
みんな、みんな、遊びを満喫して広場中を泡まみれにしている。
何だか知らないが、こういうものを失わなくて済んだんだというのを…。
かみしめて、見られている時間。
少しだけ、ちょっと感傷的で泣きそうな気にもなったが、我慢。
それ以前に、もう見えているより余計に、いやらしい空間になった気もして、地味に気が気でないのも…。
「ぼーっとしとるんやったら、ウチのほう来て、ちょっと洗ってくれんか?」
「あっ、は、はいっ!」
勢いで返してしまった。
マリカさんの体に、割と好きにさわれる…ゴクリ。
で、その辺のレンガの余りに座っているマリカさんの後姿をまじまじ見て、タオルで洗う。
ちょっと、幸福感。
あの日の心の痛さの報酬がこれだと言われると、それは納得して済ませてよさそうレベルで。
「…お流しして、いいですか?」
「…!…え…」
この声は、あの最初の日の子…だなぁ。
するりと後ろにいて、僕の体を洗ってくれる。
「ありがとう、ございました…私、ずっと言えなくて…」
「おぅおぅ、モテモテやねえ」
「なんていったらいいものか…はは…、ありがとう、ね」
「いえ、幸せです私…」
これが何とも言いにくい構図になっているのを、僕が気付く日は相当先だ。
さらにそのうしろに薬屋さんの子がいたり、なんか複雑な感じっぽかった数分を知るものは少ない。
そのまま、洗ってくださいの行列が出来たり無くなったりしたのを処理したりしなかったり。
広場の洗いっこは、なんとも平和の空気を醸し出す、楽しげな空間になった。
その中。
「用心棒さん…こっち、こっちもっと、洗ってくれません、ねぇ?」
「あ、ぅぇ…あっ…」
「おかあさま、さんぽ、さんぽ!」
「いゃぁん!飲み放題なのに、こっちが制限ありなんて、なんか違うと思うわー!」
正面から、ほぼ馬乗りになってこようとしたお母さんを、お嬢さんが、すんでのところでひっぱっていく事件があったり。
「おまえ、世の役に立つのだよな?」
「え、はい…」
「なら、そら、はようするのだ」
正面に正座する、誰か。
「いや、後ろを向いてください…」
「めんどうなやつなのだ」
そこは、素直にすぐ後ろを向く。
頭を、というか、まぁ髪がまとわりつかないようにタオルで巻いて束ねるのは当然ではあるが、何か大きい子。
胸はそんなないわりに…と直接言ったら殴られるから言わない。
「こちらは、しっかりお任せくださいませ」
誰かがまた来て、その子の腕、足等を丁寧に洗う。
二人で取り囲んで全身洗っているような構図。
そして、すぐ、抱えられて去っていったりすることがあったり。
「やーっと、お忙しい時間が終わりましたよう、で!」
「お、おこってます?」
「…そ…そんなこと、あるわけございませんでしょう?私は美しく何より広い心がある、世の並ぶべきもののなき華、なのですから」
「でしょうとも、そうですよねぇ」
それなりに人も減った中、この人の背中を流しながら、軽口が出るくらい上機嫌になったことにホッとする。
「リューオも、わたくしの体に触れられて、この宝石を綺麗に磨けるのは、嬉しいでしょう?」
「そりゃもう、はい」
肌は本当にきれいだと思います、本音で。
「で、わたくしの名前、ちゃんと覚えたのでしょうね?」
「は、はい…その、え?」
凍る。
そして。
バシィッ!!
「嫌いですッ!!!」
倒れる勢いで平手をくらった。
ごめんなさい、本当に僕が悪かったです。
しかし、それどころでもなかったので、そのうち頭を下げるので許してください。
実は、洗ったり洗われたり、和やかな時間の途中。
一人、誰かに後ろから言われた言葉があったのだ。
「夜は時間を空けておいてください…それと、あの方に遊びのように手を出したら、事情がどうあろうと殺しますから、あなたを」
誰かわからないそれを、必死にずっと考えていたのである、途中から。
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